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男の娘が魔女になって大変な目に遭う話  作者: クエクト1030
1章 魔女社会というもの
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9話「強くなりたくば喰らえ」

「ムネメ先輩、私に戦い方を教えてください」


「……ほう?」



 僕は他のメンバーがいない時を狙い、ムネメ先輩に戦闘の教授を願った。


 その理由は勿論、他の人たちに心配させたくないからだ。

 襲撃からまだ数日。傷は治ったけど、こんな事知られたらまだ安静にしてろって心配されるに決まってる。


 ムネメ先輩はそこらへん分かってくれそうだし、あと気にしないでいてくれると踏んだのでお願いしたわけだ。


 何より一番強そうだし。マリシオの時の瞬間移動?のあれは絶対強いでしょ。



「構わないが、何故俺に?」


「ムネメ先輩が一番強そうだと思ったからです」


「フー……違うな。俺らの中で一番強いのはリーベだ」


「え。」


「お前、リーベを庇って重傷を負ったんだってな。それでも既に回復してるのは驚異的だな」

「まぁ大方、その件で力不足を実感して俺の元に……って所だろ。どうだ」


「うっ。」



 分かってくれてたけど、思ったよりも図星をつかれた。



「まぁ、はい。その通りです」


「わざわざ庇わなくても、リーベなら自力でお前ごと守る事は出来た」

「要らん世話を焼いたわけだな」


「仰るとおりです……」



 ぐぅの音も出ない。心の傷に塩を塗り込まれる感じ。

 まぁ自業自得だから仕方ないんだけどさ。



「ははは、悪い悪い」

「意地が悪かったな。いいぞ、戦い方を教えてやる。」

「それに……“戦い方”って言い方をするくらいだ。何か狙いでもあるんだろ」


「先輩が実際に戦う姿を見たわけじゃないですけど、ムネメ先輩は何というか……魔女らしくないように思えるんです」

「あ、悪い意味ではなくって。それに、フェイの一件で僕を投げ飛ばしたのと、追いついてキャッチしたので、何というか……型破り?で、絶対に強い人だってことは確信していました」


「ほぉ、良い着眼点だな」

「そうだな。俺は魔女らしくない、と言えるだろう。そもそも異端だな」


「異端、ですか」


「俺は業術(ごうじゅつ)と呼ばれるものを主に使うからだ」


「業術?」


「魔法とは、魔女が解明した魔法法則に基づいて魔力とその命令式である術式を組み合わせる事で現象を生み出し利用する行い、概念の事だ」

「対して業術は、特定の現象を特定の動作によって直接使用する技術を意味している。つまり、魔法法則に基づいた魔法の知識の累積とを異にする現象へのアプローチ、技術体系だ。魔力も使わない」


「魔女は魔法を使うもので、魔法という形で好きな現象を利用する。だからその……自分たちと同じやり方をしないで任意の現象を利用するから、業術を使う人は異端?」


「そうだ。」

「まぁ強ければわざわざ文句を言ってくる奴はいないがな」


「ずいぶん勝手な考え方ですね。安全に使えれば何でもいいんじゃないですか?」


「くくっ。その通りだ。お前とは話が合うな」



 いつものように、ニヒルな笑いを浮かべる。


 ヒルフ派の話とか男の魔女の扱いとか、あとこの前の悪戯フェイのマリシオとか。なんというか、この世界も割と虐めなり差別っていうものはあるみたい。ある意味物理世界よりも強いのかも。



「とはいえ。業術は覚えるのに時間がかかる」

「それに使えるものは多い方がいいだろう。魔法、業術、基本的な魔力操作。そして戦い方。覚える事は多いぞ」


「大丈夫です、必ずついていきます」


「よし。よく言った」

「なら早速行くところがある。ついてこい」


「はい!」



 僕はムネメ先輩に連れられて、その行くところとやらに足を運ぶ。




☆☆☆




「ぐふっ……」


「そんなものか?フー……ミコ、お前の覚悟はその程度だったんだな」


「ま、まだまだ!」



 僕は吐き出しそうなものを何とか飲み込んで、次の手を伸ばす。

 何にかって?



「はーい、ステーキ追加ですよー」


「強くなりたくば喰らえ。」



 ご飯にだ。



「く、お、お腹が……」


「はぁ。お前はヒョロい、ヒョロすぎる。ロクに食い物を食ってこなかったなお前……病弱、貧弱、惰弱。先ずは喰え。肉をつけろ」


「あの、いきなりこんなに食べるのも健康に悪いんじゃ」


「なんだ、必ずついてくるって言ったんじゃないんだったか?」


「うぐー!」


「ふん。それに魔女ならどんな無茶をしても食い過ぎで死ぬ事なんざない。無理して喰え、喰いまくれ!」


「うわああああ!!」



 僕はその後、限界を超えた限界を迎えるまで食べ進めた。

 お腹がこんもりとして周囲の目が気になったのは内緒だ。




☆☆☆




「よし、とりあえず動きを見せてもらおうか」


「うぷ……はい」


「吐くなよ、全部消化しろ。動きながらな。」



 場所は移動して、現在地は魔法戦闘用屋外実験場。通称、屋外運動場。

 野球コートくらいは余裕である広さには太陽の光が燦燦と照り付け、陽炎すら見える。


 無茶言うなこの人!マジで苦しい、今にも口から全てがまろび出そう!



「基礎的な魔力弾くらいは覚えてるだろう。覚えている攻撃魔法含めて何でもいい。俺に一発でも当ててみろ」


「はいっ!」



 僕は単純に魔力を圧縮しただけの魔力弾や、この前覚えたばかりの火属性の攻撃魔法、力属性の貫通魔法などを試す。


 が、全部当たらない。もしくは全部弾かれる。うそぉ。

 弾速は全力で野球ボールを投げるくらいなんだけど、素人でも時速80kmくらい出るらしいし、普通それに対応なんて出来なくない?


 あとどの魔法も授業では机くらいなら燃やせたり、簡単に貫通出来たんだけどな。なんで弾けるんだろうね??



「狙いは悪くないな。速度はそこそこか」

「そこ、甘い」


「痛っ!」


「次は俺が攻撃する。対処してみろ」


「は、はい……」

「え?」



 今度は僕が受けに回る番になり……瞬きをした瞬間、ムネメ先輩の姿は消えていた。


 そして四方八方から魔力弾が無数に飛んでくる。弾幕すぎる、回避なんて無理でしょこれ。そもそも正面から捌くのすら無理だし、心なしか背中に集中的に被弾する。めちゃくちゃ痛い!



「ぐはっ……」


「やっぱ身体がクソ雑魚すぎるな。ハハッ」



 僕は痛みと身体の重さに耐えきれず、そのまま無様に床を舐める事になった。

 あ、ちょっと出そうっ。



「おい吐くなよ。全く」

「ふむ。お前、反応はいいが身体の方が全く追いついていないな。反射的な動きも筋肉がものを言う。鋭敏な反応も、複雑な作業も美しい筋肉から作られるものだ。そして、自分の動きをトレースする認知能力……」

「まずは筋トレ、そして食事だ。」

「安心しろ、飯代くらい幾らでも出してやる。フフッ面白くなってきた。」



 薄っすら察してきたけど、戦いの基本は武道家とかスポーツ選手と基礎は共通しているらしい……つまり基礎体力、筋肉、反射神経。


 魔女だから魔法使うと思ったら、やってる事が筋肉すぎるんだけど!



「ぐふぅ……」

「さ、さっきの、ムネメさんの番……あれ、この前の襲撃の当てつけですか」


「鋭いな。フー……その通りだ」

「お前、どうしようと思った」


「回避は無理だと思いました。対処するなら魔法で受けるしかないと思います。けど防御用の魔法なんて持ってないのと、そもそも展開するのも追いつきませんでした」

「誰かが一緒なら、余計に逃げることは論外。魔法を展開する速さと使える魔法の習熟が必要……」



 そう。僕が求めるのは自力の向上と、何より誰かを守るための力。

 そのためには奇襲に反応出来た上で防御するための魔法が必要。


 まだ具体的にどういう仕組みのものとかは分からないけど、どういう方向性で勉強すればいいのか、方針が立たない事には何も出来ないからこれで一歩前進だろう。



「そうだな。ソロなら防御魔法なんてあってもなくても変わらんが、お前らの考え方なら必要になってくるだろうな」

「なら覚えるべき魔法も分かったわけだな?」


「はい」


「業術は基礎的な体力強化、あと魔力操作の特訓と同時に行う」

「覚えられるかどうか。そしてその早さと練度はお前次第だ。出来ない奴はできん。運動神経がないやつは特にな」


「やってみせます」


「ついてこい。お前の本能に染み着くレベルで、叩き込んでやる。」




 そうして、秘密の特訓計画がスタートした。


 この特訓計画の目的は、みんなを心配させない事の裏にもう一つ目的が存在する。

 それは、きちんと自分一人で仕返し、ケリを付けれるようになる事。


 数回の(僕にとっての)事件で、圏域外派のみんなが優しい事と、それはそうと魔女自体の倫理観がアレな事がやっと実感できるようになってきた。


 なので、一番穏便に今回の件を解決するんだったら僕自身がきちんと強くなって、「ある方法」で決着をつけるのがベストだと考えたわけだ。




 その方法とは、「決闘」だ。


 僕は実力をつけた後、あの魔女を探し出した上で決闘を申し込み、打ち負かした上で謝罪を要求する。相応の実力はムネメ先輩が保証してくれるだろう。


 そしてその時はそう遠くなく。

 犯人を捜し、決闘宣告を行う事となる。




 ……ちなみに特訓中に時折、完膚なきまでにボコボコにされる所が見つかって、顔を真っ赤にしたリーベ先輩にムネメ先輩共々一緒に怒られたっていうのは、また別の話。

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