表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第二章  心は縦にひび割れて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/68

20  過去と未来の狭間にて

 家から外へ出た三人が、町の停留所へ歩いて行く。


「殿下」と近衛(このえ)騎士。「なんだか、ブロムナーさんのような交渉の仕方でしたね」

「たまたまだよ。――それより、手記を確認したい」


 そう言ったアランが、立ち止まった近衛(このえ)騎士が抱えている木箱に手を突っ込み、手記を取りだした。


「何か見つけたのですか?」

「ひとまず馬車へ急ごう。詳細は次の町の宿で話す」


 と言って、町の停留所に早歩きで戻ったアランは、借りた手記を黙読しながら馬車に乗りこんだ。

 アーシェと近衛(このえ)騎士は互いの顔を見合わせつつ、不可思議そうにしている。だが、今日中に次の町の宿に到着する必要があるため、二人は詮索せずにそれぞれ所定のところへ移動した。


 近衛(このえ)騎士は馭者(ぎょしゃ)台だが、アーシェはアランと対面する形で座るので、馬車が動きだしてから、


「殿下」と呼びかけた。「その手記に、何が書いてあったのです?」


 彼は手記からアーシェへ視線を移し、


「ラニータ様と再会したらしいことが書いてあったんだ」

「再会……?」

「正確な日付や場所は不明だが、どうも君を身籠ったあとに会っているらしい。それから、家臣も一緒だったとか…… 読んでみるか?」


 アランが手記を掲げると、アーシェは首を横に振り、


「あとでも(よろ)しいですか? 今は馬車が強く揺れておりますので」


 ――確かに。

 アランは手記を引っ込めて、(ふところ)のポケットへ入れた。


「その…… 君は家臣について、何か聞かされたりしていないか?」

「分かりません…… そもそも、貴族に家臣なんているのですか?」

「ベリンガールは大貴族を中心に国を統治してきた歴史を持っている。レイナック家のような大貴族なら支配階級だし、家臣のような立場の一人や二人はいても不思議じゃない。革命後、生き延びた家臣と合流したのかもしれないが…… とにかく、君は家臣の存在に関して、身に覚えが無いんだな?」


「――ひょっとすると私が忘れているだけかもしれません。幼少期に家臣と呼ばれている人物に会っている可能性…… それは否定し切れないと思います」

「なんとか思い出せないか? 幼い頃、母君の他に男性が(そば)にいたとか」

「覚えていたとしても、ホザー様のお姿くらいしか……」


「では、ホザー・トリナームが家臣だったと言うことか……?」

「そんなはずありません」と首を横に振るアーシェ。「()女の方が、ホザー様を家臣だと思い違いをしたと言うならまだしも…… 第一、ホザー様はトリナーム家の当主ですよ?」


「まぁ、そうだな…… 確かに、ロンデロントの貴族だ」と、(ほお)()くアラン。「しかし、そうすると家臣とは誰なんだ……?」


 アーシェを身籠っていたラニータが、どこかで()女の居場所を知り、ホザーと共に向かったのなら……


「むしろ」とアラン。「君が言うように、思い違いの方が可能性が高いのか……?」

「今のところは、としか言えません。ただ……」

「なんだ?」


「殿下や他の方々の期待を裏切ってしまうようで恐縮ですが、私はどうも、ホザー様の娘のような気がします」

「…………」

「ホザー様はお母様と()女へ会いに行った。そして、何かしらの協力を求めたのでしょう。それで、()女の方もお母様の力になりたいと思って、承諾したのかもしれません」


「しかし、君は()女の存在を知らなかったんだろう?」

「はい」

「君がお腹の中にいたとき、わざわざ会いに行ったほどの親密な関係だったはずだ。それなのに、どうして君には伝えなかったんだろう……」


()女の方は、事故でご逝去(せいきょ)されたのですよね? それは恐らく、かなり昔の話ではありませんか?」

「――少し待ってくれ、思い出す。報告書に書いてあったはずなんだ」


 と言うなり、アランが両腕を組み、バーラントから送られた報告書の内容を思い出していた。そして、


「そうだな……」と答える。「君の言う通りかもしれない」

「いつ頃なのか、思い出せますか?」

「確か…… 息子さんが十歳くらいのときだった気がする」


「そうすると、恐らく十五年前…… 私が生まれてすぐくらいに亡くなったと言うことになります。――息子様のご年齢は?」

「え~っと、ちょっと待ってくれ…… 俺よりは上だったはず」と(うわ)向いてから、「二十五か六…… だった気がする」


「なら、お母様が会いに行った時期はほとんど特定したも同然です」

「ああ…… 君が生まれる前に会っていて、君が生まれる前に亡くなっていると言うことになるな……」

「私が知らないのも無理ありません」


 沈黙が流れた。


「ちなみに……」と、口を開くアーシェ。「その()女の方は、どのような事故にあわれたのです?」

「畑に使う水を確保するため、用水路の先にある河川の方へ向かい、流されたらしい」

「そうでしたか…… ありがとうございます」


「まぁ、彼がベリンガールにいたくないと言うのも、致し方ないのかもしれない。彼にとってこの国は、母国と言うよりも、色々と起こり過ぎた場所なのかもな」


 アーシェは何も言わなかったが、どこか遠いところを見るような目で、窓の外を見やっていた。



 それから数時間が()ち、夕暮れになった頃、次の町の宿屋に到着する。そして翌日の朝、準備が整い次第(しだい)、目的地に向かって出発した。

 予定では、昼過ぎに首都のベネノアに到着する。

 アーシェが、どういう町なのか質問してきたから、


「かなり大きな町だよ。ロンデロントよりも大きい」と、アランが答えた。「そう言うわけだから、俺を知っている政府の要人が何人もいる。到着したら、変装して町を歩くことにしよう」

「変装……? そこまでするのですか?」


「変装と言っても、簡単なもので充分だ。昼ならそれでバレることは無い。とにかく、今の君を政府関係者に会わせたくないんだよ。引き留められる可能性が高いから」

「――逆に、私のことを先に伝えておけば良いのでは?」

「君のことって…… ホザー・トリナームの娘だと?」


 彼女が(うなず)く。


「悪いが、それは出来ない」

「なぜです?」

「君がホザー・トリナームの娘だと言うのは、あくまで仮説の一つに過ぎない。それは昨日、言っただろ?」


「そうですけど……」

「そもそもの話、君の父君がどちらであっても、母君はレイナック家の当主だ。つまり、君がレイナック家の人間であることに変わりない。そうだろ?」

「…………」


「前にも少し話したが、ベリンガールは秋革命のあと、国際的に見ても微妙な立ち位置にいる。国内だって安定しているとは言えない。だからこそ、大統領を始めとする政府関係者は、君の存在を使いたいと思っている。実際の父親がどちらなのかと言う問題は、さして重要ではないんだ」

「大貴族のレイナック家が存続していた…… それが保守層を取り込むのに重要なこと…… でしたよね?」


 アランが(うなず)き、


「そのことに協力するかどうかも含め、(のち)に君が決めたらいいことだ。今は、君の母君と父君…… いや、クロナード・レイナックが生まれ育った町を見て回ってほしい。両親の過去を想像して、未来の自分を想像してくれたら…… 今は充分すぎるほど、充分だと思っている」


 と言うと、アーシェは(うつむ)き、「分かりました」と答えた。


 ――どこか不安()にしている。

 アランは窓の外へ視線を移しつつそう感じた。

 両親のことで不安に思っているのか、見つかったらと思って不安に思っているのか、それとも、別の何かに対して不安を抱いているのか……


 色々と考えられるが、一つだけハッキリと言えることがある。

 それは、彼女がやっと『自分の未来』について考え始めたと言うことだ。


 ――未来のことは、誰にも分からない。だからこそ、必ず不安に陥る。

 アランはそう思いつつ、過ぎさっていく外の景色を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ