表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の記憶  作者: 星乃夢
2/5

第二章 深まる謎


1節 不可解

「さぁ、行こうよ」

「ちょっと待って……心のシャッターを……」

と、言ってる凛の背中を押しながら碧は病院に入って行く。私は可愛い花束を持ちながら、二人の後を追った。病室の前に着くと

「あれ!?おかしいな。もうすぐ退院って聞いてたのに……。面会謝絶って……」

「気楽に来ちゃったけど、何かあったのかな?ねぇ、碧は何してるの?あっ、どこ行くの?」

「うん……ちょっとナースステーションを探してくる」

 病室の前の私たちを置いて、碧は1人でぐんぐん廊下を進み、突き当たりの角を最短距離でクイックに曲がり、姿を消してしまった。

 しばらくすると、年配の女性と何やら話しながら碧が戻ってきた。どうやら、面会室で力無く座り込んでいるのが遥華のお母さんだとナースステーションで教えてもらったらしい。

「あっ、凛ちゃん。来てくれたのね……ありがとう。そちらは?」

「いえいえ。おばさんの横にいるのが橘碧で、この子は結城茜です。遥華とおしゃべり出来るかと思って友達と一緒に来たんですけど……」

「それは、どうもありがとう。私は遥華の母です」

と、丁寧に挨拶を交わした。

「それよりも面会謝絶って、どうしちゃったんですか?」

 お見舞いの花束を私に持たせたままで、凛が心配そうに尋ねている。

「病室に入れないし……ここでは何だから、食堂に行きましょうか?」

 と、遥華のお母さんが言い、4人で移動する事になった。

 食堂には清潔感があるが冷たい印象のテーブルとイスが整然と並んでいる。入り口に近いテーブルのイスを引きながら『どうぞ座って』というように私たちに手で合図しながら、彼女はイスを引いて力無く座った。

 テーブルを挟んで彼女と凛が向き合い、私と碧は凛の隣に静かに座った。碧は分厚い手帳とペンをテーブルの上にに置き、腕組みをしている。テーブルの下で、私は渡しそびれた花束を凛の膝元にそっと置いた。花束に気づいた凛が、目で『ありがとう』と言い、直ぐに向き直って彼女の言葉を待っている。

「…………」

「……ええっと……」

「おばさん、大丈夫ですか?良かったら……どんな事でもいいので話してください……」 

「凛ちゃん、それがねぇ……。遥華が昨夜、知らない人が病室に入って来たと騒いで、廊下を走り回ったらしいの。今は鎮静剤で眠っているけど、このままだと違う病棟に移る事になるかもしれないって……だんだんひどくなってるみたいで……」

と、疲れ果てた顔で弱々しくかすれた声で話した。

「おばさん、遥華がどんな話をしていたとか、何か気になった事はありますか?私たち、少しでも力になりたいって思っているんです」

と、凛が話している横で、即座に私たちは大きく頷いた。 

 凛の友人は、遥華という名前で、事故で頭部を強打し意識不明の状態で病院に運ばれたらしい。外傷はなくCT等の検査の結果、脳しんとうと診断され、意識が戻ればすぐに退院できるだろうという事だったらしい。

 しかし、何故か遥華は、意識が戻る事がなく痙攣発作が起こり、一時的に心肺停止状態になった。医師は、改めて見落としがないように全身の様々な検査をしたが、やはり検査結果に何も異常が見当たらないと首をかしげた。

 遥華は、意識不明のまま1週間が過ぎていた。付き添いのお母さんは、毎日手を握ったり、擦ったり、話し掛けたりしていた。

 そんなある日、面会時間が終わりに近づき、

「遥華、また明日ね。早く目を覚ましてね」

 と言って帰ろうとした時、

「う〜ん、お母さん?起きたよ……。目が覚めたよ……。やっと身体に戻れたよ……」

 と言いながら、何の前触れもなく意識を取り戻した遥華が身体を起こして抱きついてきた。昏睡の原因が不明という事もあり、すぐには退院許可がでなかったが、間もなく退院できるという話になっていた。(ちょうど、この頃に凛が遥華のお見舞いに訪れていた)

 しかし、意識を取り戻した日は気付かなかったが、その後少しずつ不可解な異変を感じるようになったという。例えば、

「ねぇ、お母さん。私、ちゃんと聞いてたよ。早く目を覚ましてねって、お母さん言っていたでしょう?」

「そうよ、何度も話しかけたわ」 

他にも、 

「私の手を握ったり、擦ったりしてくれていたでしょう?」

「えぇ、そうね……」

『まるで、どこかで見聞きしていたかのような話をしてるの?気のせいかしら?』

 そして、 

「お母さんを泣かしてしまって、ごめんなさい。身体に戻れなくなっていたの……」

『えっ!?なぜ知ってるの?それに、戻れないって、どういう事なの?二人っきりの病室で、涙したことがあったが、誰も知らないはず……。昏睡状態の遥華以外は……』

 

「昨夜は騒動があったし、一体何が起こっているのか、どうしたら良いのか分からないの」

と不安そうにため息をついた。テーブルの1点に視線を落としたままだった彼女が、夢から覚めたようにハッとした顔をした。悪夢のような受け入れ難い現実に戻ってきたようだ。

「あっ、私ったら……ごめんなさい。ちょっと待っててね。飲み物を持ってくるわね」

と申し訳なさそうに席を立った。

 私たちは、彼女が離れていくのを確認してから、顔を見合わせた。

「やっぱり脳しんとうの影響か、心理的要因が大きいんじゃないかな?」

「遥華は、おばさんに光の存在って話しをしなかったのかな?」

「医者が原因を特定できないって事は、謎だよね?……どうする?」

「医者に任せるのが一番じゃないの?」

「私、昨夜の事は……遥華がいう知らない人って、幽霊じゃないかなと思うんだけど」

「幽霊!?」

「幽霊なんて居ないってば」

 私たちは、遠くで紙コップをトレーに乗せている彼女の姿を見ながら呟いた。

「後で、しっかり作戦を練ろう!」

と小声で囁くと、みんな同意して大きく頷いた。


2節 作戦会議

 ペンを置き、バタンと手帳を閉じた碧は、目を閉じて腕組みしている。対照的に凛は、キョロキョロと辺りを見たり、急に振り返ったりしていて落ち着きがない。

「大丈夫?」

「ううん、心のシャッターが直ぐに開いちゃう……困ったなぁ。法月さんの所に行きたいな」

「感情が高ぶったからかな?」

 凛の話では、病院という場所がら幽霊が沢山いるが、ほとんどが生前のルーティンを繰り返しているだけらしい。

 幽霊が見えない私にとっては、凛が見えている別の世界や幽霊は謎だらけで、好奇心と興味、疑問によって仮説や考察のテーマの宝庫になる。

 例えば、凛と私のように、なぜ幽霊が見える人と見えない人がいるのか。見える人と見えない人の特徴、状態、条件などをリストアップして比べたり、心霊写真といわれるものなら幽霊が見えない人にも見える事になるのか……などなど。夢中になって仮説の考察をして徹夜する事がよくある。

『先程の話によれば、前回は遥華が光のかたまりを目撃した事、その時も幽霊の存在は否定していたという事。

 昨夜の騒動では、遥華のいう知らない人が実際には誰にも確認できなかったという事か。それから……』

「よしっ、一つずつ一緒に考えてみよう!茜は考える事が多過ぎて頭が回らなくなってきた?それとも、また徹夜したとか?」

と、碧が私たちを覗き込んでいた。

 

3節 別視点

 私が凛と幽霊の話をしていたからか、不機嫌そうに見える碧が話し始める。手元の手帳のメモを私たちに見せながら、

「まずは、確実な現象や事実を見て、その後可能性がありそうな事を考えてみようと思うの。ここに書き出した項目……付け加える事はあるかな?」

「すごい!要点が分かりやすいね」

「……幽霊の項目が……ない……よ」

『事故、脳震盪、痙攣、心肺停止、昏睡、原因不明……』の項目の中で、『原因不明』という部分で碧の手が止まった。ペンでトントン叩きながら

「検査で異常や問題がなかったのに……原因不明か……これは、どう理解すれば良いのかな……」

 と、また腕組みしながら目を閉じてしまった。これは自問自答しながら考えを巡らせる時の碧の癖だ。

「ねぇ、他にもメモがあるんでしょ?ちょっと見せてほしいなぁ……ダメかな?」

 科学的情報が書かれているのではないかと想像すると好奇心を抑えきれず、独り言のように思わず私の口から出てしまった。

「別に、いいよ」

と、あっさり返事が返ってきた。私は、期待値マックスで早速ページをめくってみる。

『生命の起源 原始地球 バイオフォトン 量子 素粒子 電磁気 光子 DNA 信号の切り替え 臨死体験 宇宙との繋がり (パソコン)』

 など、面白そうな単語が並んでいた。私が知っている単語と知らない単語。特に『宇宙』や『生命の起源』って文字をみるだけで心が躍ってしまっている。

「面白くないでしょう?」

「全然そんな事ない!!どうしよう……ワクワクが止まらない~!」

 碧は、何も聞こえなかったかのように前のページをめくり、

『遥華の言葉(戻る?) 知らない人(可能性低 幽霊?) 光の存在?』

と、書き加えた。凛と私は顔を見合わせてニッコリした。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ