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【6話】SSランク冒険者としての顔


 今日は週に一日設けられている、学園の週休日。

 俺は今、モンスターフォレストという巨大な森に来ていた。

 

 モンスターフォレストは、モンスターの群生地。

 そこら中にうじゃうじゃモンスターが暮らしているような、危険な森だ。

 

 せっかくの貴重な休みにどうしてこんな場所へ来ているかというと、それは、俺が冒険者をしているから。

 冒険者ギルドで受けたモンスターの討伐依頼をこなす――俺の週休日の過ごし方はいつもこれだ。

 

「シオン。今日の討伐目標はアークオーガだったよな?」

「うん! そうだよミケ!」


 俺と横並びで歩いている人物が、元気に声を上げた。

 

 こいつはシオン。俺と同じ冒険者でバディだ。

 一緒に組んでからもう三年ほどになる。

 

 肩の上で切り揃えられた赤い髪に、くりくりとしたオレンジ色の瞳。

 白色のローブを羽織っている体は小さく、華奢な体型。なんともかわいらしい外見をしている。

 

 ――だが、こいつは男だ。

 外見がいくら女の子だからといって、間違えてはいけない。


「『禁域』に入るの久しぶりだね」

「確かにな。久々に骨がありそうな依頼だぜ」


 モンスターフォレストは、奥に行けば行くほど危険なモンスターが出てくる。

 その最深部――それこそが今俺たちが向かっている、禁域と呼ばれるエリアだ。

 

 禁域に生息しているのは、どれも獰猛で強力なモンスターばかり。

 もし新米冒険者が足を踏み入れようものなら、十秒と持たずに命を落としてしまうだろう。

 

 そこで冒険者ギルドでは、禁域に入るにあたり制限を設けている。

 Sランク冒険者以上のみ入場を許可する――というのがその内容だ。

 

 冒険者はランク分けされているのだが、Sランクというのは上から二番目。

 飛び抜けた才能と技量を持つ冒険者の中でも、一握りの者だけがたどり着けるような幻のランクだ。

 

 だが俺たちは、二人とも禁域への入場条件を満たしている。

 

 シオンはSランク。

 そして俺はSランクよりもさらに一つ上、王国にわずか四人しかいない冒険者の最高峰――SSランクだからな。

 

 

 禁域の目の前までやってきた。

 俺たちの討伐目標であるアークオーガは、このエリアの中にいる。

 

「やっぱり禁域は違うね。空気がピリピリしてる!」

「あぁ。殺気で満ちてるな」


 禁域に一歩踏み込んだ瞬間、空気がガラリと変わった。

 

 突き刺すような鋭い視線を、あらゆる方向から感じる。

 鉛みたく重苦しい空気が体にまとわりついてくるようで、とても息苦しい。

 

 これがSランク以上のみが入ることを許されているエリア――禁域。

 エリアの中と外では、まるで空気が違う。同じモンスターフォレストなのに、別世界のようだった。

 

「それじゃアークオーガを探しに行きますか!」

「いや、その必要はないみたいだ」

「え――おお! 本当だね!」


 五メートルほどの体躯を持つ巨大人型モンスターが、俺たちの方へ向かってきた。

 大きな足を一歩動かすたびに、地面が激しく揺れる。

 

「ズォオオオオ!!」

 

 鬼のような顔面から、獣のごとき咆哮が上がった。

 このモンスターが俺たちの討伐目標――アークオーガだ。

 

 つま先から頭のてっぺんまで、全身がボコボコと盛り上がっている。筋肉の塊だ。

 

 それを覆うのは、光沢のない漆黒の皮膚。

 その強度は、鉄の硬さをはるかに上回る。

 

 人食い鬼として多くの人々から恐れられているオーガの上位種――アークオーガ。

 危険度は非常に高く、Aランク以下の冒険者はまずなぶり殺しに合うだけだと言われているほどだ。

 

 アークオーガの周囲には、十数体の人型モンスター――オーガがいた。

 さながら、子分を引き連れて侵入者である俺たちを殺しにやって来た、というところだろうか。

 

「雑魚は頼んだぜ、シオン」

「うん。いつも通りのやり方だね!」


 俺は【身体機能極限解放(オーバードライブ)】を発動。

 地面を蹴って、アークオーガまで一直線に跳んでいく。

 

 それと同時、

 

「【エアブレイド】」


 シオンが真空の刃を放った。

 オーガに向かって飛んでいったそれが、二メートルほどあるオーガの赤色の肉体をいとも簡単に切り刻んでいく。

 

 オーガの体は硬い皮膚と分厚い筋肉に守られている。

 生半可な攻撃魔法では、かすり傷ひとつつけることができない。

 

 シオンの魔法は、そんなオーガの強靭な肉体をスパスパと切断していた。

 

 シオンは風属性魔法のスペシャリスト。

 そこら辺の風属性魔法の使い手とは格が違う。

 フィードもシオンと同じ魔法を使っていたが、比べることが失礼なくらいに大きな差があった。

 

 アアア!! ――オーガの群れから上がるのは悲鳴と断末魔の叫び声。

 十数体いたはずのオーガは、シオンの放ったたった一撃のみで物言わぬ肉片となっていた。

 

 シオンのやつまた腕を上げたな! 俺も負けてられねぇ!

 

 アークオーガの足元へ着いた俺は、もう一度地面を蹴った。

 今度は上へ向けて直角に跳び上がる。

 

「オオオ!!」


 大きな手のひらをめいっぱいに広げたアークオーガが、俺目掛けてそれを垂直に振り下ろしてきた。

 まるでハエ叩き。俺を地面に叩き落とす気だ。

 

「だが残念。俺はハエじゃねぇ」


 俺の体が、アークオーガの手のひらを突き抜けた。

 大きな風穴が空く。

 

 【身体機能極限解放(オーバードライブ)】によって、俺の体は神の域に到達している。

 叩き落とそうとしても無駄だ。

 

 大きな手のひらと接触しても、上昇する俺の勢いはまったく死んでいなかった。

 風穴を開けられたことで吠えているアークオーガの絶叫を聞きながら、上へ上へ。ついには、てっぺんまで到達する。

 

「オオオオオッッ!!」


 ヨダレをまき散らしながら吠え、興奮しているアークオーガ。

 そいつの側頭部へ向けて、俺は横蹴りを放つ。

 

「オ……オォォ……」

 

 大木の幹のように太いアークオーガの首が、あらぬ方向にねじれた。

 事切れた漆黒の巨体が、膝から崩れ落ちる。

 

「ふぅ……一撃か。思ったよりあっけなかったな」

「やったね! あのアークオーガを一撃なんて、やっぱりミケはすごいや!!」


 俺の胸目掛けて、シオンがおもいっきり抱き着いてきた。

 

 これは毎度のこと。

 依頼を完了すると、シオンはこうして俺に抱き着いてくる。

 

 フローラルのふんわりとした匂いが、俺の鼻先をかすめた。

 魅惑的な香りに、どうしても女の子を意識してしまう。

 

 俺は今、女の子に抱き着かれている。しかも、めちゃくちゃかわいい――ハッ!

 

 置かれている状況にあやうく理性を失いかけるも、ブンブンと首を横に振る。

 

 なに考えてんだ俺は! こいつは男だぞ! 女の子より女の子だけど、でも男なんだよ!!

 

 強く自分に言い聞かせることで、なんとか理性を保った。

 もう少しで、新たな道を歩み始めてしまうところだった。ふぅ……あぶないあぶない。

 

 ひっつくシオンを無理矢理引き剝がした俺は、「こういうことはもう()めろ」と言って聞かせた。

 

「こういうことって?」


 シオンがきょとんとした顔で覗いてくる。


「その……抱き着いてくることだ」

「なんでさ?」

「受付嬢の間で、俺たちがデキてるって噂になってんだよ」


 近頃、冒険者ギルドの受付嬢は、『王道のミケ×シオだよね』とか『私は断然シオ×ミケ派だな』とか『ゴブリンと絡ませたい』とか……そんな話題でキャッキャッと盛り上がっている。

 彼女たちの言っている意味はよく分からないが、ろくでもないことを言っていることだけはなんとなく分かる。

 

「別に気にしなくていいじゃん」


 あっけらかんとシオンは言い放つ。

 

 そうだった。シオンはそういうやつだった。

 

 シオンは昔からスルースキルが高い。

 周囲に何を言われようと気にしない、鉄のマイペースさを持ち合わせている。

 

「いや、お前が良くても俺が気にすんだよ!」

「うーん……帰ろうかミケ!」


 考えるのが面倒になったのだろう。強引に話を切り上げたシオンは、帰り道を歩きだしてしまう。

 鉄のマイペースさが、さっそく本領を発揮した。

 

「ちょっ、待てって!」


 先を歩いていくシオンに小走りで追いつく。

 

「そういえば、義理の姉妹とは仲良くなれたの?」

「いや、それがさ――」


 

 ――これが俺のもう一つの顔。

 SSランク冒険者としての、ミケル・レイグラッドだ。

 

 シオンのマイペース振りにはいつも振り回されてばかりだが、なんだかんだで俺はこの生活を気に入っている。

 この先もずっと続けていきたい。

 

 だからこそ、世界の崩壊は必ず食い止めないとな。

 

 絶対に成功させなければならない使命を、俺は再び胸に誓った。

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