【43話】アイギスとデート
邪神教の教祖、デレーロが死んでから三週間が経った。
デレーロを失った邪神教は統制役がいなくなったことで、存続が困難になっているらしい。
教団を抜ける者が後を絶たず、解散も秒読みなのだとか。
先日、シオンがそんなことを教えてくれた。
これでもう、ソフィアが襲われることはなくなるだろう。
あの日の俺の行動には、大きな意味があったはずだ。
「ミケル・レイグラッドはおるか!?」
午前十時。
授業が行われている四年Cクラスの教室に、もじゃもじゃの髭を生やした初老の男性――学園長が入ってきた。
相当急いでやって来たのか、ぜぇぜぇと息を切らしている。
光が反射している眩しいつるぴか頭には、玉のような汗が多数浮かんでいた。
「応接室に向かえ! 今すぐにだ!」
それだけを俺に言うと、学園長は教室を出て行ってしまった。
理由を聞く暇すら与えてくれない。
「あの……そういうことなんで失礼します」
教師に頭を下げた俺は、小走りで教室を出て行った。
応接室に入った俺は目を見開いた。
そこにいたのは、パルトリア王国第三王女でありブリザードプリンセスの二つ名をもつ美少女――アイギスだった。
ソファーに座っている彼女は、俺をじっと見ている。
「お前が――あ、いや、王女様が俺を呼んだのですか?」
「うん。もじゃもじゃハゲに『ミケルを呼んできて』って頼んだ」
もじゃもじゃハゲ……あぁ、学園長のことか。だからあんなに慌てていたんだな。
お願いをしてきた相手はこの国の第三王女様。
王族に対し誠意ある対応を見せるべく、もじゃもじゃハゲは必死になって走ってきたのだろう。
「それと変な喋り方しなくていい。普通にして」
「あ、あぁ……。それじゃあ遠慮なくそうさせてもらう」
「うん。そっちのほうがいい」
「えっと、とりあえず聞きたいんだけどさ……お前はいったいなにをしに来たんだ?」
「決まってる。ミケルに会いに来た。必ず会いに来る、って言ったでしょ。忘れたの?」
……そういえば、そんなことを言われたような気がするな。
アイギスからキスされたせいで、あの時の俺はいっぱいいっぱいだった。
ぼんやりとしか覚えていなかった。
「あなたのことをもっと知りたい。今から私とデートして」
「デートって……というか、今からは無理だぞ。授業を受けている最中だし、この後も授業が残ってるからな」
「それなら問題ない。もじゃもじゃハゲには、『ミケルを一日借りる』って言ってある。ちなみにミケルに拒否権はない。もし断るなら、ミケルを退学させるようもじゃもじゃハゲに言いつける」
王女様にそう言われたなら、もじゃもじゃハゲは即頷くしかないだろう。
権力をフル活用した、なんという横暴なやり方だろうか。
「……分かったよ」
もはや俺には選択の余地なんて残されていない。
横暴な第三王女様に素直に従うしかなかった。




