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今年も

作者: P4rn0s
掲載日:2025/11/06

「今年、時間過ぎるの早いね」

そう言ったのは、たしか昨日の昼休みだった。

同僚がコーヒーを片手に笑いながらそう言って、私も「ほんとにね」と笑い返した。

でも、笑いながら心のどこかで思っていた。

──それ、毎年言ってるな。


子どもの頃、時間はもっと濃かった気がする。

1年が永遠に感じた。

新学期が始まるとクラス替えに緊張して、夏休みは果てしなく長くて、冬が来るころには別人みたいに背も伸びていた。

でも、いつからだろう。

春が来ても、夏が来ても、秋も冬も、全部同じリズムで通り過ぎていくようになったのは。

まるで、景色の流れる早回しの映像をぼんやり眺めているみたいだ。


社会人になってからの1年なんて、カレンダーをめくるより早く過ぎる。

1月の寒さを感じたと思えば、気づけば桜が散り、夏の終わりには「もう今年も残り4ヶ月か」とか言っている。

毎年、同じことを言う。

毎年、同じ驚きを繰り返す。

まるで、時間に置いていかれることに慣れないまま、大人になってしまったようだ。


「慣れ」って、あると思ってた。

人は何にでも慣れる生き物だと。

失恋も、仕事の忙しさも、孤独も。

でも、時間の速さだけは、どうしても慣れない。

「もうそんな時期か」と驚くたびに、自分の人生がどんどん軽く薄くなっていくような気がする。

この一瞬一瞬が、自分の手の中をすり抜けていく音まで聞こえる気がする。


街のイルミネーションが点き始めた。

去年の冬も同じ場所で同じ光を見ていたのに、その「去年の冬」がまるで昨日のことみたいに近い。

あれから何か変わっただろうか。

誰かと出会って、少し笑って、少し傷ついて、でもそれも全部もう遠く感じる。

記憶の速度も、時間の速度に負けている。


今年が早いと感じるのは、

「去年からあまり変わっていない自分」を感じてしまうからかもしれない。

何かを成し遂げたわけでもなく、誰かを深く愛したわけでもなく、

ただ「いつも通り」に過ごしているうちに、気づけば季節がひと回りしている。

変化のない時間ほど、早く過ぎる。

それが怖い。

怖いのに、どうすることもできない。


たまに思う。

時計の針って、人間のために動いてるんじゃなくて、

「進み続けるしかない世界」の象徴なんじゃないかと。

こっちがどんな気持ちでいようと、秒針は止まらない。

誰かが亡くなった日も、誰かが生まれた日も、

そのどちらにも同じ速度で「1秒」が流れていく。


昔は未来を数えていたのに、今は残りを数えてしまう。

「あと何年、こうして笑えるだろう」とか、

「あと何回、春を迎えるんだろう」とか。

そんな風に考えるたび、胸の奥が少し冷たくなる。


それでも、人は毎年同じ言葉を繰り返す。

「今年も早かったね」って。

その言葉の裏には、きっと「まだ生きているね」っていう意味が隠れている。

早く感じるほど、何かを積み重ねてきた証拠なのかもしれない。

だからこそ、慣れなくていいのかもしれない。


時間の流れに鈍感になったら、それはもう人生を感じなくなったってことだ。

この速さに毎年驚きながら、それでも「早いね」と笑える自分でいたい。


夜、眠る前にスマホのカレンダーを開く。

11月。

ページをめくると、すぐに12月が見える。

もうすぐ終わる。

でも、終わるということは、また始まるということでもある。


きっと来年も、私は同じように言うだろう。

「今年、時間過ぎるの早いね」って。

そしてそのたびに思う。


ああ、永遠に慣れないこの感覚こそが、生きてるってことなんだ。

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