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20.


 ・3月6日


 俺の真正面には、湯浅雅がにこやかに座っていた。


「峰くんとこうして二人でお話しする機会って、あんまりないわよね」

「…そうですね」


 俺自身が避けているのだから、それも当然の事だ。

 二者面談当日、俺は苦手な湯浅と面談していた。

 いつも通り、湯浅はニコニコとしながら俺に笑いかけていた。


「何か困っている事とか、悩んでいる事とかない?」

「…特に何も」

「志望する進路とか、本当に明星大学の文系学科だけで大丈夫? 何かやりたい事とかはないの?」

「何もないです。出来ることを最低限やって食っていくんで」

「…先生ね、峰くんが気になってたんだ」

「は?」


 予想していなかった言葉に、俺は変な声が出た。


「朴くんや田原くんと一緒に笑い合っていても、どこかすごく悲しそうな、冷めた顔をしてるでしょ?

 それに最近は、随分気分が沈んでるみたいだし。

 だから、何かあるんじゃないかなーって思ってたの」

「……」


 何故だか無性に腹が立った。

 よりにもよって、何故こいつなんだ。

 何故こんなやつに、俺の内面を見透かされなければいけないんだ。

 上辺だけ笑顔を貼り付けたような女に。無難な言葉で全て済まそうとする人間に。

 そんな言葉が俺の頭に響き渡った。


「担任として、出来る限りのことはするから…」

「新婚お幸せな頭お花畑女に、わかってたまるかよ」


 俺は苛立ち紛れに立ち上がった。


「担任として、だぁ? ざけんじゃねー!

 本音じゃ谷川みたく俺ら全員見下してるくせに、よくそんなセリフが吐けるな」

「そ、そんな…私は見下してなんか…」

「嘘つけ! そんな張り付けたような笑顔でごまかしたって、俺には通じねぇぞ。

 心の底じゃ言い寄ってくるガキ共や谷川が鬱陶しくてしょうがないんだろ?

 俺みたいに楯突いてくる、出来損ないの不良バカが大嫌いなんだろ? 正直に言え‼︎」

「ち、違…」

「お前みたいなやつに、俺の何がわかるんだよ!

 もう二度と会えないかもしれない気持ちも、会ってもどんな顔していいかわからない事も、今まで本音で接したきたと思ってたのに、全然相手の事を知った気になってただけの、ただの間抜けだった気持ちなんて、わかるわけねぇだろ!

 せいぜい愛しの旦那様にでも愚痴ってろよ、さぞ全てを曝け出して愛してくれるんだろ?」

「……‼︎」


 その瞬間、湯浅は両手を口で覆った。

 両眼には大粒の涙を溜めている。

 俺はそれに一瞬怯んだが、そのまま言葉を吐き捨てた。


「と、とにかくわかった様な口聞くんじゃねー! 不愉快なんだよ‼︎」


 そう言い残して、俺は教室を出ていった。






 俺は自室で考えていた。

 恐らく俺の知る「春川葵」という人物は、明確に犯罪行為に手を染めている。

 そして何より裏社会の人間であるという事実が、俺を困惑させた。

 このままこの件に関われば、確実に身の危険がある。


(…それでも、会いたいんだ)


 間違いなく、人生で最高に好きになった人だから、だからこそ真相が知りたかった。

 例え彼女が、俺に対して全てを偽っていたとしても、その手を汚していたとしても。


『お前みたいなやつに、俺の何がわかるんだよ!

 もう二度と会えないかもしれない気持ちも、会ってもどんな顔していいかわからない事も、今まで本音で接したきたと思ってたのに、全然相手の事を知った気になってただけの、ただの間抜けだった気持ちなんて、わかるわけねぇだろ!』


 湯浅に言った言葉が、俺の脳裏に蘇る。

 会ってどうする? 確実にもう、彼女は一線を超えた存在だ、それでも側にいれるのか?

 葵は結局俺を欺いていたんだ、結局他の大人たちと同じだったんだ。

 それでもなんで俺は彼女のことが好きなんだ?

 そんなふうに考えを巡らせていると、机の上のスマートフォンが震えた。

 見ると、そこには見知らぬ番号が表示されていた。


(誰だ?)


 俺は電話に出た。


「もしもし?」

『あの…春川葵の母ですが、峰大河さんのお電話番号でよろしいですか?』

「お、お母さん⁉︎」

『突然ごめんなさい、娘の友達の彩綾ちゃんに電話番号を聞いたの。どうしても大河さんにお話ししたくて』

「室井さんが…?」


 彩綾とは、恐らく死亡した『本当の春川葵』の友達の室井彩綾の事だ。

 俺は何かあったときのため、橘藍美や室井彩綾とも連絡先を交換しておいたのだ。

 それが幸いして、こうして母が連絡をかけてきた。


『主人とも話し合って…やっぱり黙っておくのは、あの子達が報われないと思って、私たちが知る限り全ての事をお話ししたいんです』

「あの子達って?」

『娘と…あと、おそらく貴方が探しているであろう"春川葵”です』

「‼︎」


 やはり彼女たちも、俺の知る葵を知っていたのだ。


『でも電話ではお話ししにくいし、何より直接お渡ししたいものもありますので、一度家にお越し頂きたいんです』

「春川さんのお宅に、ですか?」

『はい』

「…わかりました。明日の放課後に、すぐ伺います」







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