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没落令嬢は、今宵も復讐の夢を見るか? ~~継母に盗みをするよう強要され、死刑台に送られた妾の娘は夢を追いかける~~  作者: 暁明音
第一章  グリーン・スリーブス ~緑色の袖~

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25  アーシェを追え!  その1

 執務室から出たアランとブロムナーが、階段の途中で近衛(このえ)騎士と鉢合わせた。彼の話では、一瞬の(すき)を突かれ、応接室からアーシェが出ていったと言う。


「追いかけたのですが、エントランスホールに出たときには、もうどこにも姿が見当たらず…… しばらく一階を調べまわっていると、外回りをしてたらしい衛兵が駆け込んできました」


「しかし、なぜだ?」アランが言った。「なぜ、急にそんなことを……」

「おそらく、新聞のことに気が付いたからだと思われます。自分だけでなく、お茶を持ってきたメイドにも、暇だから新聞を持ってきてほしいと頼んでいたので」


 領事館に到着したとき、彼女はすでにアランを疑っていた。そして、こちらの隠し事が新聞などの情報紙に載っていることも、ひょっとすると勘付いていたのかもしれない。


「今日の新聞が領事館に無いのはなぜだと質問してきたとき、私が上手(うま)く誤魔化せなかったのが原因かもしれません……」

「遅かれ早かれ、彼女は気付いていたことでしょう」


 ブロムナーが眼鏡(めがね)を触りつつ言って、


「やはり、さっさと拘束して軟禁しておくべきだった……」


 と続けた。


「どうします?」


 近衛(このえ)騎士がブロムナーへ尋ねる。彼は近衛(このえ)騎士ではなくアランの方を向いた。


「殿下、申し訳ありませんが、彼女のことはあなたに一任したい。我々はビリー所長を追い詰めるための包囲網を敷く必要がありますし、トリナーム夫人やドロッカーのこともあります」

「分かった、俺がなんとかして探しだす」

「なるべく早く、近衛(このえ)騎士も向かわせます。――まずはどこを捜す予定ですか?」


「領事館から一番近い、新聞などを売っている雑貨屋か本屋へ行こうと思う。そのあとはトリナーム夫人の屋敷へ向かうつもりだ」

「なるほど、順当に思えます。ただ、念のために武装しておいてください。馬で向かうなら目立ちますし、その格好のままだと、動きやすいとは言え、色々と融通が利かないこともあるでしょうから」


 こうしてアランは、近衛(このえ)騎士が装備していたサーベルと拳銃、騎士用のポーチ付きベルトを受け取り、すぐさま領事館を出た。

 向かった先は、アーシェが足のために奪ったと思われる、領事館内にある馬小屋である。


 そこにいた馬番の初老男性に声を掛け、馬については自分が探すから、ブロムナーたちのために、馬車や馬の準備をしておくよう言付け、領事館から一番近い、新聞などを販売している雑貨屋の位置を 聞いてから、小屋にいた青鹿毛(かげ)の馬の背に飛び乗った。


 馬車よりも圧倒的に早い速度で、路面を駆けていく。速い代わりに道行く人々の目を釘付けにしていた。そして、あっという間に小さな雑貨屋に辿(たど)りつく。店先には新聞を売る少年が立っていた。


「君、すまない」


 突然、目の前で立ち止まった馬に驚いてたじろぐ少年に、アランが馬上から尋ねた。


「ここへ、馬に乗った女性――…… いや、女の子が来なかったか?」

「き、来ました」

「では、新聞について尋ねられたか?」

「買って、向こうの方へ……」


 少年が恐る恐る、方向を指差す。彼が指し示す方角は町の繁華街で、貴族たちが暮らす住宅街では無かった。


 ――本当に彼女はそっちへ行ったのか?

 今までの彼女のやり方や考え方から、アランは素直に少年の言葉を信じることが出来ずにいた。そもそも、彼女は無一文なはずだし、どうやって新聞を入手したのか……


「新聞、その女の子に渡したのか?」


 少年が(うなず)く。だから、アランは確信を持って言った。


「――正直に答えてくれ」


 少年が、馬上のアランをジッと見あげる。


「君はさっき、女の子が新聞を買って、繁華街の方向へ向かったと言った」

「…………」

「その女の子から、『宝石』か『貴金属』と、新聞を交換してほしいと交渉されなかったか?」

「…………」

「おい、アンタ何してるんだ?」


 雑貨店から、店主らしき人が出てきた。彼が少年の父親なのかどうか分からないから、少年との関係を尋ねる。


「誰だ? アンタ」


 当然、店主はこちらを怪しく思っており、素直に答えるわけも無い。だからアランは、仕方なく(ふところ)から手帳を取りだし、それを開いて見せた。そこには王家の紋章とともに、アランの身分について書かれた文章があった。


「俺は王家直属の…… 捜査員みたいなものだ。領事館からこちらにやって来た。ここへは、領事館の職員が新聞などを買いによく来ていると聞いている」


 こちらが話しているあいだ、店主がジッと手帳を眺めていた。そうして、顔色が変わった。


「悪いが、先ほどの質問に答えてくれ。そこの子供とあなたとは、親子なのか?」

「ち、違います……!」と店主。

「では、君にもう一度聞きたい」と、子供を見下ろしつつアランが言った。

「ここへ女の子が来たはずだ。その子が、君に宝石を渡すかわりに、新聞を交換してほしいと言ったはずだ…… 違うか?」


 店主が少年を見やる。

 彼は不機嫌そうに横目となった。


「その宝石、本当はロンデロントの亡くなった貴族が所有していた物だ。今から正直に答え、渡された宝石をこちらへ返してくれたら、新聞の代金の他に、情報提供の謝礼も支払おうと思う」

「――知らないって答えたら?」

「今ここで、君を逮捕する。罪状は宝石の窃盗と犯罪幇助(ほうじょ)だ。少なくとも、監獄所でしばらく過ごしてもらうことになるな」


 明らかに少年が狼狽(ろうばい)した。店主も同じで、少年に何をしたんだと言い寄る。それでやっと、少年が自白した。


 彼が言うには、少女――アーシェが馬から降りて近付いてくると、すぐに宝石を見せてきて、これと新聞を交換してほしいと言ってきたらしい。それから、もう一個の貴金属を見せ、誰かが自分のことを尋ねてきたら、繁華街の方にいると答えてほしいと依頼されたと答える。


「なるほど…… じゃあ、その女の子はどっちへ向かった?」


 少年が指差した方向は、繁華街ではなく貴族街の方であった。


「分かった、ありがとう」


 アランはこう言ってから、馬を降りた。そして、馭者(ぎょしゃ)の変装のとき、(ふところ)に入れてあった小銭の袋を取りだし、新聞の代金と謝礼を合算した金額を少年へ渡す。

 彼は思った以上の金額が入っていたのか、随分と驚いていた。


「今後は怪しい物を受け取らず、妙な(うそ)をつかないことだ。いいな?」


 少年が(うなず)きながら礼を言い、店主が一安心しているところを見届けてから、馬へ乗ってアーシェを追いかけた。

 しばらく走らせると、貴族の屋敷が集まる区画にやって来る。


 ――ダーレンの屋敷の周辺には、特務機関の捜査員が張り込みを続けているはず。まずは彼らと合流し、アーシェの件を共有しておかなければならない。それに…… 彼女は間違いなく、母親と暮らしていたあの小屋に戻ったあと、屋敷の中へ入って、トリナーム夫人がいないか探すはずだ。


 夫人が宿泊施設へ移動したことは、まだ知らないはずだから…… そして屋敷の中でなら、彼女と話し合う機会があるかもしれない。今の彼女に、残酷だが言わなければならないことがある…… こうなってしまった原因を伝え、今は一緒に行動すべきだと伝えなければ……!


 アランが心中でこのような算段を付けていると、じきにダーレンの屋敷が見えてきた。

 馬を減速させ、捜査員の姿を探す。――と、馬に乗っている姿が目立ったのか、向こうから近付いてきてくれた。


「殿下、どうなされたのです?」


 アランが馬から降り、捜査員に手綱(たづな)を渡したあと、


「誰か、屋敷の中へ入ったか?」

「いえ、朝から数名でずっと監視していますが、宿泊施設と同様で誰も出入りしておりません」

「――君は、ラニータ様の件を知っているか? 新聞なんかに載っていた記事のことだ」


「ブロムナーさんから伺っています」

「なら、単刀直入に伝える。その情報をアーシェも知った可能性が高い。彼女は無断で馬に乗って、今は一人で行動していて、俺が探しているところだ」

「ブロムナーさんは、そのことをご存じで?」


「ああ。今は、ブロムナーを含めた他の捜査員たちが、監獄所への捜査手続きとトリナーム夫人、ドロッカーさんの身柄の確保を進めている。じきにちょっとした騒ぎとなるだろう。町の警備兵にもそのことが(うわさ)で伝われば、記者連中にも知られることになる」


「目ざとい記者が、この周辺に現れる可能性もありますね…… そうなったら、ここの監視も難しくなりそうです」

「今は、アーシェの身柄を確保することに集中してほしい。下手(へた)をすると、身柄の確保や監獄所の捜査どころではなくなるかもしれない」

「了解しました」


「――騒ぎが大きくなる前に、俺が直接、トリナーム夫人の屋敷を捜査したい。君には申し訳ないが、この馬を見ていてくれないか?」

「えっ?」

「すぐ戻る。ちょっと確認しておきたいこともあるんだ」

「いや、しかし――」

「頼んだぞ、それから油断するな……! 俺が戻るまで馬をここに待機させておくんだぞ!」


 アランがそう言って、捜査員が戸惑うのを無視するように走りだした。

 馬を任せて待機させたのは、もし彼女が何かの策を講じて屋敷から脱したとき、すぐさま追いかけられるようにするためだった。


 彼は心のどこかで、アーシェが自分よりも一枚(うわ)手で、自分では追いかけるのが精いっぱいだろうという思いがあった。

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