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没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第二章  心は縦にひび割れて

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13  復讐と夢

 アランが飲み物を口にしたとき、ユリエルが、


「俺もアリスも、祖父母や親戚を秋革命のときに亡くしてます」


 と切りだした。だから、アランの手が止まる。

 ユリウスはジッとアランを見やったまま、話を続けた。


「早くに両親が亡くなって、カントラントの孤児院に流れついたとき、当時はまだ司教で、代理で院長をしていたシェーン(じい)さん…… 悪いけど、(じい)さんで呼ばせてもらいます。その方に育ててもらった」

「そうだったのか……」とアラン。


「アリスは程なくしてグレンさんのところへ行ったけど、俺はずっと孤児院にいた。それで、アーシェさんの話を聞いて、自分なりに考えてみた…… もし、シェーン(じい)さんが殺されたらどうするかって」


「――どうする?」

「復讐します」


 意外に思ったアランが、目をあけて驚く。


「復讐は悪いことだけど、そんなの承知の上ッス。逆に、相手はどうして復讐されないって思えてるのか理解できない。復讐の連鎖が怖いから、最初から怒らないよう、みんな譲歩したり、傷つけないように注意してるところもあるのに」

「そうか…… そうかもな」と、アランが茶器を机へ置いた。


「そもそも、復讐は負の連鎖がどうとか、第三者の正論なんかを考慮に入れたりしないものだと思うッス。徹頭徹尾、どこまでいっても自分と相手の問題で、因果と心の問題ッスよ。だから自己中心的だし、その覚悟が必要となる…… 誰かと共有なんて出来ないし、第三者の見解なんて無意味で無価値ッス」

「それじゃあ、永遠に殺しあうことになっちゃうでしょ?」


 アリスが困った顔でそう言うと、ユリエルは彼女を見やって、


「第三者が本当に出来ることは、そのときの社会規範や倫理の立場で正論をかまして、復讐した人間を公俗良序の観点から裁くことだけ…… 裏を返すと、それだけしか出来ない…… 当事者の魂を救うことは決して出来ないと、俺はそう思ってる」

「言うなら」とグレン。「自分が、自分に対して納得できるかどうかが大切、と言うことか?」


「人と人の関係は理屈じゃない。俺がシェーン(じい)さんやグレンさんを尊敬し、アリスを愛してるのも、世間に出回ってる単純な考察や理屈、言葉や感情じゃない。それらを全て納得させる自分と相手との、因果と心の決着…… それだけが復讐者の唯一の救いで、納得できる決着に(つな)がると思ってるッス。そうなるなら、相手より幸せになろうが殺しでお返ししようが、なんでも構わないと思うッスね。中身はなんだっていい」


 ――思った以上に、ハッキリした男のようだ。

 しかし、彼の極論とも言える持論に対し、アランは拒絶することは出来ても、正すことは出来そうにないと思えた。

 確かに、復讐の世界には自分と相手しかいない。


 その二つの因果と関係性に、無関係な第三者が入りこむ隙間は全く無いと言える。罰せられる覚悟を持って(まい)進しているなら尚更(なおさら)、誰にも止めることなんて出来ない。


「俺が」と、アランが言った。「彼女の行動原理や気持ちを、今一つ理解できない理由が分かった気がする。俺にはそのような覚悟と言うか、復讐心は持てないし、理解できそうに無い」


「――殿下は」とアリス。「アーシェさんのことを理解したいと思われていますか?」

勿論(もちろん)…… 思ってはいるんだ。本気じゃないと言われると、言い返せないが……」


「少しでも理解したいと思うなら、やはり手紙は偽造であることを伝えるべきです。そうして、改めて事情を説明なさった方が(よろ)しいかと」

「正直になることで、理解に(つな)がると言うのか?」


「おこがましく失礼な言葉で恐縮ですが…… 先程のお話、どうも利用すると言う観点でアーシェさんに接しておられるように感じられます。そのような不誠実な方に、どうして本心を見せるでしょうか」


 ――きっと、先程のグレンさんも、同じことを言おうとしたに違いない。


「簡単な説明を聞いただけですし、詳細が違っているかもしれません…… ですが、今の私の感覚だと、手紙があろうが無かろうが、アーシェさんは殿下に協力しようとしているように思えます。その点はいかがですか?」


「少し話したが、単純に主体性を失い、俺に依存してるからだと思っている。俺の言うことなら、なんでも聞くと言って(はばか)らないんだ。何度言っても、どこかでそんなことを言ってくる」

「彼女は一体、どういう理由で学園に? 偽造した手紙の内容は確か、『学園に通って、色々なことを知ってほしい』と言うものでしたよね?」


「まぁ、予々(かねがね)そうだ」

「アーシェさんは、その内容に賛同していましたか?」

「…………」

「なるほど、しておられないのですね」


 しばらくの沈黙のあと、アランが口を開いた。


「黒幕を見つけ出して制裁する夢と、母君が勧めてくれた場所へ行けると言う喜びと…… 自分を使ってくれてありがとうと…… そのようなことを言っていた」

「だとすると、偽造した手紙は決定打になっていないように思えます」

「そう、だな…… 確かにそうだ」


「悪いことは言いません、殿下。あなた様の真っすぐな心のためにも、手紙が偽造であったことを告げ、しっかり謝罪し、改めて彼女に協力を要請すべきです」

「…………」

「断られるかもしれません。彼女のボロボロの心を、さらに傷つけるように裏切ったのですから」

「…………」


「しかし、彼女があなたに対して少しでも信頼と信用を持っているなら、きっと許すはずです。あなたに隷属的だと言うことは、裏を返せば、あなたしか頼れると思う人がいなから。

 そして、黙っていれば良かったのに、それを正直に話したあと、改めて協力のお願いをし、自分を必要としてくれる…… これもまた、主体性の回復に重要なことです」


「そうだといいんだがな……」

「カアァ~ッ!!」と、急にユリエルが奇声をあげた。「殿下ともあろうお方が、そんなナヨナヨしてたら駄目ッスよ! 本当に傷付いた人がいるなら、こっちとしてはやること一つでしょうに!」


 そう言って、肩をバンバンと平手で打つものだから、アランは思わず身を引いて、


「き、君! 痛いからやめたまえ……!」と注意した。


 それでもユリエルは引く気配を見せず、


「殿下」と、まっすぐな目で言った。「あの子が殺しの復讐に走らないようにするには、殿下が一緒になって、あの子の復讐を叶えてやるために、付いていくことッス。一緒にやってやらないと駄目ッス。――なぜかって? (から)に閉じこもってる子が自分の口から言った夢だから。今、唯一の夢だからッスよ。仮初(かりそめ)の希望と言ってもいい」

「それを()()方向に導くのは、殿下の役目かと」


 アリスもユリエルを援護した。


「彼が言うには『納得できる決着』が付けば、なんでも良いようですから」


 ――アレを、彼女はそう言う風に捉えていたのか。

 少し考えを巡らせたあと、アランは自然と口角をあげていた。


「どうしたんスか?」


 ユリエルが不可思議そうに言うから、アランは頭を()きつつ、


「君やアリスさんは、なんと言うか…… 随分と(たくま)しいんだな」

「い、いえ」と、アリスが慌てて首を横に振った。「(わたくし)は別にそんなことは……! その、きっとユリエルの影響かと」

「まぁ、確かに? 俺は孤児院でも頑丈な方だったしなぁ」

「そう言う意味じゃないから……」


「殿下」と、グレンが低い声音(こわね)で言った。それで、ユリエルもアリスもピクリと動いて、押し黙る。


「私もアリスの見解に賛成です。ロンデロントでは容疑者の一人で、利用すると言う考えがあっても仕方なかったでしょう。しかし、今は違うでしょう? 先程も言った『協力者』の一人として、改めて誠実にお願いをしてみては?」

「ええ、そうしようと思います。――ブロムナーや兄様が何を言おうが」

「いいですね、それでこそレイアラン殿下だ」


 グレンが(ほほ)()んで言った。それからユリエルの方を向いて、


「――ユリエル」

「は、はい……!」

「警備兵と一緒に悪魔の沼地を捜索しろ。あと、殿下をそこまで案内するんだ。――恐らく、ロンデロント側の鉱山付近に馬を置いているだろうからな」


「分かりました」

「それが終わったら私のところへ来い。言いたいことが山ほどある」

「ゲッ……!」

「不服か?」

「い、いえ…… ワカリマシタ……」


 ユリエルが(うな)垂れつつ言うから、アランはアリスと視線を合わせ、共に苦笑しあっていた。

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