8 単独捜査
監獄所から出てきたアランが、馬車に乗って一度、領事館へと戻ることにした。
車内で両腕を組み、監獄所で話していたことを整理する。
――分かったことは二点。
一点は、監獄所内では密造している仲間と合流し、鉱山へ向かうと言うようなことはしていない可能性が高いこと。
次点は、銃に関心を持っていたが、それを持ってくるようなことはしておらず、自宅にも銃は置いていなかったこと。
銃はきっと偽装の一種として話していたに違いない。そして時折、火薬の臭いが付いたまま監獄所に出勤もしていた可能性がある。
正直、爆薬の密造密輸に関わっているのは、ほぼ間違いないだろうが、それを周りに納得させるだけの証拠が無い。
ひとまず今までの調査結果を誰かに伝えておいて、それから証拠を集めに鉱山へ向かうしかないだろう……
アランがそう考えをまとめていると、馬車が停車した。
彼は早速、領事館の中へと入って、応接室に入った。
ブロムナーはいなかったが、代わりに近衛騎士がいたから、彼に今までの事の顛末と調査結果を伝える。
「本当ですか?」
どうも半信半疑な顔で近衛騎士が訊き返してくるから、
「ビリーの自宅をもう一度、よく調べるんだ。俺は台所の床材の溝から、粉となった痕跡を見つけた」
そう言って、腰鞄から小袋を二つ取りだし、それを騎士へ手渡す。
「一つは魔結晶、もう一つは火薬だ」
「確かに、こちらは火薬の臭いですね……」
袋の口を緩め、鼻を近付けた騎士が言った。
「とにかく、俺は執務室で考えをまとめる。お前はビリーの自宅を調べて、その結果をブロムナーへ報告しておいてくれ」
そう言うなり、アランが回れ右をして扉へ向かう。
「りょ、了解しました」
近衛騎士が戸惑いながら答えているのを見ずに、そのまま廊下へ出ていった。
それからアランは、執務室へ向かった。
そこで考えをまとめるためではなく、鉱山へ向かうための準備をするためだ。
彼は近衛騎士の反応を見て、今は鉱山付近への捜索を後回しにされると考え、単独で向かおうと考えていた。そのためには、身を守るための武器が必要だ。
執務室へ戻るなり、机の側に置いてある大きな鞄から、宿泊施設へ向かったきり放置してあった拳銃と、銃弾を取りだした。
それらを腰鞄へ詰め、卓上に置いてあった『マードック株式会社の輸出入および、トリナーム夫人の所有権、採掘権についての報告書』の地図部分を抜き取って折り畳み、それを懐へ仕舞う。
「よし……!」
決意を新たにし、必ず爆薬の密造密輸とビリーとの繋がりの証拠を入手しようと誓った。
その後、アランは領事館から出て、馬小屋へと向かい、そこの管理をしているお爺さんに、馬車ではなく馬だけを借りる。
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。用事を済ませたらすぐ戻ってくる」
用事とは、郊外に行く用事があったと言うもので、勿論、嘘である。
アランは手綱や鐙を操り、馬を走らせた。
彼は馬や馬車など、乗り物の操縦がとてもうまく、これだけは兄と渡りあえると自信を持っていた。
久々だから飛ばし過ぎないようにと馬を走らせること、数十分。
思ったよりも早く、鉱山の近くの麓までやって来れた。
馬を一度、立ち止まらせ、懐から地図を出す。
「この道をずっとあがっていけば良さそうだな……」
そう呟き、地図をまた懐へ納めてから馬を走らせた。
最初はそこまで急でも無かった坂道だが、徐々にキツくなっていく。それでも馬で行けるから、常歩に切りかえて、奥へと進んでいく。
徐々に、頭上が鬱蒼としてきて、道も細くなっていった。
それでも道が途切れていないのは、間違いなく誰かがずっと使っていたからで、荷物を運んでいたのか、時折、泥道や土道に車輪の跡が付いている。
次第にまた頭上が開けて、視界も開けてきて、縄で侵入できないよう区切られたその先に、ポッカリと岩肌にあいた穴が確認できた。
「――あれか」
馬から降りたアランは、縄を固定している杭に、馬を繋ぎ留めておく。そうして、鞄から銃を取りだしてから、周囲を見渡してみる。
――どうも、小屋が立ちそうな地形になっていない。
平らと言えるのは、今、自分がいる鉱山の入り口付近だけであり、それ以外は坂が急で、建物があると目立ってすぐ分かるはずだ。
そうすると、やはり建物は周囲に無く、鉱山の中に隠れ家やアジトがあるような気がする。
アランは、張ってある縄と縄のあいだを潜り抜け、鉱山と言うよりも洞窟のように見える穴へと入っていった。
光はどこからも差し込まないから、すぐに暗くなっていく。だから、アランは発光石入りの携帯カンテラを取りだして、光らせた。
しかし、どうも光量が足らず、充分に周囲を照らしだせていない。
仕方なく、油を使った携帯カンテラに切りかえた。
火を灯すと、発光石よりも広範囲に明かりが届き、かなり明るく感じる。その携帯カンテラを、腰から吊るすように提げた。
奥へ奥へ進んでいくと、やがて、他の岩肌とは異質の、明らかな人工物が見えてきた。
「これが、ここの遺構群か……」
採掘のために壁を破壊し、中へ入れるようにしてあったから、アランは警戒しながら足を踏みいれていく。
――魔結晶が採掘できる場所は、大まかに分けて二カ所ある。一つは鉱山を採掘しているうちに、他の鉱石と混じって出土する形。もう一つは、遺構や遺跡などの建造物の中に、大量に存在している形。この場合、魔導具なども一緒に発見されることがある。
今回の場合は遺構群だから、魔結晶は建造物の中に山積しているか、埋没している可能性が高い。
しばらく遺構群の通路部分を歩いていると、案の定、地面に小さな魔結晶の欠片が散らばっているのを見つけた。
「やはり採掘はされているな……」
そのまま採掘しながら出来たであろう、縦長の穴みたいな通路を通っていく。人一人分の縦長の穴を抜けた先は一気に開けた場所で、どうやら遺構群の広間みたいなところらしい。そして、あちこちの岩場に発光石や魔結晶の原石が、山積みの形で転がっていた。
――妙だ。
採掘現場なのだから、この辺りにある原石が転がったまま放置されているのはおかしい。ひょっとすると、原石に問題があるのかと思って、近場に転がっている拳大の原石を拾いあげた。
「品質に問題は無さそうだが……」
そう言って眺めていると、後ろから『シュッ』っと言う妙な音がしてくる。振り返ると、遠目に小さな火がおこっていて、それが素早く移動していっているのが見えた。
アランは一瞬、何が起こっているのか分からなかったが、鼻をつく異臭に勘付いて、すぐさま広間の奥の方へと走っていった。
彼が四隅に着くかどうかのときに、突然、爆発音と共に揺れが起こり、風がアランの体にぶつかりながら、吹き抜けていった。
思わず飛び込んだアランが、頭を両手で覆う。
そして、揺れなどが収まってから、
「クソ……!」
と、悪態をつきながら体を起こし、元いた場所へ目を向ける。
遠いので明かりが届かず、埃なのか煙なのか分からないが、少なくとも爆発が起こったのは確かだ。
「まさか……!?」
ハッとしたアランが、慌てて遺構群の通路のあったところへ戻ろうと走っていく。そして最悪な予想通り、人一人分の縦長の穴が、瓦礫で埋まっていた。
――どうも敵に待ち伏せされていたのか、あとを付けられていたのか分からないが、出入り口を塞がれてしまったようだ。
「なんてことだ……」
悔いていても仕方が無い。
ひとまず分かることは、どうやっても瓦礫を取り除いて脱出、と言うのは無理そうな点である。
そもそも、先ほどの爆発で出入り口付近の天井も崩落している可能性があるし、今、自分がいる場所も崩落する可能性がある。まだ崩落せずにいるのは、ここが遺構群の中だからだ。
「どうする……」
悔いてはいなくとも、焦りはある。
アランは腰に吊るしてあった携帯カンテラを外して手に持ち、周囲を照らしながら、何か無いか探した。
すると、天井に漂っている煙や埃が、どこかへ流れていってるのが見て取れた。これはつまり、空気が流れている証拠だ。
アランが流れる煙や埃を辿っていくと、ある壁の隙間に吸い込まれていっているのを見つけた。天井から床と、縦筋の切れ目に吸い込まれているから、アランが壁を押しやる。
少し力を加えると、回転扉のように動いた。それと同時に、煙や埃が一気に向こう側へ流れていく。
「なんとか…… なりそうか……?」
アランは恐る恐る、真っ暗な通路の先を携帯カンテラの明かりで照らしながら、歩いて進んだ。




