【44話】プレゼント
横暴な第三王女様を連れて、俺は中心街へやって来た。
どこへ行きたいか聞いてもアイギスは、『ミケルが決めて』の一点張り。
そう言われても……、と俺は困惑しつつも、とりあえず色々と物が揃っているここを選んだ。
人が行きかう路上を横並びになって歩いていると、アイギスが俺の顔を見上げてきた。
「デートって何をするの?」
「……まさか、知らないで誘ってきたのか」
「うん。デートするの初めて。それで?」
「残念だがお前の質問に答えることはできない。俺もお前と同じで、女とデートしたことがないからな」
「そう」
アイギスの口角が微かに上がる。
非常に分かりづらいがこれは笑っている反応だ。
アイギスと同じく表情変化に乏しいイレイスと毎日暮らしているおかげか、そういったものの判別がつくようになっていた。
「ミケルの初めてを私が貰えた。嬉しい」
アイギスすれ違った若いカップルの顔が、かあああっと赤くなる。
どうやら彼女の言葉を変な風にとらえてしまったらしい。
少し歩いて立ち止まったカップルは、今度は俺の顔をもじもじと見てきた。
なんという羞恥プレイか。
「とりあえず、あそこに行くぞ!!」
恥ずかしくていたたまれなくなった俺は、アイギスの手を掴んで近くのアクセサリーショップへ入る。
ともかくどこでもいい! 緊急避難だ!
店内にはイヤリングや指輪などの、多種多様なアクセサリーが飾られている。
身を乗り出したアイギスは、それらを興味深そうに眺めていた。
「こういう店に来るのは初めてか?」
「アクセサリーも服も自分で買ったことはない。いつもメイドが買ってきてくれる」
「それならこの機会に買ってみたらどうだ? 自分で選んでみるのも案外楽しいかもしれないぞ」
「分かった」
アイギスと一緒に、ぐるぐると店の中を回っていく。
しかしアイギスは、中々決められない様子。
時間だけが過ぎていく。
そしてついにギブアップ、
「ミケルはどれがいいと思う?」
俺に助けを求めてきた。
「そうだな……これなんかどうだ?」
俺が手に取ったのは手近にあった、銀色のチョーカー。
繊細な銀細工が、淡く柔らかい光を放っていた。
アイギスの美しい銀髪に合うような、清楚で気品のあるアクセサリーだ。
「これにする」
「俺が選んだものでいいのか?」
「うん。あなたが私のために選んでくれた。だからこれでいい――これがいい」
「……そうか。アイギスがそう言うなら」
言わんとしてることがいまいち理解できないけど、本人がそれでいいんだったら従うしかないよな。
「じゃあ買ってくるよ。少しここで待っててくれ」
「うん? お金なら持ってる。私のものを買うのに、どうしてミケルがお金を出すの?」
「いいんだ。こういうのは男の役目だからな」
「そうなの?」
首を傾げるアイギスに笑顔で頷いた俺は、チョーカーを持って会計窓口に向かった。
「ほらよ」
会計を済ましてきたチョーカーをアイギスへ渡す。
アイギスはさっそくそれを首につけると、なんとも嬉しそうに笑った。
これまで見てきた顔の中で、一番感情に溢れている。
「たからもの。一生大事にする」
俺は何も言えなかった。
彼女の笑顔は衝撃的で、それでいて本当にかわいらしい。
思わず見とれてしまって、言葉がうまくでてこなかった。




