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15.

「な…何を言い出すんだ、君は」


 父親の方は酷く狼狽えていた。

 同時に母親の方も、両手で口を押さえていた。

 二人とも顔色が真っ青であり、動揺しているのは目に見えて明らかであった。


「本当です! 俺が知っている春川葵さんは、この子じゃありません!

 もっと化粧が派手目で、顔も大人びてる。写真だって持ってるんです!」


 自分の発言が嘘ではないと証明するには、写真を見せるしかない。

 俺はスマホを取り出し、彼女と撮った唯一の写真と表示しようとした。

 すると母親が、俺の手からスマホを叩き落とした。


「いい加減にして! 適当なことを言うなら出て行って頂戴‼︎」


 母親はヒステリックな金切り声を上げた。


「そうだ、君の戯言に付き合っている暇はないんだ!」


 父親も取り合おうとはしなかった。

 二人は立ち上がり、有無を言わさず俺の服の襟や袖を引っ張り、無理やり引きずるような形で部屋から出て行かせた。


「信じてください、本当なんです!」

「うるさい! これ以上騒ぐようなら警察を呼ぶぞ‼︎」


 結局のところ、力任せに玄関まで引っ張られ、放り出されるような形で俺は家から出る羽目になった。

 ガチャンと大きな音を立てて閉められたドアは、明確に拒絶の意を示していた。


「おい! 話くらい聞いてくれよ‼︎」


 ドアノブを回そうとしても、ドアをガンガンと叩いても、一向に反応はない。

 これ以上は無駄骨だろう。もしかしたら、本当に警察を呼ばれかねない。

 もはや退散する他に手はないだろう。


「…くそっ」








 自室にて、俺は煙草を吸うのも忘れて考えていた。

 あれは確実に葵ではない、別人だ。

 しかし葬式まで済ませているということは、確実に戸籍上は写真の彼女が春川葵なのだろう。

 では俺が春川葵と呼んでいた女は、何者なのか? そして何処へ消えたというのか?

 遺影の彼女は、通り魔に殺害されたと聞いた。

 死亡理由に事件性があり、なおかつ犯人が捕まっていないのであれば、警察は今も動いている。

 俺が唯一持っている葵の写真、これを捜査資料の一つとして保管し、あわよくば彼女の行方を探し出してくれるかもしれない。


(…いや、よく考えたら駄目だ)


 この写真に写っている彼女が春川葵だと証明する術、というより彼女が自身の名前を騙っていたと証明する手段が何もない。

 それにこの写真の葵と、遺影に写っていた本物の春川葵と関連のある人物なのか、それさえも証明する術がないのだ。

 高校生のガキの妄言だと見られるのがオチだろう。

 気がつけば、俺は手詰まりになってしまっていた。


「…!」


 そういえば、と俺は思った。

 遺影の彼女は、どこかで見たことがある。

 それがどこだったかは思い出せないが、割と最近の出来事だったはずだ。


(うーん…何にせよ、二人の事を調べないとな)


 その時、ふと思い出した。

 たった一つ、彼女たちの共通点であり、素性を調べる術があった。

 もはや蜘蛛の糸にも等しい手がかりだったが、今はこれに賭けるしかない。





 ・2月27日


「藍美と連絡を取りたい?」

「ああ。お前の元カノ、確かガハラの三年だったよな」


 翌日、三人で教室でだべっているタイミングで、俺は俊一に話をつけようとした。

 俺が聞いた話では、俊一が以前付き合っていた彼女の中に、芦ヶ原女子の生徒がいたらしい。その女子も例外なく、俊一の女癖に愛想を尽かしたらしいが。

 その名前は橘藍美というのだけは、俺や悠臣も知っていた。


「別にいいけど、何で?」

「大したことじゃねーよ。知り合いが最近顔を見せないから、ちょっと様子が気になるってだけだ」

「ガハラの知り合い? 大河、それは無理があるよ。

 様子が気になるなんてくらい心配する仲の女子なんて、そりゃ付き合ってるレベルじゃない?」


 悠臣は、やはり侮れない。

 こうしたところで的確な洞察力を発揮してくるのだ。

 彼が何かの理由で敵にまわったらと思うと、想像するのも恐ろしい。

 しかしこうした裏付けができてしまった以上、もう以前の様に煙に巻くのも難しくなってしまった。


「え、タイガーってガハラの女子と付き合ってんの⁉︎」

「馬鹿、声がでけぇんだよ!」


 クラスが俄にざわついた。

 男子が女子と付き合っているだけで注目の的になるのに、それがこんな碌でなしとお嬢様女子校の組み合わせとなれば、奇異の目で見られるのは必至だ。


「まだ付き合ってはいねぇよ」

「ふーん。まぁ、そういう事にしておこうか」

「写真見せてよー、俺の知り合いかもよ?」

「…まぁ有り得ない話じゃないな。ほらよ」


 俺は持っていた葵との写真を、スマホで表示した。


「うーん、俺は知らないなぁ」

「でも可愛いじゃん。大河って、こういう子がタイプなんだね」

「タイプではない」


 実際、俺はもう少し大人しくて純粋そうな子がタイプだと、自分で思っていた。

 まさかああいうタイプと恋愛をすることになるとは、二十年近く生きてきて想像もしていなかった。

 おそらく世の中のカップルも、だいたいそんな感じなのだろう。

 付き合うならこんな人がいい、そんな理想を各々で描きつつも、最終的には側にいる想い人と一緒になる。

 そんなことにも俺は気がつき始めていた。


「まぁ、連絡先だけ教えるから、話は二人でしてくれよ。

 俺ももうあいつと話すのは気まずいからさぁ」

「ああ、それで構わない」


 俊一も、もう終わった恋人と話すのは嫌だろう。

 俺としても、ガハラの関係者と話せればよかった。

 そこまでくると、彼女と話す段取りを固める必要があった。





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