【20話】フェスティバルの誘い
正午。
眩い日差しが差し込む四年Cクラスの教室。
昼食のパンを食べている俺の対面で、
「今日のご飯も美味しいね」
ほんわりのほほんとした声が上がる。
クラスメイト兼幼馴染のフィアネだ。
今日もいつもと変わらない、フィアネとのゆったりした昼食の時間を過ごしていた。
「そういえば、明後日はフェスティバルだね」
「もうそんな時期か」
フェスティバルというのは、年に一度王都の中心街で開かれているイベントだ。
パルトリア王国きってのビッグイベントで、毎年国内外から多くの人が訪れては大盛況を収めている。
フェスティバルを心待ちにしている国民は多いが、俺は違った。
子どものときは楽しかったが、今はもうそこまで興味がない。
事実、フィアネに言われる今の今まで、すっかり忘れていたくらいだ。
「今年も行くで良いんだよね?」
「あぁ。その日は予定もないし大丈夫だ」
「ありがとうね、みーくん」
フェスティバルには毎年、フィアネと二人で出かけている。
七歳の頃からずっとそうしてきたので、恒例行事みたくなっていた。
興味がないだけで、別に行きたくない訳ではない。
それにここで断ったらフィアネが悲しんでしまう気がする。
こいつはニコニコ笑っているのが一番似合う。
悲しい顔なんてさせたくないし、見たくもなかった。
その日の夕食。
左隣に座るイレイスが、ぐいっと顔を近づけてきた。
「明後日は何時に出発しますか?」
「…………へ?」
気の抜けた返事をした俺の目が、点になる。
イレイスと何かを約束した覚えはない。
いきなり、明後日とか何時に出発とか言われても、何のことだかさっぱり分からなかった。
「……悪いが俺には、お前が何を言ってるのか分からない。もう少し詳しく話してくれ」
「フェスティバルですよ。私と行くと、そう約束してくれましたよね」
「してないけど」
真顔で言われても、違うものは違う。
それは記憶のねつ造だ。あるいは妄想とも言う。
しかしイレイスは、「照れているんですね。かわいい」と微笑むだけ。
ここまでくるとちょっと怖い気がするんだが……。
「ちょっと妄想根暗女! あんたなに勝手に決めてんのよ!」
右隣のリリンが勢いよく噛みついた。
リリンにしては、珍しくまともな発言。
俺は心の中で、おぉ、と感動の声を上げる。
「ミケルは私と行くに決まってるでしょ!!」
いや、お前もたいがい勝手だろ……。
やっぱりリリンもまともじゃなかった。
胸に感じた感動を返してほしい。
姉妹は、ガルルルル、と獣じみた睨み合いを繰り広げた後、いっせいに俺の方を向いた。
どっちを選ぶの!? と顔に書いてある。
しかし俺が選ぶのは、どれでもない第三の選択肢だ。
「その日はもう、別のやつと行く約束をしているんだ」
約束してない以上俺はまったく悪くないのだが一応、悪いな、と付け加えておく。
今のこいつらは怒れる猛獣。場を丸く収めるために、誠意ってやつを見せた。
しかし、そんなもので猛獣たちは止まらない。
「そんなの許さないわ!」
「……相手は誰ですか? 今から殺しに行けば約束は不問になりますよね?」
ダメかちくしょう……。こうなったら……!
二人の怒りを抑え込むため、結局俺は――。
フェルティバル当日の夜。
王都の中心街には、俺とフィアネ、そして、イレイスとリリンの姿があった。
俺が選んだのは、四人でフェルティバルを回るというものだった。




