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9.

 ・1月29日


 待ち合わせた目的地の最寄駅、その改札前。

 休みの日だからか、人通りも心無しか多く、いつもより混み合って見える。

 普段なら何気なく通り過ぎてしまう景色が、今はどこか色付いて見えるような、そんな感覚になる。

 俺は個人的にお気に入りの服に身を包み、浮き足立つのを抑えながら葵を待っていた。


『今改札に着いた』


 そう彼女にテキストを送ると、すぐに返信が返ってきた。


『私ももうすぐ着くよ!』


 その一文が、とてつもなく俺を高揚させた。

 今日一日を葵と過ごすという事は、俺にとって一大イベントだった。

 しかしこんなことでは、いざ彼女に対面した時に笑われてしまう。

 子供扱いされないために、俺は平静を装おうと必死だった。

 経験はないが、こうしたやり取りが関係の深い男女同士が会う時は、よく起こるのだろう。

 そう思うと、やはり胸の鼓動が高まり、顔の表情が綻んでしまう。

 やがて葵はやってきた。


「お待たせー」


 制服ではない葵を見るのは、二度目だった。

 しかし前回夕食を共にした時よりも、今日の彼女の私服は少しだけ他所行きなテイストを感じた。

 白いムートンコートに、下はホットパンツと黒タイツを合わせて、少々気合を入れたのが伺える。


「げ…あんた何、その格好」

「何が」

「今日のファッションよ」


 葵が言う俺のファッションと言うのは、ヴェルサーチのシャツにUKレザージャケット、ジーンズにドクターマーチンを組み合わせたファッションだろうか。

 今日と言う日のために、俺が持つ服の中で一番高価かつ気に入っている服を選んだつもりだった。


「なかなかいけてるだろ?」

「ごつい、派手、近寄りたくない」

「はい⁉︎」


 一張羅を散々に言われ、俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。


「派手イコールいけてるってわけじゃないのよ」

「…派手なつもりもないんだが」

「あんたって、まじで私服のセンス終わってるわね」

「嘘でしょ…」

「今日のあたしじゃなきゃ、あんた一日中浮きっぱなしだったかもね」


 葵は意地悪く笑みを浮かべた。


「ほら、早くいくわよ」


 彼女は足早に、歩いていった。


「お、おい!」


 それに追いつくよう、俺も駆け出した。






「ここ、一度来てみたかったんだよねー」

「来るの初めてか?」

「うん」

「ならよかった。何度も来てるようだったら悪いなと思ったから」


 実際この遊園地は、この辺でも数少ない目玉の一つである。

 アトラクションが豊富で、県外からも観光客が来たりするし、稀に外国人観光客も見かけるほどだ。

 また夏にはプールが開かれ、地元の親子の憩いには必ず使われていた。

 そして俺たちの様に、男女同士で来るのも珍しくはない。

 普段は意識していなかったが、街中で見かけるカップルとほぼ同じだと考えると、顔面が熱くなりそうだった。


「じゃ、まずはあれ乗ろうよ!」


 彼女が指さした先は、フリーフォールだった。

 高層ビル並みの高さから、超高速で落下する乗り物に合わせて、かん高い悲鳴がこちらにも響いてくる。

 ある意味定番といえば定番ではあるが、それにしても初っ端から相当に刺激が強い。


「…マジで言ってんのか?」

「あれ、結構名物なんでしょ? 行こうよ!」


 葵の言う通りこの遊園地は、この手のスピードが売りの絶叫系アトラクションが売りであった。

 広告やらCMでも、大体タレントがジェットコースターで叫んでいるのがお約束だ。

 固唾を飲みながら、俺は頷いた。


「何、びびってんの?」

「びびってねぇ」

「ふふ、そういう事にしておいてあげる」


 そして俺たちは、フリーフォールの所まで向かっていった。

 俺はまるで処刑台への道を歩いているような、そんな錯覚を覚えていた。






「ぎゃああああああ‼︎」

「きゃーーーーーー♪」








「うわああああああ‼︎」

「きゃーーーーーー♪」







「ひえええええええ‼︎」

「きゃーーーーーー♪」








「はーい、買ってきたよ」

「…サンキュー」


 俺は彼女から二つのルイボスティーの片方を受け取った。

 漫画であれば、俺の姿は真っ白に描写されていることだろう。

 彼女がこの手のものが大丈夫を通り越して、快感に感じるタイプだとは思わなかった。

 限界を遥かに超えた緊張と絶叫で、数々のアトラクションを終えた後の俺は燃え尽きていた。

 複数回連続で絶叫マシンはきつい上、葵はあろうことか平然とした面持ちだ。

 もはや目眩がしてきた俺は、素直に降参してベンチに腰を下ろしていた。

 そして彼女も、俺の隣に座った。


「やっぱりあんたお子ちゃまよ、絶叫マシンもダメでコーヒー紅茶一切ダメなんて」

「うるせぇ…お前の神経がいかれてるんだ…ていうかカフェイン気持ち悪くなる…」

「どっちもスカッとするのに」

「俺はフラッとするんだよ…」


 その辺の感性は、正直分かり合えそうにない。

 いくらお互いの理解度が深くなっていっても、こればかりはどうしようもなかった。




「よーし、少しは回復したぜ」

「なら良かった」


 少しの間の休憩を経て、冷えたルイボスティーを口に飲み干した俺は、三半規管が多少はマシになっていた。

 時間は有限なので、アトラクションを効率よく回らなければならない。

 立ち上がってふと横を見ると、おどろおどろしい造形の建物が目についた。


「お、ありゃ…」

「!」


 俺がその建物を指さした瞬間、葵の身体が確かにビクリと震えた。

 一瞬ではあるが、その表情が少し強張っても見える。

 その瞬間を、俺は見逃さなかった。


(こいつ…)


 この挙動から、大体の察しはついてしまう。

 普段葵が俺に向けるニヤリとした笑みを、次は俺が浮かべる番であった。


「あれにすっか」

「え、ちょ、ちょっと…」


 今度は俺が葵に先行する形になった。




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