こたつ
頭がぼーっとする。どうやら、また、寝てしまったらしい。
こたつはぽかぽかと、優しく体を包みこんで、眠気を誘う。宿題が出来ていなかろうが、見たいテレビ番組があろうが、例外なく、眠気を与えるのだ。それでいて、起きたあとにも心地よさを持続させる。そして、結局、そのまま二度寝する。
それを繰り返し、とうとう四度寝をしようとしたのだが、流石に眠気はなく、眠ることも出来ないまま、寝転がっているのが、今の現状。
んーあ。
伸びをする。少し頭がスッキリした。
起き上がろうとしても、体が重くて起き上がれない。体が、まだ寝ていようよお、と自分の心を引っ張ってくる。やっとのことで、起き上がり、乾いた喉を潤そうと、籠の中に一つだけ残っていたみかんに手を伸ばす。柔らかいみかんの皮は、結構薄くて、剥きにくい。やっと剥き終えたときには、みかんの皮の断片が机の上に形の統一感なく転がっていた。
手の平の半分ほどの蜜柑は、口にいれると、程よく温くて、甘かった。何も入っていない乾いた口に、蜜柑の甘い果汁が染みこむ。おいしい、おいしい、と食べているうちに、あっという間に平らげてしまった。
無意識の内に籠に手を伸ばすけど、何も得られない。こたつから出て、ほんの五歩程度歩けばダンボールに蜜柑が山程あるのだけれど、こたつから出たくない。
そんな時。
「ただいま」
聞き慣れた声が天使のように聞こえた。
「ゆーた、お帰り」
私はにっこりと、満面の笑みで悠太を迎えた。悠太の鼻の頭は赤く染まっており、吐き出した息は白かった。脱ぎ捨てたマフラーやジャンバーは、少しだけ雪がついていて、部屋の温さに耐えられず、すぐに溶けた。
「ゆーた、みかん」
私はおもむろに、からっぽの籠に視線を滑らせる。
悠太は私の伝えたいことを察したのか、目を細めて、はあ、と溜め息をついた。
「俺、みかんじゃねえ」
悠太は揚げ足取りをして、そのまま、こたつに身を滑らせる。
「ねーえ、ゆーたくん、みかん取ってきて?」
「いやだ」
「そー言わずにー」
「やだ」
私は、むぅ、と頬を膨らませ、仕方なくこたつから出ることにした。悔しかったから、悠太のふくらはぎのところを少し痛いと感じる程度につねった。悠太のふくらはぎは、まだ冷たくて、私の手は温もりきっていた。
「いってえ」
「私のゆーこと聞かなかった代償」
悠太は私を優しく睨む。そして、口を開いた。
「梅昆布茶」
「はあ?」
「梅昆布茶作ってきて。あと、風呂入れといて」
「……」
「それと、みかん。俺の分も」
「何ソレ」
「俺の大切な体の一部をつねった代償」
私はべえっ、と舌を出した。
「ばーか」
そういいながら、恋しいこたつから這い出て、自分の分とプラス一個を籠の中に入れた。
最近オチが緩いのばかりですみません。
そして若干季節外れですみません。
この生暖かい距離感は書いてて楽しいです。
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