【8話】学園ナンバーワンvsワーストワン
レイグラッド邸に戻ってきた俺は、一目散にイレイスの部屋へと向かった。
「おいイレイス! ドアを開けろ!」
取り立てに来た借金取りみたく、握った拳をドアにガンガン叩きつける。
今の俺は、猪突猛進なバーサーカー。行儀のいいノックなんてしてやるものか。
しかし、返事はない。
あれ、いないのか?
眉を寄せながらドアを開けてみると、
「いんのかよ!」
思った通り、イレイスはちゃんと部屋の中にいた。
ベッドの縁に腰をかけ、ナイフのような鋭い目線を俺に向けている。
「入っていいと、私、一言も許可していませんよね? 勝手な行動は非常に不愉快です。今すぐここから出て行ってください」
「いいぜ。ただし、条件がある」
俺はズポンのポケットから魔晶石を取り出した。
エレナさんから借りてきたやつだ。
「……そんなものを取り出して、いったいなんの真似ですか?」
「俺とお前で、この魔晶石に同時に魔力をこめる。お前の方が魔力が強かったら、素直に部屋から出て行ってやる。ただし、俺の方が強かった場合……そのときは俺の質問に答えてもらう」
「無理矢理私の部屋に押し入ってきたと思えば、次はくだらない勝負の提案……なんですかそれは。意味が分かりません。私が応じるとでも?」
「負けるのが怖いのか?」
「…………はい?」
イレイスの眉尻がピクリと跳ね上がった。
元々ピリついていた雰囲気が、さらに尖ったものになっていく。
「学園でもトップクラスの魔力量を持っているあのイレイス様が、万年Cクラスの『底辺クン』に怖気づくとは意外だぜ。とんだ臆病者だったんだな、お前。でも怖いならしょうがない。邪魔したな」
嫌味ったらしく鼻を鳴らしてからイレイスに背を向ける。
「……待ちなさい。誰が臆病者ですか」
その言葉を受けて、俺は体を向き直す。
……へぇ。そんな顔もするんだな。
イレイスの表情には激しい怒りが浮き上がっていた。
感情表現に乏しいイレイスが本気でキレているところを、初めて見たような気がする。
「あなたのような取るに足らない弱者に、この私が臆することはありません。身の程を知らしめてあげましょう」
「勝負成立だな」
イレイスの隣へ腰を下ろした俺は、二人の間に魔晶石を置いた。
手を伸ばした俺とイレイスが、同時に魔晶石に触れる。
「それじゃあいくぞ。3、2、1」
カウントダウンとともに、二人はいっせいに魔力を込めた。
さすが学園トップクラス。半端じゃねぇな。
イレイスの魔力出力は、とてつもなく高い。
思っていたよりもずっと強大だった。
でも……これなら問題ないな。
【身体機能極限解放】の発動中は、常に大量の魔力が消費されている。
並の魔術師なら、五秒ともたないだろう。
だが俺は、最大で十日まで持続することができる。
つまり何が言いたいかというと、俺の魔力量は桁外れに多い。
たぶん世界でもトップクラスだ。
学園トップクラスと、世界トップクラス。
いくらイレイスの魔力量が多いと言っても、俺の足元にも及ばなかった。
そろそろ終わらせるか。
最初はイレイスに合わせていた俺だったが、少しずつ出力を上げていく。
「……ぐっ」
イレイスの顔が歪んだ。
俺の魔力出力に、だんだん追いつけなくなってきている。
まだまだ余裕がある俺は、さらに出力を上げていく。
「もう、ダメっ……!」
そしてついに、イレイスが追いつけなくなった。
決着。
かくして、Aクラスの天才対Cクラスの底辺クンの対決は、底辺クンの勝利に終わった。
「なんですかその魔力量は……! それでCクラスなんておかしいです!」
イレイスが声を張り上げた。
負けた悔しいのか、少し涙目になっている。
「魔力量が多いだけだと評価されないからな」
いくら魔力量が多くても、俺が使える魔法はイレギュラーな魔法ふたつのみ。
四属性魔法しか評価されない学園の評価システムにおいては、魔力量の多い少ないは関係なかった。
「勝負は俺の勝ちだ。という訳で、質問に答えてもらう」
「…………いいでしょう。勝負の結果は受け入れます」
潔い言葉とは裏腹に、イレイスの顔は悔しがっている。
勝敗に納得していないのが見え見えだった。