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没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第二章  心は縦にひび割れて

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12  王冠とスーズリオン

 お盆を持ったユリエルと、アリスが執務室に入ってきた。


 グレンが、二人に話を聞いてほしいと言って、椅子(いす)に座るよう告げる。

 互いに顔を見合わせたあと、二人共、(かしこ)まった様子で着席した。グレンの(となり)がアリス、ユリエルはアランの(となり)となる。


「お初にお目に掛かります、レイアラン殿下。(わたくし)、ユリエル・バルバランターレンでございます」


 ユリエルがキラキラな瞳で、右手を胸元へ当て、ズイッと上体を近付けて言うものだから、アランは若干、上体を反らしつつ、


「あ、ああ。始めまして……」と気圧(けお)された。

「ユリエル……!」


 グレンが鋭い目付きで言うから、ユリエルが驚きながら引き身となって、


「えっ……? えっ? なんで?」


 と戸惑っている。


口説(くど)くような雰囲気(ふんいき)で言うなと、いつも言ってるだろう……!」

「べ、別にそんなつもり無いッスよ?」

「言葉……!!」


「あっ!」

「申し訳ありません、殿下」と苦笑うアリス。「彼は神官の候補になり立てで……」

「まぁ…… そうらしいな……」


「貴族の作法や言葉遣いなど、まだまだ勉強の最中です。どうかご無礼をお許しくださいませ」

「分かっているよ」

「お飲み物、準備致しますね」


「――じゃあ、殿下」とユリエル。「準備が終わるまで、俺…… じゃなくて! 私やアリスにも、殿下のご事情をお話しください」

「ああ、そうさせてもらう。あと、今は(おおやけ)の場では無いし、『俺』を使っても構わないぞ、ユリエル」


「えっ? そうなんスか?」

「他はさすがに気を付けろ」と(たしな)めるグレン。


 こうして、アリスがテキパキと飲み物の準備を進めるあいだ、アランが、ロンデロントで起こった事件を二人に説明した。


 さすがのアリスも、話の内容に驚いて何度か手を止めてしまっていたが、間も無く準備が終わる。

 ロンデロントで起こった事件と出来事に、自分が命辛々(からがら)、脱出した先が悪魔の沼地だったことを話しおえて、飲み物を口にした。


「――以上が、現時点で分かっていることの全てです」

「まさか、ロンデロントでそのようなことが……」


 アリスがそう言って、膝元で握っていた両手を強く握りしめた。


「シェーンの(じい)さん、なんにも言ってなかったな……」


 ユリエルが呆然としながら言うから、アランは「余計な心配を掛けさせたくなかったんだろう」と答える。「特に君たち二人には」


「まぁ…… 確かにこっちも色々あったけど……」

「そういえば」とアラン。「二人は王冠の力を間近で見ていたようだし、アリスさんに至っては体験もしていらっしゃる。良ければ、まずそちらの話を聞かせてもらえないか? 報告書を見るよりも、色々と分かることもありそうだ」


 ユリウスがアリスを見やる。彼女は少し間を置いてから、


(わたくし)で良ければ、お話し致します」と言った。

「ありがとう、アリスさん。ユリウスさんも、知っていることがあれば教えてほしい」

「まぁ、(ねえ)さ――…… じゃなくて、アリスさんが話すと言うことなので、彼女に任せます。そこまで王冠に接していたわけでも、その効果を見ていたわけでも無いので」


 こうして、アリスが『王冠の呪い』と言う伝承のこと、呪いの実態が、実は魔導具の力によるものであったこと、遺体や廃墟の(とりで)が元の姿に戻っていったことを語った。


「元に戻す……」アランが横目となりつつ言った。「時間を戻す、と言うのではないのか?」


「こちらへ調査にやって来たエリカさんが、言ってました。

 『時間と言うのは分かりやすく理解してもらうための方便で、厳密に言うと()()()時間を戻す…… 具体的には物や人などが経験した、()()()()()()()戻していくような効果だと思う』と」


「ある頃の状態に戻す……?」

「私の場合、理由は不明ですが子供時代の姿に戻りました。でも、記憶は子供時代まで戻っていません。そして、悪魔の沼地の(とりで)は、廃墟となる前の(とりで)の姿に戻っていった。でも、そこにいたであろう人々は戻っていなかった……」


「そんなことが…… いや、失礼。報告書によれば、あなたやユリエルさん、エリカたちも見ているものだ。しかし、(にわか)に信じられなくて……」


「分かりますよ、殿下」(となり)のユリエルが言った。「(とりで)に関しては、俺も実際にこの目で見ました。だけど、あれが夢じゃなく現実だったなんて、今でもちょっと信じられないと言うか…… でも、後々になって思ったんですけど…… あれって勇者伝説の、スーズリオンとバルバランターレンの話そのままだなって」


 ――確か、アル・ファーム南部では有名な話だ。

 スーズリオンは魔王一味との戦いによって、強大な魔力を制御できなくなってしまった。それを抑えるために、バルバランターレンが王冠に呪いを移し、それを浄化した上で、スーズリオンへの贈り物として渡した。王冠を身につけて以降、スーズリオンの魔力は抑えられ、人里で暮らすことが出来るようになったと言う話だ。


 一説によると、この伝承が奉納祭の始まりと言われている。つまり、王冠を贈られた感謝の(しるし)として毎年、スーズリオンが大聖堂で奉納祭をおこない、それが徐々に収穫祭のような形に変化していったのではないか、と言う話もある。


「あの話って」ユリエルが続ける。「要するに、力を抑えられない状態から、抑えられる状態だった頃の自分に戻った…… みたいなことですよね?

 あ、当然ッスけど、俺は話の全てを信じてるわけじゃなくて、なんか似てるなぁ~って思っただけって言うか……」


「分かってるさ」とアラン。「現に、王冠が魔導具だったと言うことがハッキリした今、あの伝承も、全てが(うそ)や作り話、と言うわけではないと思える。何かしら、そう言った出来事があって、分かりやすい伝承として残ったのだろう。

 ――だからこそ、今後は王冠に対し、より一層の警戒態勢を敷く必要がありそうだ。あの王冠の力は、我が王家に伝わっていた魔導具よりも(はる)かに強力だ」


「全くの同感です、殿下」とグレン。「考古学的に興味のそそられる遺物でしょうが、それ以上に、何かしらの状態まで戻せると言うのは、力としてはあまりにも強く危険だ…… 殿下の(おっしゃ)るように、エリカさんが持っていた魔導具より強力でしょう」


「まぁ、あれはエリカにしか扱えない魔導具ですし、ずっと身に付けていられる形でもあるので大丈夫だと思います。それに、ライールと一緒ですからね。

 それよりも、王冠の方の警備をもっと増やすべきだと思いました。教会からどこかへ移動させると、目立って余計に狙われる気がするので、教会周辺や内部の警備を増やそうと考えています」


「しかし、殿下の話から察するに、今のロンデロントは警備兵が不足していそうだ。場合によってはこちらの警備兵を向かわせます。教会なら、何度か応援に向かった(やつ)らもいますので」

「心強いです。ロンデロントの自治区長も喜んでくれますよ」

「では…… 本題に入りましょう、殿下」


 グレンが催促(さいそく)するように、ゆっくりした口調で言った。

 アランは茶器の飲み物を一口飲んでから、


「ユリエル君とアリスさんに()きたいことがある…… アーシェのことなんだ」

「アーシェさん、ですか?」とアリス。

「確か、(えん)罪をくらったって保護したって言う女性ですよね?」とユリエル。


 アランが「そうだ」と答え、省略していた彼女の情報――レイナック家の生き残りで、(めかけ)の母親を愛し、トリナーム家でずっと虐待を受けつつも、虐待の張本人であるダーレン・トリナームが死んだことに、少なからず傷付き、今は黒幕に復讐の炎を燃やしている状態なのを伝えた。


 加えて、偽造した手紙に、ベリンガールとの政治的な駆けひきや事件の捜査の観点から、スーズリオン学園へ入学させることになっているとも伝える。


 話を聞きおえたアリスもユリウスも、沈痛な(おも)持ちで黙っていた。

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