表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/54

【22話】姉妹の本心


 指輪を買ってからも、四人のフィスティバルは終わらない。

 なにしろ、まだやって来たばかり。

 他の出店を見たり食べ歩きをしたりと、色々な思い出を積み重ねていく。

 

 その過程で、フィアネに対するイレイスとリリンの反応は変化していた。

 始めはむき出しになっていたイレイスの敵意は、今ではすっかり治まっている。

 それはリリンも同じで、さらにこいつに関しては、フィアネに話しかけるまでになっていた。

 

 フィアネは姉妹に対して、フレンドリーに何度も話しかけていた。

 たまに暴言めいたことも言われたいたが、そこは持ち前の性格で完全スルー。気にもしていなかった。

 それどころか何度も話しかけるあたり、姉妹のことを相当気に入っているように思えた。

 

 そんな時間を過ごしたことで、姉妹はフィアネという人間の人柄の良さを理解したのだろう。

 だからこそこうして、反応が丸くなったはずだ。

 

「良かった」


 誰にも気づかれないくらいに、小さな声で呟く。

 大切な幼馴染の良さをこうして知ってもらえたことが、俺は本当に嬉しかった。

 

 来てよかったな。

 

 ちらっと三人を見てみれば、楽しそうな雰囲気になっている。

 これを見られただけでも、フェスティバルに来た甲斐があったというものだ。

 

「みんな見て! 花火が上がっているよ! 綺麗だね!」


 フィアネの言葉に、三人が夜空を見上げる。

 いくつもの星が輝く美しい黒に、鮮やかな赤色の大輪が咲いていた。

 その後も、様々な模様の花火が打ち上げられていく。

 

「この花火、小さいときに行ったフェスティバルで見たのとそっくりね。……ねぇ、覚えてる?」


 見上げるリリンの視線は、隣にいる姉、イレイスに向いている。

 喧嘩口調じゃない普通の言葉をかけたのを、俺は初めて見た気がした。

 

「いいえ。覚えていません」

「…………あっそ。ならもういいわよ」


 唇を尖らせるリリンに、「嘘です」という言葉が飛んだ。

 それは、イレイスからのものだった。いつもより表情が柔らかい気がする。

 

「ですがあのときはリリンに抱き着かれていたせいで、しっかり見えませんでした」

「……そうだったかしら」

「えぇ。あのときからあなたはワガママで自分勝手。今とまったく変わらない。……でも、かわいかった。『お姉ちゃん』と言って私の後を一生懸命に着いてくる昔のあなたは、本当にかわいらしかったです。今とぜんぜん違います」

「あんただって昔は、もっと明るかったわよ。それでもって、すごく優しかったじゃない。今と全然違うもの」

「……いつからこうなってしまったんでしょうね」

「………………戻れるかな。前みたいに」

「どうでしょう。でも、そうなれたらいいですね」

「……うん」


 顔を合わせたら喧嘩ばかり。いつ殺し合いが始まってもおかしくないくらいに仲が悪い。

 でも本当は、仲直りしたい。子どもの時みたくまた仲良くしたい。

 

 これが険悪姉妹の本心だった。

 

 それなら俺は、全力でサポートするぜ!

 

 それが世界の崩壊を防ぐことになり、そして、姉妹の願いをも叶えることになる。

 誰もが幸せになれる、最高の結末だ。

 

 これから自分がすべきことを、心に強く刻みつける。

 夜空に打ち上がるいくつもの花火の音は、そんな俺の決意を後押ししてくれているかのようだった。

 

 

 花火を見終わったあと、フィアネとは解散。

 俺、イレイス、リリンは、レイグラッド邸に帰ってきていた。

 

 エントランスに入ったところで、イレイスが声をかけてきた。

 

「これからミケくんの部屋へお邪魔してもよろしいですか? 今日のお礼をしたいんです」


 礼を言われるようなことはしていないが、特に断る理由もない。

 いいぞ、と返す。

 

 そうしたら、

 

「私もお礼がしたいわ。行ってもいい?」


 とリリンが言ってきた。

 もちろんこれにも断る理由はないので、俺は頷いた。

 

 三人で俺の部屋に入る。

 

 フィアネ以外の女の子が俺の部屋に来るなんて、初めてのことだな。

 

 少しドキドキしながらベッドの縁に座る。

 

 それに合わせて二人もベッドの縁に腰を下ろした。

 左にイレイス、右にリリン。

 食卓テーブルに座るときと同じ配置だ。

 

「フェスティバルを一緒に回ってくれたこと。それから、指輪を買ってくれたこと。今日は本当にありがとうございました、ミケくん」

「……あんたにしては上出来だったわよ。ありがとう」

「二人とも、楽しめたか?」


 イレイスもリリンも、コクリと頷いてくれた。

 その答えを嬉しく思いながら、次に、

 

「これからは仲良くやっていけそうか?」


 と聞いてみる。

 

「もしかして、花火のときの会話を聞いていたのですか?」


 じとー、と責めるような視線を向けてくるイレイスに、俺は「そりゃまぁ、隣にいたからな」と言って小さく笑う。

 別に聞き耳を立てていた訳ではない。


「それで、どうなんだ?」

「どうでしょう……。リリンの態度次第、といったところですかね」

「その言葉、そっくりあんたに返してあげるわよ」


 姉妹のやり取りは、いつもの見慣れた喧嘩口調。

 それでも、いつものような殺伐とした感じはない。さっぱりとしていて、どこか楽しんでいるようにも見えた。

 

 俺の目的が達成する日ももう近いな。……いや、これはもう達成されたと言ってもよくないか?

 

 まだ完全に、仲良し姉妹なったとは言えない。

 でも二人の仲はこれからどんどん縮まっていくはずだ。

 互いを憎むあまりに邪神に魅入られてしまう、なんてことには間違ってもならないだろう。

 

 最初はどうなるかと思ったが、なんとかなって良かったぜ。

 

 もちろんこれからも姉妹を見守り、サポートを続けていくつもりだが、とりあえずこれでひと段落。

 心の中で、お疲れ様、と自分を労う。


「それでは、これにて失礼いたします。おやすみなさい、ミケくん」

「おやすみ、ミケル」

「おう、お前らもな」


 立ち上がったイレイスがドアの方へ向かっていく。

 その後にリリンも続いていった。

 

「あ、そうだ!」


 イレイスがドアノブに手をかけたタイミングで、何かを思い出したように声を上げたリリンが反転。小走りで俺の方へ向かってきた。

 

 忘れ物でもしたのか?

 

「どうしたんだリリン。忘れ物――!?」

 

 座っている俺の首に両腕を回したリリンは顔を近づけて、そして、俺の頬に唇をつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ