【35話】他校との交流会
パルトリア王国には、王国魔法学園総合交流会――略して『交流会』というイベントがある。
これは王国を代表する五つの魔法学園の代表生徒が一堂に会し、魔法を披露するというもの。
お互いの魔法技術を高め合うことを目的としていて、毎年開催されている。
開催場所は王都にある巨大な競技場。
年季を感じさせる古びた建物だ。
中央に設けられた広大なステージは石造りとなっていて、代表生徒たちはこの上で魔法を披露することになっている。
「なんで俺が交流会なんかに……」
ステージの脇に立っている俺は、目を細めながら真っ青な空を見上げた。
シエルテ魔法学園は、交流会に参加する五校のうちの一つ。
その代表生徒として、どうしてか俺が選ばれてしまったのだ。
俺は交流会に興味がなかった。
代表生徒に選ばれたことは、これっぽっちも名誉に感じていない。ただただ面倒くさいだけだ。
「Cクラスの底辺クンが代表生徒とか、どう考えてもおかしいだろ」
「そんなことないよ! ミケの強さは僕が一番知っているんだから!」
隣にいるもう一人の代表生徒、シオンが力説してきた。
真上から真横に顔を動かした俺は、死んだ目で沈んだ声を出す。
「……どうして俺を選んだ」
各校の代表生徒は、二人までとなっている。
シエルテ魔法学園の代表には、シオンが選ばれた。
学園始まって以来のトップの成績で入学し圧倒的カリスマ性を持っている生徒会長の選出は、当然すぎる話だった。
そうして、残る一人の代表はシオンが選ぶことになった。
副会長のイザベラか、はたまた、多大な魔力量を誇るイレイスか――そんなふうに生徒たちが予想を立てているなか、シオンが選んだのは俺だった。
予想外の人選には、『どうして底辺クンが代表に選ばれたんだ?』、という疑問の声があちらこちらで上がった。
そのせいでここ数日の俺は、周囲からずっと奇異の目を向けられてきた。
なりたくもない代表生徒になった挙句、そんな仕打ちを受けていい迷惑だ。
納得のいく説明をして欲しい。
「ミケと来るのが一番楽しそうだったから!」
シオンが口にしたのは実に分かりやすくて……実にくだらない理由だった。
……シオンのことだから、そんなことだろうと思ったけどな。
大きくため息を吐いてから、周りを見てみる。
ステージをぐるっと囲むように設けられている観覧席には、ピカピカの身なりをした大人たちが座っていた。
そいつらは、パルトリア王国のお偉いさんだ。来賓として、毎年招待されているらしい。
ステージの脇には、他にも制服を着た生徒たちが立っている。
彼らも俺やシオンと同じ、各学園の代表生徒だ。
「あ! あの人、ブリザードプリンセスじゃない? 初めて見たけど、やっぱり綺麗だね!」
シオンの視線の先にいるのは、真紅の制服に身を包んだ銀髪の美少女。
銀色の瞳を開き、つまらそなそうにステージ上を見ている。
彼女の名前はアイギス。パルトリア王国の第三王女だ。
また、パルトリア王国第二の都市――ベンダルのシェガロ魔法学園に通う十五歳の学生でもある。
ブリザードプリンセスというのは、アイギスの二つ名だ。
水属性魔法を扱う人間の中でも、ごく一部の者しか扱えないと言われている氷属性魔法。
彼女はそれを自由自在に操ることができるらしい。
氷属性魔法を使う王女、ということから、そんな二つ名がついている。
「あれ? プリンセスの隣にいる人って、アンドレアさんじゃない?」
「……お、本当だ」
アイギスの横には、SSランク冒険者であるアンドレアがいた。
前と同じく、露出の多い派手なドレスを着ている。
じっと見ている俺たちの視線に気づいたのか、アンドレアが笑顔で駆け寄ってきた。
「ミケルくんじゃん! こんな所で会うなんて奇遇だね!」
「代表生徒に選ばれたんですよ」
「へー、それはおめでとう。でもまぁ、君の実力なら当然か」
「いや、選ばれたというか、誰かさんの気まぐれで連れてこられただけというか……」
シオンに非難の目を向けると、どういうこと? とでも言いたげな顔をした。
恐ろしいことに、こいつには自覚がないらしい。
「アンドレアさんの方こそ、どうしてここに?」
「私は仕事さ」
歩いて来た方向に顔を向けたアンドレアは、軽く顎をしゃくった。
「お嬢――第三王女の護衛だよ。王族がこういう大きなイベントに出席するときは、必ず護衛をつけることになってるんだ。安全のためにね。で、その役に選ばれたのが私ってわけよ」
アンドレアは王家に雇われている、という話を思い出す。
第三王女であるアイギスの護衛も、彼女の仕事の一環なのだろう。
「護衛なのに王女から離れて大丈夫なんですか?」
「大丈夫。お嬢とはもう長い付き合いだから、これくらいのことじゃ怒らないよ。それにお嬢に関しては、護衛なんて必要ないくらいだしね」
アイギスはシェガロ魔法学園で一番の成績を取っていると聞く。
彼女が扱う氷属性魔法はとても強力らしく、SSランク冒険者相当に匹敵するのでは、との声もあるくらいだ。
それだけの実力があるならもし仮に襲われたとしても、強力な魔法で返り討ちにできるだろう。
「間もなく交流会が始まります。各校代表生徒は準備に取りかかってください」
「それじゃ私は戻るね。ミケルくん。また今度」
場内に響いた主催のアナウンスを聞いて、アンドレアは元の場所へと戻っていった。
順番を決める抽選の結果、シエルテ魔法学園は一番目となった。
「シエルテ魔法学園の代表生徒、ステージの上へ」
主催のアナウンスを受けて、シオンがステージに上がった。
観覧席へ向け、スカートの裾を軽くつまんだ礼儀正しいお辞儀――カーテシーを披露する。
もう一人の代表生徒である俺はというと、ステージ脇でそれをボーっと眺めていた。
魔法を披露する代表生徒は二名まで、というのが交流会のルール。
ステージ上で魔法を披露する生徒が一名だとしても、ルール違反にはならない。
シオンには、『俺はステージに上がらない』、と事前に言ってある。
代表生徒に選ばれただけでも嫌なのに、その上、大勢の人の前で見世物にされるなんてごめんだった。
それに、あいつなら一人でも問題ないだろ。
ずっと一緒に冒険者をやってきた俺は、シオンの実力をよく知っている。
学園の代表生徒に恥じないような、素晴らしい魔法を披露してくれるに違いない。
「【エアリートルネード】」
シオンは魔法により、大きな竜巻を生みだした。
その数、五つ。
片腕を突き出したシオンは、それを右方向へ動かす。
そうすると、五つの竜巻も右へ移動。
次にシオンは、腕を左方向へと動かした。
それに合わせて、竜巻も左へと移動する。
腕が動いた方向へと、竜巻が移動していく。
つまりシオンは、五つの竜巻を意のままに操っていた。
一度に五つの竜巻を生成するだけでも、相当な技量がいる。熟練の風属性魔法の使い手でも難しいだろう。
しかもシオンは、それを完全に自分のコントロール下に置いていた。
「おぉ……!」
「素晴らしいですな!」
ステージ上で起こっているのは、風属性魔法の使い手でもほんの一人握りの者しかできないような芸当だ。
観覧席のお偉いさんから、感嘆の声が上がる。
しかし、シオンの本領はこれからだった。
シオンは片腕を振りまわし、最後に星のマークを空中に描いた。
五つの竜巻は、その動きを完全になぞった。
ステージ上を縦横無尽に踊ってから、一点に集結。
美しい星を描き、最後はパッと消えた。
「ありがとうございました」
シオンがお辞儀すると、観覧席から惜しみない歓声と拍手が沸き起こった。
一分の狂いもない洗練された竜巻の動きは、素晴らしいの一言。観客の心をどっぷりと魅了していた。
「お疲れ。うまくいったな」
「うん、ありがとう」
披露を終えたシオンが俺の隣へと戻ってきた。
それと入れ替わるようにしてステージに上がったのは、シェガロ魔法学園の代表生徒――ブリザードプリンセスこと、アイギスだった。
ステージに上がったのはアイギス一人だけ。他の生徒は見当たらない。
シェガロ魔法学園の代表生徒は、どうやら彼女ひとりだけのようだった。
どんな氷属性魔法を使うか見物だな。
SSランク冒険者相当と噂されているアイギスの実力。
いったいどれほどのものなのか、俺は興味があった。




