18.
・3月2日
「失礼しまーす、二年の峰ですけど」
俺は生活指導室のドアをノックした。
「おお、峰か。入っていいぞ」
俺は横開きのドアを開け、中に入った。
谷川は奥にあるソファで、ふんぞり帰っていた。
大体放課後は、この男はこの場所にいる。
ここで生徒を説教したりする場合もあるし、何か仕事をしているか、あるいは今のようにだらけているか。
いずれにせよ、胸糞悪くなる光景だ。
「谷川先生、ちょっと話があるんですけど」
俺は不快感を押し殺しながら、谷川に話しかけた。
「おお、なんだ。わざわざ峰の方から質問なんて、珍しいな」
大股開きで座る谷川に、俺は言い放った。
「この前、繁華街で連れてたウチの女の子って、誰ですか?」
一瞬で、谷川の顔色が失われた。
「な、何のことだ…?」
「とぼけたって無駄だ。
この前駅前のラブホに、うちの制服を着た背の低いメガネの女の一緒に入っていったよな。
俺も未成年買春の上、自分の生徒に手を出すなんて、さすがに噂だろうとは思っていたが…つくづく最低な野郎だぜ」
高山に話を聞いて、俺はハッキリ思い出した。
遺影に写っていた春川葵は、駅前で谷川と歩いていた童顔メガネ女子だ。
おそらくは、こいつに買春されたのだろう。
「ままま待て! なんだ、何が目的だ⁉︎ 金か‼︎ 脅し目的か!」
「冗談じゃねーよ。
お前みたいな俗物脅したって、何にもなるわけないだろ。
彼女…お前と一緒にいた、あの女の子の素性が知りたいだけだ」
「す、素性…?」
「教えてくれないなら、マスコミでも何でも出るとこ出ちまうぜ」
「ま、待て! 待ってくれ! この通りだ‼︎」
谷川は地面に手をつき、俺に懇願した。
「だったら話せ」
「す、素性も何も…俺は何も知らない! ブローカーに指定された場所で落ち合って、ホテルに行っただけだ!」
「彼女の名前は?」
「”二見茜”と名乗っていたが…多分源氏名だ。本名なんて知らん! それにあの女子は、うちの生徒じゃない!」
「うちの生徒じゃない?」
「そうだ! 考えてもみろ、うちの生徒だったら、俺に名前も顔も知られているだろうが!
俺もダメージを受けるが、その生徒だって何らかの処分が下る、そんな事お互いのためにならないだろうが」
「…じゃあ、彼女は他校の生徒なのか?」
「そ、そうだ! 正直、本当に未成年なのかも怪しいところだ」
「ならなんでうちの制服を手に入れてる? なんで着る必要があった?」
「わからんが、仲間が手に入れたと言っていた…大方卒業生の横流しとかじゃないのか? うちの制服を着てたのは…単純に俺がオーダーしたからだ」
「何故?」
「…う、ウチの生徒としてるみたいで…背徳感が…その…」
「はぁ…見下げ果てた変態だな」
だがこれで見えてきた。
おそらく本物の春川葵の方も、身分を偽っていた可能性がある。
そして売春に関与していたということで、俺の知る方の葵との関連も強く疑われた。
まだ掘り下げられる可能性は深そうである。
「俊一、ちょっといいか」
「? どしたの」
「今度、澁谷と会う用事とかってあるか?」
本当にこの朴俊一という男は顔が広い。
持って生まれたコミュニケーション能力の高さで、老若男女根明根暗問わずに仲良くなってしまうのだ。
その中にはあろう事か、あの現役高校生半グレボーイ、澁谷尊も含まれているのだから驚きだ。
「ああ、そうそう! 今日の夜のパーティー、澁谷から誘われたんだよね。
それで『いつもつるんでる友達も連れてきたらどうだ』って言ってくれたから、二人にも声かけようと思ってたんだ」
俺は少し驚いた。
まさかあの澁谷が他人に気を使うとは、予想もしていなかった。・
しかし渡りに船とは、まさしくこの事である。
「ちょうど良かった。俺も澁谷に聞きたいことがあったんだ」
俺はその誘いを快諾した。
正直澁谷は恐ろしいが、それでも葵の事を考えたら、背に腹は代えられない。
ここで彼女の情報を手に入れられなければ、永久に足踏みする羽目になる。
「俺も行くよ。でも大河、澁谷に聞きたい事って何?」
「…簡単に言うと、前に言った女のことを知りたいだけだ」
「ああ、写真見せてくれたのね」
「…頼む、一緒に話しかけてくれ」
はっきり言って、俺は澁谷もその取り巻きも怖くてしょうがなかった。
どれだけ俺が虚勢を張っても、あんな本物の不良を相手に二人きりで会話など出来ようはずもない。
共通の知り合いである俊一と、友人である悠臣を介して出なければ、ろくに話しかけることすら出来ないのは明白だった。
「うん、いいよー」
俊一はあっさり快諾した。




