【41話】邪神教襲撃
午前二時。
王都の外れにある大きな教会の屋根の上に、俺は立っていた。【身体機能極限解放】は既に発動済みだ。
冷たい夜風を体に浴びながら、真下を見下ろす。
「この中にいるのか」
シオンの情報によれば、この教会が邪神教の本拠地。
そしてここには今邪神教の教祖である、デレーロという男がいるはずだ。
本拠地の祭壇に祈りを捧げるため、毎日午前二時に足を運んでいるらしい。
さらにシオンの情報にはこうあった。
『邪神教には幹部がいない。全ての権限は教祖であるデレーロに集約されていて、組織の方向性もデレーロがひとりで決めている』、と。
つまり、完全なワンマン体制だ。
である以上、デレーロさえいなくなれば邪神教は組織としての機能を失い、維持ができなくなるだろう。
それは俺の目的である、邪神教の壊滅を意味していた。
デレーロを消すこと。
その目的を果たすため、俺はここにやって来ていた。
屋根から飛び降りた俺は、正面入口の大きな両扉へ向かった。
扉の前には、黒いローブを着た男が立っていた。
腰に剣を携え武装している。恐らくデレーロの見張りだろう。
常人の目には追えないスピードで扉に近づいた俺は、黒いローブを着た男の首の後ろに手刀を当てる。
黒いローブを着た男は声を上げることもなく気絶し、その場に倒れた。
何をされたかすら分かっていないだろう。
「ここからが本番だな」
両扉を開けた俺は、教会の中に踏み入る。
左右には整然と長椅子が並べられていた。
真ん中の通路を歩いていく。
広々とした中は暗い。
正面最奥に設けられた祭壇の燭台の灯のみが、この場における唯一の明かりだった。
祭壇の前では、黒いローブを着た男が一人、熱心に祈りを捧げていた。
「一般の方の参拝時間はとっくに過ぎていますよ?」
黒いローブを着た男は振り返ると、手前で立ち止まった俺に向けて小さく笑った。
四十代くらいで、頬には大きな痣があった。
シオンからの情報に載っていた、デレーロの外見的特徴と一致している。
間違いない、こいつがデレーロだ。
「入り口に置いた見張りには誰にも中に入れないようにと言ってあるのですが、おかしいですね。あなた、いったいどのようにしてここまで来たのですか?」
「そいつなら今、扉の前で気持ち良く伸びているぜ」
「ほう……元Aランク冒険者彼を。どうやら、そこそこできるようですね。……それであなたはいったいどのようなご用件で、この私――デレーロの元を訪れたのでしょう?」
「お前が作った集団のくだらない行いのせいで、俺の大切な友達が危険な目に遭った。お前を消して、邪神教をぶっ潰す。いっそ舌でも噛んでくれたら俺としては楽なんだが、どうだ?」
「申し訳ございませんが、あなたの提案は受け入れられませんね。私の使命は、我が神の封印を解き世界を破壊することにあります。それを果たさないまま死ぬことは許されない。ですのでここは、返り討ちにさせていただきます」
歪んだ笑みを口元に浮かべたデレーロは片腕を突き出すと、それを俺へと向けてきた。
「【フレイムランス】」
巨大な炎の槍が飛んできた。
燃え盛る炎はふつふつと煮えたぎっていて、かなりの高温になっていることが分かる。
高い威力を持つ攻撃魔法だ。本気で殺しに来ている。
「こんなもん効くか」
飛んできた炎の槍を、片腕で無造作に振り払った。
もし素手で触れたなら腕が溶けていただろうが、俺は【身体機能極限解放】を発動している。
俺の拳を受けた炎の槍は、砕けるように宙に炎を散らして消滅した。




