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【49話】変貌

 

「契約すると、水晶にいたアダムルは私の中に入ってきた。そして力を貸してくれたの。とてつもなく強い力だった。その力で物置を出た私は両親を殺して……それでようやく自由になることができたんだ」

 

 邪神アダムルの封印は十年前に破られていた。

 そいつは今、フィアネの中にいる。

 そんなこと聞かされた俺は、驚くこしかできない。

 

 けれどそれよりも、俺と出会う前のフィアネがこんなにも辛い過去を背負っていたとは思いもしなかった。

 かける言葉が見つからなかった。

 

「五歳の私を誰も疑わなかった。結局両親は、盗賊に襲われたということで処理されたの。それから私は親戚のリルティ男爵家に引き取られて、ここへ来たんだ。それで、みーくんと出会った。それからは本当に毎日が楽しかった。真っ黒だった世界がパッと色づいたの。……みーくん、今まで本当にありがとうね。楽しかったよ」

「……なんだよそれ。ふざけんな! もういなくなるみたいな言い方してんじゃねぇよ!」

「みたい、じゃないよ。本当に消えちゃうの」


 フィアネの口から出たのは否定の言葉。

 声色は優しかったが、表情は真剣そのものだった。


「最近は一日ごとにね、自分が自分じゃなくっていく感覚がするの。それが気持ち悪くて体調がおかしくなっちゃって、学園を休んでずっと部屋に閉じこもってたんだ。アダムルと契約したのがちょうど十年前の今日……たぶんフィアネ・リルティは今日で終わって、それでアダムルの器になる」

「どうして今まで黙ってたんだよ! そんなこと俺に一言だって言ってくれなかったじゃないか!」

「私、知ってるんだよ。みーくんって辛口だけど、本当は誰よりも優しいって。私のことを知ったら、きっと心配しちゃうでしょ? そんな顔させたくなかったの。だからね私、一人でどうにかしようと思って包丁をお腹に刺そうとしたんだ。……けれど、ダメだった。他のやり方も試したけど、死のうとしたら体の動きが勝手に止まっちゃうんだ。きっと私の中にいるアダムルが、そうしているんだと思う」

「……アダムルとは話せないのか? それで契約を取り消してもらうとか――」

「ううん。契約して私の中に入ってきてからは、呼びかけても応えてくれない。一度もお話できていないの」


 小さく息を吐いたフィアネは、広げた手のひらで軽く胸を叩いた。


「でも、ここにいるアダムルの目的は知ってる。私を引き取ってくれたおじさんとおばさん、ソフィアちゃん、それに、みーくん。……このままじゃ大好きな人たちをみんな、私が殺しちゃう。いやだよ……私、そんなことしたくない……!」


 広げていた手のひらを固く閉じたフィアネは、グシャっと胸を握りしめた。

 唇を強く噛み、体を震わせながら首を横に振った。


「ごめんね……辛い役目を負わせちゃって本当にごめん。最低だよね。でもこんなことを頼めるのは、もうみーくんしかいないの!!」


 真剣な眼差しを向けてくるフィアネに、俺は小さく微笑む。


「バカだな。頼まれたからって、お前のことを本当に殺すと思ったのかよ。前に約束しただろうが、ずっと一緒にいるって」


 俺は懐から取り出した指輪を指に付ける。

 それは七年前のフェスティバルで買った、おそろいの婚約指輪。フィアネが今指につけている指輪と、同じものだった。


「ずるい……! それはずるいよみーくん!」


 フィアネの瞳から涙がボロボロこぼれていく。

 でも次の瞬間、

 

「ああッ……!」


 フィアネの体が黒い光に包まれた。

 

 漆黒のそれは、とにかく異常で異質。

 これまでに感じたことのないような、密度の濃い禍々しさを感じる。


「ダメっ……アダムルが出てきちゃう! みーくんお願い! お願いだから早く私を殺し――」


 言い終わる前にフィアネを包んでいた黒の光が消えた。

 

 そうしてそこに立っていたのはフィアネではなかった。

 姿かたちこそ同じだが、雰囲気がまるで違う。別人に成り代わっていた。


「……お前が邪神アダムルか?」

「――いかにも」


 アダムルはかけていたメガネを手に取ると、それをグシャっと握りつぶした。

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