変り映えの無い素晴らしき日常
Prrrrrr......Prrrrrr......
「んぁっ・・・・・・。ぅん・・・・・・。」
Prrrrrr......Prrrrrr......
「んぅん・・・・・・ぅるさぃ・・・・・。」
Prrrrrr......Prrrrrr......
「・・・・・・はい。もしも――――。」
「おはようございます! ゆーたん先輩。今日もいい天気ですね!」
「・・・・・・お掛けになった電話は現在使われておりま――――。」
「あ、ゆーたん先輩朝からお元気ですね! でもそんなつれないゆーたん先輩もぼくは大好きですよ!」
「はぁ・・・・・・」
現在の時刻、AM6:30・・・・・・土曜日。
今日は日本全国の小学生、中学生、高校生皆さんお待ちかねの一週間の中のパラダイス。
何者にも縛られない幸せな一日。部活生諸君は一日を大好きな部活で謳歌でき、勉強好きな人は今日は好きな科目に好きなだけ取り掛かることができ、遊びたい盛りの人にとっては友人らと前もっての約束を思う存分楽しむことが出来る一週間の中の大切な日。
そんな幸せな朝。
僕の大切な睡眠時間を、無機質な単音を響かせ、快眠の邪魔をしたのは平日・祝日・祭日・土曜・日曜に毎日同じ時間AM6:30に掛かってくる1本の電話である。
優。片岡 優。
僕の通う高校、私立片岡学園中等部1年―――今年から2年所属。兼、理事長の子というVIPな人物である。
そんな彼が何故、毎日僕にモーニングコールをしているかというと、これには深い理由があったりする・・・・・・などということはない。
命の恩人? 昔からの幼馴染? 登校初日の遅刻で食パン咥えた女の子とバッティング?
そんなギャルゲーのありがちな設定ではない。
そもそもソレは成り立たない。
ではなんなのかというと。
いわゆる・・・・・・ストーカーなのだ。
いや、うん言いたいことは分かる、分かるんだ。
実際僕の容姿より上の人間なんてものは、同じ学校でも中等部の生徒1500人中750人。すなわち半分はいるだろう。
一転、頭脳明晰? いやいや、僕の知力は中学1年に入って受けた英語の授業。『I'm Yuta.』で終っているのだ。
つまり、あまりよろしくはない。が、とてつもなく頭が悪い! というわけではない。
そういえば、たまに聞く風の噂で気になるものがある。
片岡学園には3年に一度ほどのペースで教師間通称『Mr.incurable』という人間が現れるらしい。
『Mr.incurable』意味は分からないがかっこいいではないか。仮にその『Mr.incurable』を特別枠の『とくわちゃん』と命名しておこう。
まぁ、そのとくわちゃんなんだが・・・・・どうやらこの学年、すなわち春から3年に進級する僕の学年にいるらしい。
まぁ、それが何処のクラスの誰なのか知る由もないのだが。
少し話しが脱線してしまったようだが元に戻そう。
つまり先にあげたように僕の頭は良く言っても中の上、悪く言えば中の下といったところだろう。
じゃあ何故そんな僕にVIPである優がストーキングなどをするのだろう。
その答えは、ない。証明不可能なのだ。
僕と優との間に接点など名前が似てるということだけなのだから。
財津 祐太、これが僕の名前である。平々凡々といったところだろうか。
しかし、珍しくもある。
『ザイツ』ではなく『タカラヅ』なのである。
片岡 『優』
財津 『祐太』
優と祐太。平仮名やカタカナで表記してしまえば一文字違い。
だからどうした? 確かにだからどうしただ。 たかだか、その程度の関係のはずなのだ。
それに『ゆう』のつく名前の人間なんて腐るほどいるだろう。
その中で何故僕なのか。 その解はいまだに出てこない。
一度聞いてみたのだが、
「ゆーたん先輩だから大好きなんですよ!」
「理由なんてゆーたん先輩だからに決まってます!それ以外に理由なんていりません!」
「ゆーたん先輩、ずっとついて行きますね・・・・・・。」
とそんな感じの一点張りなのである。
うーむ、分からん。
一体何がこの子をここまで動かすんだろうか。
「・・・・・・たん先輩! ゆーたん先輩! 聞いてます?」
「聞いてない、切っていい? 寝たいんだ、いいね。文句は言わせない、異論も認めない、賛同以外の言葉は口に発しないでくれ」
有無も言わせぬ華麗な言い回し。今日は噛まずに言えた。舌のまわりが軽快であることに僕は大いに満足だ。よし寝よう。
「では、おやす――――。」
「せっかくの土曜なのに・・・・・しかたありませんね。今日はゆーたん先輩の部屋のカメラでずっと観察しとくだけにしときます。」
「みと思ったけどやっぱ健康的で規則正しい生活が一番だよね! で? カメラは何処だい優?」
何この子怖い!
いつウチにカメラなんて仕掛けたんだよ!家に呼んだことなんていちどもないはずだぞ!?
もう犯罪者だよこの子・・・・・・。
「ぼくゆーたん先輩のことは何でも知りたいんです・・・・・・。」
・・・・・・だめだコイツ、早くなんとかしないと。