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15/18

15_見誤り


 結論から言うと、アンドロメダは選択を誤った。


 アンドロメダはリオの扱いをこの場で紅の従者の補助をする形で残らせる事にした。可能ならば紅の従者も地脈への特攻に連れて行きたかったが、リオの扱いが複雑であり、戦闘経験の有無から共に地脈に向かわせる訳にもいかないので、リオの監視も含め残らせた。

 白の従者は道中の露払いのためにアンドロメダに同行し、魔法の近距離と遠距離、剣戟戦、弓の扱いに長けている者を騎士団及び緊急依頼を受けた冒険者からそれぞれ一人ずつ護衛として出し、6名で地脈へと向かう事になった。

 アンドロメダを擁護するのならば、今回の大森林地脈騒動の解決という点においては間違った事はしていない。護衛の選出基準も前線の維持という意味でもアンドロメダは適した人選を選んだ。

 実力的に無傷とはいかなくとも大きな怪我のリスクは限りなく低い状態で、地脈まで辿り着きアンドロメダの浄化力で浄化しきれる。そんな道筋は幻想でも分の悪い賭けでもなく、安定した未来として間違いなく存在した。


 ただ善意を見誤った。

 悪意でもなく、正義というわけでもなく、悪でもない。

 そんな何処にでもある、世界が変わっても変わらず存在していた善意を、見誤ったのだ。




 アンドロメダは戦闘強者だ。

 肉弾戦も魔法も人より高水準で、突如襲い掛かられても身体能力(こぶし)一つで殴り倒せる自信はある。

 ただ、聖女のイメージとは違うため、多少は意識する。あくまでも余裕がある場合だけだが。


「聖女様の邪魔をしやがるんじゃありませんことよモンスター達ァァァァァアア!!」


 そして今回、遠回りをしているので前線などと比べると落ち着くとはいえ、モンスターが次々襲い掛かってくる状況で比較的余裕を保てていた。

 理由は先行する白の従者のお陰だ。

 彼女が率先して敵をひきつけ、その拳で敵を屠り、モンスターを引き寄せる効果を持つ返り血(フェロモン)を浴びるのを気にせず進むお陰で他の護衛も含めアンドロメダは楽できていた。ただ見た目はクールな美女が、叫びながら拳で相手を屠る様はどちらがモンスターか分からないほどの衝撃的な光景である。白い髪も紅の従者の如く赤く染まっている。


「……あの、俺最近この国来た冒険者なんですけど、何です彼女。メイド服を着た狂戦士(バーサーカー)なんですか?」

「私も前に戦闘を一度見たから知っているくらいだけど……聖女様候補でもあった、肉弾戦が得意な子だ。詳細は知らないが魔法が優れた一家に生まれて、無理矢理お淑やかに育てられていたんだけど、反動なのか戦いではああやって本能……もとい、活き活きと戦うようになるらしい」

「な、なるほど?」

「ちなみに侯爵家の御令嬢だ」

「え」

「昔パーティーで会ってめっちゃお淑やかだったから覚えている。……見た目は大事だが、見た目で判断も良くないと学ばされた。だから兄ちゃんもモンスターは見た目に気をつけろよ?」

「そこは異性の判断とかじゃないんですね」


 警戒や援護をしっかりとこなしつつも無駄口を叩くほど余裕がある中、アンドロメダ達は進んでいく。

 なお、白の従者は伯爵家の令嬢、長子ではあるが、現在は家に名前があるだけの疎遠状態だ。理由は聖女強い拘りを持つ両親の期待に沿えずに聖女になれなかった事と、相応しくないから止めろと言われた戦い方を、期待に押し潰されそうになった白の従者がそのストレスから再びするようになったからである。

 本来なら聖女不適合時点で放逐される所を、アンドロメダが無理に従者とする形にしたのである。

 そんな事もあって白の従者はアンドロメダに大いなる敬意を抱いている。抱きすぎて厄介な域にはなっているが、今の所大きな問題は起きてはいない。リオが聖女のファンはこういうのが多いのか、という感想を抱くような小さな問題は起きてはいるが。


「皆さん、警戒を。そろそろ地脈へと着きます」

『了解しました』


 アンドロメダの言葉に護衛全員が頷き、自身の武器を握る手を強くする。

 白の従者のお陰で想像よりも楽に地脈付近まで来たが、前線のモンスターを送り込む原点に来たのだ。油断をすればあっさりと命を失うという事を充分に把握している。余力は多く残っているので、この余力で聖女アンドロメダの浄化を邪魔しないようにより奮闘する事と、余力を作ってくれた白の従者の援護を強くしようと思いつつ、地脈が見える場所へと近付く。そこは丁度モンスターが今はおらず、10m程度の高所から地脈を見下ろせる場所である。


「うわ……なんだあれ」


 それはあまり呪力にピンと来ない護衛の一人である冒険者でも分かるような、そしてつい引いた言葉を発してしまうような光景だった。

 地脈がある広場は本来大森林の中にある、草が生い茂り花も咲くような、一般人が護衛を連れてでも観光に訪れるような、安らぎのある場所だった。しかし今は草のあった場所は土が露出し痩せ細っている。花も枯れて鮮やかな色は黒く腐っていた。

 まるで生を否定しているかのような光景だ。しかし吸い寄せられるように集まるモンスターは、生を否定されるどころか祝福されるように強くする。その強くなる過程が、猫を熊にするような、見ただけで普通じゃないと思わせるような身体の変化も与えている。まさに異常事態で、これなら前線の有様も納得出来る、というような光景である。


「……呪力に耐え切れなくなったモンスターが外に向かっているようですね」

「というのは?」

「あの呪力にはモンスターを強化する力があるのですが、それぞれのモンスターに呪力に対する許容値があり、限界を迎えると死んでしまう。その前に外に出ているのでしょう」

「つまりそれって……」

「ええ、後から来るのは許容値が高いモンスター。時間が経てば経つほど、今よりも強いのがどんどんと溢れてくるでしょうね。……もしかしたら今までのは全体を見れば弱い部類に入るモンスターばかりだったかもしれません。ほら、あの辺りとかまだまだ余裕そうですよ?」


 アンドロメダが指し示したのは、地脈の中心と言えるような場所で安らかに眠っている竜であった。

 竜といっても小さく、本来なら強大な竜種としては中堅であれば余裕で狩れるようなモンスターだ。ただ、その様子は見る影も無く大型竜種(ドラゴン)に近い飛翔小竜種(ワイバーン)レベルまで大きくなっており、このままであれば前線にいた面々を一体で全て崩壊させるのではないかと思われるような強化の最中であった。


「あのモンスターが呪力で一杯になる前に来れて良かったと思いましょう。武勇伝に出来なさそうですが、大丈夫ですか?」

「欲しいのは武勇伝より市民の安寧ですので。それに武勇伝は必死にやってきた後についてくるものですし」

「俺は報酬と聖女様を守ったという肩書きで箔を付けたいですが、強いモンスター相手だとそういうのを今後相手に働かされそうだから今が丁度良いです」

「聖女様に害をなすならとりあえずブッ飛ばします」


 それぞれが冗談なような事を言い合い、一瞬ではあるが気が緩む。

 しかしすぐに真剣な表情になり気を引き締めた。この一連の会話で呪力が溢れて草木が枯れ、自分達が先程まで全力で迎撃していたモンスターはまだ序章であり失敗すれば被害が広がる、という脅えや気負いが軽減されていた。


(けど、何なんだろうこの呪力。地脈で流れた事は過去にもあった事があるけど、ここまで来たのは資料で見る限り過去に数える程度。しかも半分以上が人為的なものだったくらい。確かモンスターをこんな風に強化して戦闘利用しようと何処かの軍隊と、他国の地脈を汚染して戦争条約を改定させたような一件。自然か、人為的か。後者なら魔法陣とかある可能性が高いけど……)


 地脈を浄化する場合、基本的にする事は浄化をし続ける事で呪力を消し、本来の魔力の割合を増やしていく事で自浄作用を促して回復させる、というのが基本だ。ただ人為的であった場合、呪力の割合を増やし続ける魔法陣があったりするので、その魔方陣を消さねば浄化をする時間と魔力量が増えるのである。それを避けるためにも、自然か人為かを判断する必要がある。そのため、アンドロメダはモンスターと地脈を確認しながら様子を見ていた。


(……あのでっかいモンスターの下とかにあるかもだから分からないな。というか呪力を帯びたモンスター多くて探知がし辛い。ひとまず広域浄化をして探知に邪魔な呪力を退かして、探知後にあったら魔方陣を消して、無かったら浄化魔法を強める感じで行くか)


 内心の判断を噛み砕き、丁寧な口調で周囲に伝えた。

 その後役割分担で誰が何を相手するかを決める。アンドロメダは地脈中心に居るドラゴン種を3名で引き付けている間に地脈中心で浄化を行い、残りのメンバーが襲い掛かってくるモンスターを対処する。互いのどちらかが光魔法を上空に放てば一時撤退の合図。

 それらを確認し、地脈へと足を踏み入れようとする。


「では行きますよ。3、2、1――」


 カウントダウンを始め、各々が死なないために気持ちを切り替える。

 この数とモンスター相手は油断しなくとも最善種を取り続けてようやく怪我をしなくて済むというレベルだ。楽観視は出来ないが、悲観して足が竦めば悲観が現実になる。

 先程まで軽口を言い合っていた将来有望な実力者達はそれらを理解し、不安や恐怖を危機回避のための勘の燃料として心の隅でくべ、余裕と慢心を身体を動かすための力として発露する意識の変革をする。それだけで全員の魔力(せいしん)が大型戦闘用へと研ぎ澄まされていく。


「――行きます!」


 そして戦闘が始まる。

 選択の間違いは既に起きていた。

 ここではない、前線で。


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