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没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第二章  心は縦にひび割れて

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7  聞き込み

 部屋(へや)(かぎ)を衛兵に返したあと、アランは馬車に乗って監獄所へと向かった。そうして、到着早々に駆け足気味に受付へ向かい、受付をやっている男性に特務機関であることを伝えてから質問をした。


「――彼の生前のことが聞きたいんです」

「はぁ、生前のですか……?」と困惑している受付男性。

「所長室で、彼は寝泊まりすることがありましたか?」


「寝泊まりですか? していました」

「彼が亡くなる直前ではなく、あなたが受付の仕事をし始めてからのことです。どうでしたか?」


 しばし、受付男性が考えこんでから、


「どうでしょうね…… そんなに無かったんじゃないかな……?」

「入出記録、見てもらえます?」

「ああ、そうか。それで分かりますね」


「亡くなる半年前からでいいので、お願いします」

「は、半年ですか?」

「本当なら全部見たいところですが、時間が惜しいので」

「はぁ、分かりました……」


 怪訝(けげん)な顔をしながら、受付男性が、手元に置いてある監獄所の入出記録帳を調べ始めた。

 彼が確認し終わるまで、それほど()ってはいないはずだが、アランには長く感じたようで、お預けを()らっている犬みたいに、身を乗りだしつつ男性を見やっていた。


 それに気付いたのか、男性は少し身を引きながら記録帳を閉じ、


「そうですね…… 記録上は寝泊まりをしたようなことは無いと言えます」と答える。

「亡くなる数日前だけですか?」

「そうですね、一週間ほど前から死去する直前、二回ほどは家に帰っていなかったようです」


「なるほど……」と、乗りだした上体を元に戻すアラン。「では、もう一点だけ」

「なんですか?」

「これも半年ほど前からで思いだして頂きたいのですが、ビリー所長へ会いにやってきた客人の中で、彼と一緒に外へ出ていったとか、監獄所へ入ってきたとか、そのような客人はいましたか?」


「どうでしょうかねぇ……」受付男性が眉根を寄せている。「申し訳ありませんが、私は一々、所長の客人に目を向けているわけでは無かったので。――と言うか、客人の来訪については、以前の聴取でもお話ししましたよ?」


 ――彼の言う通り、所長に会いに来たと言う客人は何人かいて、その人たちの情報はすでに記録されていし、確認もなされている。結果的には全員、無関係であり、仕事で来訪した人々ばかりだった。

 しかし……


「ああ、そうだ」とアラン。「所長は狩猟が趣味とか、そういう話は聞きませんでしたか? ()()()()とか」

「山に登るような方ではないと思いますが…… まぁ、狩猟はありそうかなと思います」


「どういう点で、ありそうだと思われました?」

「どういうって…… なんとなくです」

「獲物を捕らえたと自慢していたとか、そういう話は聞きませんでしたか?」

「まぁ、そうですね…… たまにデカい獲物を取ったとか言ってたような気はします」

「なるほど」


「あと、銃が好きで、その試し撃ちをしに行ったと言う話も聞いています」

「銃が好きで……?」アランの目が少し鋭くなる。「すみません、あなたは所長が銃を持っていたところを見たことがありますか?」

「ありませんよ、そんなこと」


「火薬の臭いがしていたとか、ありますか?」

「どうでしょうね。所長、あんまり体洗ったりしない人だったので……」

「――もし良ければ、所長の側近だった方と会わせて頂けませんか? 俺が中へ入るのが難しいなら、ここへ連れてきてくださるだけでも良いので」


「側近と言えば刑()の連中でしょうけど…… 所長は人付きあいが悪く、彼らともあまり仲は良くないと思いますよ?」

「構いません。話を聞きたいので」


 (ため)息をついた受付男性は、仕方なさそうな顔で椅子(いす)から立ちあがり、


「呼んできます。少々お待ちを」


 と言った。

 目礼しつつありがとうと言ったアランが、しばらく一人で待っていると、


「お待たせしました」


 と、大柄の屈強な男性が現れた。


「――コッペリアの処刑のとき以来、ですかね?」


 アランがそう言うと、男性は(かしこ)まった様子で、


「あのときのご無礼をお許しください」と一礼する。


 それを見ていた受付男性が、刑()とアランを交互に見やって、


「あの…… 自分は持ち場に戻っても?」と言うから、アランが、

「ああ、勿論(もちろん)。助かりました、ありがとうございます」と、また目礼した。


 受付男性が時折、アランたちを見やりながら受付の方へ戻っていく。


「事情は大体、彼から聞きました」と刑()。「所長の件ですが、誰と出掛けていたのか、残念ながら全く把握しておりません」

「では、狩猟に使っていたという銃の件はご存じですか?」

「そうですね…… 知っています。銃殺刑をやってみたいと言っていたのを聞いたことがあるので」


 アランが大きな(ため)息をついた。


「それで…… 銃の所在を尋ねたいのでしょうが、残念ながら我々も知りません」

「――悪魔の沼地、ご存じですか?」

「悪魔の沼地……?」と、片眉をあげる刑()。「バルバラントとの境界線付近にある、底なし沼ですよね?」


「あの辺り、今は魔結晶が取れるので活気づいています」

「そうですか…… 正直、自分は世間の動向に(うと)くて」

「所長が狩猟に出かけるのは、あの辺りではないかと思ったのですが…… どうですかね?」

「まぁ…… 人里から離れてはいるし、エルエッサムとの国境線だけ気を付けておけば、適した場所ではないかと」


「――所長の銃ですが、どこに置かれてあると思います?」

「自宅では?」

「それが、無かったんです」

「無かった?」


 (うなず)くアラン。


「じゃあ…… どこか保管しておける場所に、置いてあるのではないでしょうか」

「所長の性格、俺よりもあなたの方がお詳しいはずです。ですから、彼が銃を置いておくなら、ロンデロント市内なのか、狩猟をする拠点に置いておくのか、どちらだと思います?」


「まず間違いなく、拠点に置いておくと思います。あの人は面倒くさがりなので、荷物を極力減らしたがるでしょうから」

「火薬の臭いはしていましたか?」


「臭いですか? どうでしょうね…… まぁ、たまにしていたかもしれません」

「では、最後に一つ。――所長の銃ですが、あなたは一度でも見たことはありませんか?」

「無いですね。一度も無いです」


 そう言って、彼は両腕を組んだ。


「考えてみれば、妙なことです。所長はなんでも見せびらかして、自慢してくるような虚栄心の塊みたいな人間だったのに、どうして銃は持ってこなかったのか……」


 随分な言われようだが、これが彼の歩んだ人生の評価なのだろうとアランは考え、口から出そうになる(ため)息をこらえた。そして逆に、


「もし、その話が本当なら、銃がどこにあるのか探しだす必要がありそうです」


 と、言葉を口から出した。


「分かりました。もし監獄所内を捜索したかったら、いつでも言ってください。殿下であっても手続きなしで入ることは出来ませんが、私なら自由に見て回れるので」

「本当にありがとうございます」

(えん)罪に手を貸してしまったので…… 自分に出来ることで償いたいです」


「あなたも被害者だと、俺は考えてます。だから今後も、どうか己の職務を全うしてください。そして、この経験を活かし、今後は裁判や司法判断などにも注意を向けてくださると、なお助かります」

「ええ、必ず記録を確認し、必要なら照合をすることを誓います」

「では、ひとまずはこれで。失礼します」


 アランが目礼すると、刑()は深々と一礼していた。

 (きびす)を返し、受付の方へ寄って、


「ご協力、誠にありがとうございました。これで失礼します」


 と告げると、受付男性が目を丸くしてアランを見やり、


「あなた、殿下……?」


 と言うから、それが少し可笑(おか)しくて思わず(ほお)を緩め、


「今は捜査員の一人です。お気になさらず」と言って、正面玄関から外へと出ていった。

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