【42話】物理攻撃無効の相手
「……ほう。やるではありませんか。ですが、私の本気はここからです。【フレイムケージ】」
俺の周囲をぐるっと覆うようにして現れたのは、炎の檻。
身動きを封じるような魔法だ。
「【ヘルファイア】」
俺の足元が赤く変色。
大きな火柱が激しく噴き上がった。
灼熱の炎に俺の全身が飲み込まれてしまう。
「あなたは強い。ですが、相手が悪かったですね。私はSランク冒険者にも引けを取らない力を持っている。無謀にも挑んできたことを後悔しながら死んでください」
「だから効かねぇよ」
「――!?」
火柱と炎の檻が消える。
そこに立っていたのは、傷ひとつ負っていない俺だった。
「【ヘルファイア】は禁呪……まともにそれを受けて、どうして無傷なんです!?」
魔法にはあらゆる理由で国が使用を禁じられているもの――禁呪というものがある。
【ヘルファイア】もそのひとつ。威力の高さゆえに、禁呪としての指定を受けている。
だが【身体機能極限解放】は、禁呪をもってしても破ることはできなかった。
まともに直撃したところで傷ひとつつかなかった。
「これでお前の手札は尽きたな。次は俺の番だ。……そんでもって、これで終わりだ」
一気に距離を詰めた俺は、デレーロの腹部めがけて右腕を繰り出した。
手加減はいっさいなし。相手の息の根を止めるための拳だ。
「――!?」
だが、そうはならなかった。
腹部を殴られたはずのデレーロはびくともしていない。
「拳が駄目なら……!」
今度はデレーロの顔面めがけてハイキックを繰り出す。
この蹴りをくらえば、次の瞬間には首から上が吹き飛ぶことになるだろう。
しかし、これも同じだった。
全力の蹴りが入っても、デレーロはまったくのノーダメージ。不気味な笑みを浮かべている。
俺の攻撃が効いていない。どういうことだ……。
気味の悪さを感じた俺は、いったんデレーロから距離を取る。
「無駄ですよ。これがある限り、あなたの攻撃はいっさい通りません」
右手の甲を胸の前に上げたデレーロ。
中指につけている紫色の指輪を、得意気に見せびらかしてきた。
「この指輪は我が神の力の一部がこめられた、伝説級のアーティファクト! 全ての物理攻撃を無効にするという、偉大なる効果を持ちます!」
デレーロの口がこれ以上にないくらいに吊り上がる。
「あなたの力は恐ろしい。ですが見たところ、攻撃手段は物理攻撃のみ。この指輪がある限り、私にダメージを与えることはできません」
「厄介なアイテムを身に着けやがって」
「私の魔法ではあなたを殺すことはできませんが、あなたもまた私を殺すことはできないのです! ふふふ……我が神、アダムル様に最大の感謝を捧げます!」
「――!? アダムル…………だと!」
その名に、俺は聞き覚えがあった。
『コジャマジョ』のラスボスであるイレイスとリリンに、闇の力を与えた邪神。
そいつがアダムルだ。
邪神教が崇拝している邪神の名は、シオンからの情報には載っていなかった。
しかしまさか、そう繋がってくるなんて……!
「邪神アダムルの封印を解く――それがお前たち邪神教の目的か……!」
「おっしゃる通り。腐りきったこの世界をアダムル様に破壊していただくこと、それが私ども邪神教の悲願なのです!」
「……お前を消さなきゃいけない理由が、これで一つ増えたな」
『コジャマジョ』においてのアダムルは姉妹に闇の力を与え世界崩壊の原因を作った、元凶ともいえる存在だ。
聖属性魔法の使い手の血を流すなんていう胡散臭いやり方でアダムルの封印が解けるとは思えないが、もしそれが本当だとしたなら絶対に阻止しなければならない。
「おや、私の話を聞いていましたか? 物理攻撃しか手段のないあなたが、どうやって私にダメージを与えるというのですか!」
「俺には物理攻撃しかないだって? 勝手に決めつけるなよ」
俺が使える魔法は二種類。
身体能力を極限まで上昇させる【身体機能極限解放】……そして、もう一つ。
「できればこっちは使いたくなかったが……仕方ない」
「ふふ……どうせハッタリか何かでしょう。見苦しいですよ」
「また決めつけるのか。いいぜ。ハッタリかどうか、その体で確かめてみるんだな」
余裕たっぷりに肩をすくめるデレーロへ、俺はもう一つの魔法を放った。
******
「……やっぱり気分のいいものじゃないな」
やることはこれで終わった。
舌を噛んで息絶えたデレーロの死体を置き去りに、俺は教会を出て行った。
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