表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第二章  心は縦にひび割れて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/68

16  真実を告げるとき

 領事館に到着するまで、アランとブロムナーに会話は無かった。

 到着早々に出迎えた近衛(このえ)騎士が、ビリーの自宅での捜査結果を報告する。

 ブロムナーへの報告のことと併せて、近衛(このえ)騎士に礼を言ったアランが、アーシェのところへ行ってくるから、馬を馬小屋へ戻しておいてほしいと告げた。


 騎士が快諾したので、アランが正面玄関から、アーシェのいる客間を目指す。

 扉をノックしてから、


「アーシェ、レイアランだ」


 と声を掛けた。

 しばらくして扉が開き、メイドが顔を(のぞ)かせる。


「アーシェは?」

「ただいま、眠っております」

「そうか……」と言って、少し考えた。

「殿下?」


「ん? ああ、すまない…… その…… 悪いんだが、少しのあいだ部屋(へや)から出ていてくれないか? 俺から彼女に、話したいことがあるんだ。じきに夕飯だろうし、多かれ少なかれ起こさないといけないだろ?」


(かしこ)まりました。(わたくし)は休憩室におりますので、何かありましたらお声掛けください」

「分かった、ありがとう」

「では、十分後に一度、こちらへ戻ってきます」


 そう言ったメイドが、扉をあけてアランを迎えいれると、低頭のまま廊下へ出つつ、扉を閉めていった。

 アランは天(がい)付きベッドにいるアーシェのところへ近付き、レースカーテンを開く。


 ベッドに仰向けで眠っている彼女は、さながら人形のようで、無()な子供のようにも見えた。

 アランは彼女の肩口へ手を伸ばし、優しく揺さぶる。


「ん……」

「アーシェ…… 起きてくれないか?」


 柔らかい声音(こわね)でアランが言うと、彼女は眠り(まなこ)の顔で、彼を見あげていた。


「殿下……?」

「じきに夕食だ」


 アーシェが目元を人差し指の横腹で拭ってから、掛け布団をよけつつ上体を起こした。


「眠っていました……」

「そのようだな」


 アランが(ほほ)()みながら、近くにある椅子(いす)に腰掛ける。そして、口を開きかけたとき、


「殿下」


 と、アーシェに先を越された。


 アランは「なんだ?」と、少し場都合(ばつ)が悪そうに言った。


「何かあったのですか?」

「えっ?」

「服が汚れていますし、擦り傷もあるし、火薬の臭いがします……」


 アランが両腕の汚れた袖を見やりつつ、手の甲にある傷を見つけた。


「その…… ちょっとな」


 アーシェは何も言わず、ジッとアランを見つめたままだった。


「いや、実は……」と、頭を()きつつ答える。「鉱山を調べていたんだ」

「鉱山……?」

「トリナーム夫人が所有していた鉱山だ。まぁ、実質的にはマードック社が所有しているようなものだが」

「…………」


「爆薬の密造や密輸に関わっているかもしれないと思って、君と別れたあとに調べに行った。結果は、やはり密造がおこなわれていた痕跡が残っていた」

「じゃあ…… ダーレン・トリナームは爆薬を作っていたのですか?」

「いや…… あそこに何かあると思ったのは、ビリー所長の自宅をもう一度、調べたときなんだ」


 こう言って、アランはビリーの自宅で見つけた火薬や魔結晶から、株式のことと鉱山のことを話し、命辛々、バルバラントに逃れたことを話した。


「――そんなわけで」とアラン。「火薬の臭いがしてしまっているんだ」


「どうして一人でそんなところを……」

「本当にすまない。その点に関してはグレンさん――…… 大聖堂の神官をされている方だが、その方にも注意された。ブロムナーにも怒られたし、反省しているよ」


「ちゃんと反省してください。もし、殿下が死んでしまったら、黒幕の捜査どころではなくなっていたんですよ?」

「――そうだな、すまなかった」


 ここで会話が途切れた。

 なんだか中途半端なところで途切れたし、ここから偽造のことを打ちあけるか、アランは迷った。しかし、迷っていたら、また話す機会を失い、どんどん打ちあけられなくなってくる……

 アランが意を決し、話そうと口を開いた。


「あのさ――」

「殿下は――」


 と、会話の正面衝突が起こってしまう。

 アーシェが謝りながら、アランに話すよう促すものの、アーシェが先に話すべきだと、アランが譲った。だから、アーシェが謝罪したあとに、


「先程」


 と言った。


「殿下は何か、私に言おうとしておられたように見受けられたのですが…… 何を言おうとしていたのですか?」


 ――丁度、良い。

 アランはそう思って、


「君に謝らなければならないことがあってね…… それで、部屋(へや)に来たんだ」と言った。

「謝る……? 私にですか?」

「ああ…… 先程よりも、怒られるかもしれないが…… それは覚悟して来ている」


 アーシェが小首を傾げる。アランは一息ついたあと、


「昼頃に渡した手紙…… 今はどこに置いてある?」

「手紙……?」

「君の母君の手紙……」


 アーシェが怪訝(けげん)な顔でアランを見つめたあと、枕の下に手を入れて、手紙の封筒を取りだした。


「これですか?」

「ああ、それだ……」

「これが、どうしたのです?」


 アランが険しい顔付きでいるから、アーシェは不安()な顔に変わっていた。


「それは…… 君を学園に入れるため、特務機関が偽造した手紙なんだ」

「えっ……?」

「すまない。それは…… 母君の手紙ではない」


 どこか張り詰めた空気が漂う。

 (かす)かに口を開き、ポカンとしているアーシェと、やはり険しい顔付きを崩さぬまま、ジッとアーシェを見つめるアラン。

 どれだけの時間が()ったのか分からないが、アーシェは(うつむ)きつつ、少し口角をあげていた。


「やっぱり……」とアーシェ。

「えっ?」

「――お母様の手紙では無かったのですね」


 今度はアランが、呆気に取られた顔でアーシェを見ていた。しかし、呆気な顔をしていると自分で気付いたのか、すぐさま首を軽く横に振って、元の引き締まった顔に戻した。


「最初から…… 違うと思っていたのか?」


 彼女は(うなず)いて「なんとなくです」と答える。「なんとなく…… お母様らしくないかもって…… だけど、筆跡とかは同じだったから、違うって言いきれなくて……」


 ――やはりどこかで、母親の手紙であってほしかったのかもしれない。

 彼女にとってみれば、急に引き離され、それが今生(こんじょう)の別れとなってしまったわけで、ずっと心のわだかまりとして残っているのだろう。

 彼女の寂しそうな表情から、そのように思えたアランが、


「罪滅ぼし、と言うには身勝手かもしれないが……」と言っていた。「君を、母君の故郷へ連れていってあげたい」

「故郷?」と、伏せがちだった顔が上向いた。「故郷とは…… ベリンガールですか?」

「ああ。――君は一度も見たことがないんだろう?」

「…………」


「君の父親が、レイナック家なのかトリナーム家なのか、俺には分からない。だが、母親は間違いなくレイナック家だったはずだ。ならば、君に一度は見てほしい。母親の生まれ育った故郷を」


 しばらく沈黙が流れたが、先程と違って穏やかに感じられた。


「故郷……」と、顔を伏せたアーシェが(つぶや)く。「お母様の故郷……」

「一応」アランが機を見て言った。「君の両親がどこの出身で、どのように知り合い、どのように離れ離れになったのか、ベリンガールにいる友人から報告書を受け取っている。大まかではあるが、気になるなら話そう。――どうする?」


 アーシェが顔を上向けて、


「知りたいです」


 と言った。だから、アランは話し始めた。


「報告書によれば、母君の出身は首都ベネノアで、父君もベネノアだ。二人は社交界で知りあったと、()女をされていた方が証言している。

 それから数年後に結婚したが、秋革命が起こってしまい、ロンデロントに二人で避難。そこで父君――クロナード様は、戦うことになったらしい。安全のため、ラニータ様をこの町へ避難させた」

「では、ここで暮らすようになったのは、避難してきたからですか?」


「いや…… 残念ながらちょっと違う。実は詳しい経緯がよく分かっていないんだが…… 分かっているのは、ラニータ様が()女とこの町で別れ、クロナード様が戦っておられた町へ、単身で向かったと言うこと。

 そこで恐らく終戦を迎えたのか、またロンデロントに戻ってきて、ホザー・トリナームと知りあった…… と言うのが、今のところの調査結果だ」


「そうでしたか…… 私の父かもしれないクロナード様を、お母さまは放っておけなかったのですね?」

「ああ、そうだと思う」

「――お母様らしいです」


 少し彼女の目が潤んでいる。


「アーシェ」と、しっかり語りかけた。「俺に、君の信用と信頼を回復させる機会を与えてほしい。そして、改めて君に協力を要請したい。協力とは他でもない、スーズリオン学園での諜報(ちょうほう)活動のことだ」

「…………」


「俺には銃の腕前も、諜報(ちょうほう)能力も、身体能力も無い。ブロムナーに言われ、非情に腹立たしく思ったが…… あいつの言う通り、何もかも足りないのが現実だ。だからこそ、君のように全てを持っている人が必要不可欠なんだ……

 これ以上、黒幕を好き勝手に行動させ、再びロンデロントで起こった(おぞ)ましい事件が繰り返されぬように……!」


 ――少し熱っぽく語ってしまったか?

 言い終わってから、そんなことが頭をよぎったアランは、自然と顔を(うつむ)けつつ、


「け、決して、正義に酔ってるわけではない。俺は、君や母君のような人を増やしたくないだけだ。それだけ分かってほしい」


 と、声量を抑えて言った。

 すると、アーシェから(かす)かな笑い声がしてきた。だから、アランが顔をあげた。

 彼女はすでに素面に戻っていたが、口角だけは少しあがっていた。


「殿下は本当に、特務機関の活動に向いていませんね……」


 ――前にも言われた気がする。

 あのときは、アーシェが首を吊るなんて思ってもいなかった。油断だったと言っても良い。

 今回は、ちゃんと気を抜かずにいなければ。


「――大丈夫です」

「えっ?」

「もう、あのようなことは致しません。殿下が言われたように、それこそお母様が無駄死にしたことになるし、殿下への償いをせずに死ぬのは、貴族だったお母様も本(もう)ではないと思うので……」


 心でも読んでいるのかと、アランは思った。するとアーシェが、ハッキリと笑みを浮かべた。右手の平で口元を隠している。


「殿下は、とても表情が分かりやすい方ですので…… 何を考えているのかすぐに分かります」


「あ……」と(つぶや)いてから、拳を作って、親指や人差し指のところで(ひたい)を小突く。


 不意に、アーシェの小さな笑い声がしたから、彼女を見やった。そうしてフッと、彼女の笑い声を始めて聞いたことに気付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ