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【51話】もうひとつの魔法


「【ヘイトエクスプロージョン】」


 放たれたのは凝縮された黒い塊。

 至近距離から撃たれたそれに対し、回避は間に合わない。直撃してしまう。

 

「ッッ!」

 

 黒い塊は俺に触れた瞬間、破裂。

 いくつもの鋭い破片が俺の体に突き刺さった。

 

 全身にナイフをめった刺しされているかのような激しい痛みに耐えながら、その体勢のまま後方に押し込まれてしまう。

 

 【身体機能極限解放(オーバードライブ)】を発動中の俺にダメージを与えた強力な攻撃魔法【ブラックフレア】さえもはるかにしのぐ、驚くべき威力を持つ規格外の魔法だ。

 あと一度でもこれを食らったなら、俺の命は尽きてしまうだろう。

 

「これを直撃してもなおまだ息があるのか」


 アダムルが感心の声を漏らした。

 

「手強い男だ。しかしどうやら、致命傷のようだな。……フィアネの願い通りに殺していればこうならなかったものを。その甘さが仇になったな」

「黙れ。俺はあいつと約束したんだよ。ずっと一緒にいるってな」

「ほう、それはそれは……なんとも美しい話だな。しかし実際はどうだ? 私はこうして復活し、世界はこれより破滅へ向かう。すべては貴様のせい。貴様の甘い選択が招いたことだ」

「そうはさせねぇよ……!」

「口だけは達者なようだな。だがどうする? どうやって止める? 私にダメージを与えることができないというこの絶望的状況を、どうやってひっくり返すつもりだ!」

「……こうすんだよ」


 勝ちを信じて疑っていないアダムルへ、俺は黒い焼け痕が残る右腕を向けた。

 

「【ソウルデストラクション】」

 

 俺が使える魔法は二種類だけ。

 【身体機能極限解放(オーバードライブ)】が通じない以上、ヤツを倒すにはもう片方の魔法を使うしかなかった。

 

 しかし何も起きない。

 それを見てアダムルは大きな笑い声を上げた。

 

「不発か! 何をするのかと思えば――!? ぐおおおおおお!!」


 アダムルの表情が一転。

 苦痛に歪み、大きくめくれ上がった口から苦悶の叫びが上がる。

 

「き、貴様! いったい何をした!」

「相手の精神に干渉し、汚染する――それが俺の魔法【ソウルデストラクション】だ。これを受けた相手は、魂が自ら死に向かっていく。つまりは、自殺するという訳だ」


 【ソウルデストラクション】は相手の精神に干渉する魔法。

 攻撃魔法ではないので、絶対的な防御を誇るアダムルの体にも防がれることはなかった。


「き、貴様……フィアネを殺すというのか!」

「そんなことするはずないだろ。その体にはフィアネとお前、二つの魂が入っている。俺の魔法が殺すのは邪神アダムル――お前の魂だけだ。フィアネには影響がない」

「許さん! 絶対に許さんぞ!!」

「さて、俺の大切な幼馴染を返してもらおう。じゃあな、邪神アダムル」

「こんなところで私が……私があッ! うおおおおお! ふざけるなああああああ!!」

 

 恨み言をまき散らしたあと、プツリと糸が切れたようにフィアネの体が崩れてしまう。

 

「フィアネ!」


 俺は急いで駆け寄り、地面につく前にフィアネの体を抱きかかえる。

 禍々しい雰囲気は消え、いつものフィアネに戻っていた。


 フィアネの黄色い瞳がゆっくりと開く。


「み……みーくん」

「大丈夫だ。安心していい。もう全部終わったからな」

 

 微かに開いた唇から漏れた声に、俺は優しい声で応える。

 

 フィアネは安心したかのように小さく笑うと、再びゆっくりと瞳を閉じた。

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