【40話】ローブの男の正体
翌日の放課後。
俺は生徒会室にやって来た。
中にいるのは会長のシオンだけだ。
他のメンバーはまだ来ていなかった。
「シオン。少しいいか?」
俺は昨日の出来事をシオンに話した。
シオンはかなりの情報通だ。
ローブの男について手がかりになるようなことを、なにかしら聞けるかもしれない。
「それは邪神教の仕業だね」
「……なんだよその怪しそうな集団は?」
「邪神教――大昔に封印されたと言われている、世界を破滅に導く邪神を崇拝している集団だよ。教徒の多くは、今の世の中に不満を持っている人々さ。『こんな腐った世界、邪神様に壊されてしまえ』ってね」
「ずいぶんと物騒なモンをありがたがっている連中なんだな」
「彼らの目的は、邪神の封印を解くことにあるんだ。でもそれには、条件がある」
「……もしかしてソフィアが襲われたのはそれが理由か?」
舌を噛んで自殺したローブの男の『我が神に血を捧げるためです』という言葉に、俺はピンときた。
「うん。聖属性魔法の使い手の血を大量に流すこと――それが条件なんだって」
「……なんだか胡散臭いな」
「僕もそう思うよ。でも彼らは、本気で信じていると思う。近頃、聖属性魔法の使い手が黒いローブの人間に襲われる事件が発生しているんだ。中には、亡くなってしまった人もいるみたいだよ」
「ソフィアが初めてじゃなかったのか。……てかよ、なんで王国はそんな危ない団体を野放しにしてんだ?」
「いや、王国は邪神教への対策を検討しているよ。僕の叔父さんがそう言ってた」
シオンの叔父は王国運営の要職に就いている人だとか。
職務は治安の維持で、邪神教についても色々と調査しているらしい。
「お前の叔父さんを悪く言いたくないけど……悪い、言わせてくれ。邪神教が犯罪者集団ってことを王国は把握しているんだろ? それならとっととぶっ潰せよ」
いくらなんでも行動がのろますぎる。
対策の検討なんて悠長なことをせずに、一刻も早く潰すべきだ。
「……そうなんだけどね」
苦笑いしたシオンは、キョロキョロと首を動かした。
俺の他に誰もいないことを確認してから、ここだけの話なんだけど、と切り出す。
「どうも邪神教は、ハグール公爵家の弱みを握っているみたいなんだ」
ハグール公爵家は、大きな権力を持つ大貴族だ。
その力はパルトリア王国の公爵家の中でも、一二を争うと言われている。
「治安維持の担当部署に、邪神教の犯行を見過ごすよう、ハグール公爵家が圧力をかけているらしくてね。動きが遅いのはそのせいさ」
「大権力者の言葉を無視することはできない、ってことか……くだらねぇ!」
「実際に動くのはかなり先になるだろうね。……それどころか、このまま動かない可能性だってある」
「…………シオン。邪神教についての情報をどうにかして調べられないか?」
「大まかなことなら調べられると思う。叔父さんがいつも仕事をしている書斎には、調査対象の邪神教の資料もあるはずだからね。隙を見て資料を盗み見るのは簡単だよ」
「助かるよ。じゃあ頼むな」
「別にそれはいいんだけどさ……もしかしてミケ、やる気なの?」
「このままにはしておけないからな。邪神教は俺が潰す」
邪神教が存在している限り、ソフィアはこれからも狙われ続けることになる。
昨日はたまたま俺がいたから守れたが、いつもそうとは限らない。
もし一人のときを襲われたら、まともな魔法を使えないソフィアはなす術がないだろう。
つまりそれは、ヤツらに襲われてしまうことを意味する。
そうなってからでは遅い。早急に対処する必要があった。
ソフィアは絶対に殺させない。王国に期待できないなら、俺がやるまでだ……!




