【18話】楽しい戦いの決着
それから始まるのは、キングオーガのラッシュ。
八本の腕をフルに活用して、目にもとまらぬ速さで連続攻撃を仕掛けてきた。
雨あられのように降ってくるこん棒の叩きつけ。
その全てを、俺は綺麗に回避する。
【身体機能極限解放】によって俺は、動体視力も脚力も極限の状態にある。
いくら素早い動きでも、見切って避けることは容易かった。
しかし膝立ちでここまでやるとは驚きだ。さすがはキングオーガだ。それに敬意を表してもう少し戦ってやりたいところだが、残念だったな。今日の俺は急いでるんだぜ!
こん棒が届かないところまで、俺は跳び退いた。
「オオオオオ!」
オーガの叫びには、たっぷりの怒りがこもっていた。
逃げたと思ってイラついているのかもしれない。
でもそうじゃない。
跳び退いたのは、この戦いに決着をつけるためだ。
俺は地面を蹴って空高く跳び上がった。
キングオーガの頭上を越えた、ずっと上のところまで。
そして、空中で一回転。
もう一度、二回転。
さらに、ぐるぐるぐる――何度も体を回転させながらキングオーガとの距離を縮めていき、ついには真上へ。
「結構楽しめたぜ。ありがとうな。【メテオストライク】」
キングオーガの脳天へかかと落としを繰り出す。
落下の勢いと遠心力が加わったそれは破壊力抜群。必殺の一撃だ。
「――!? ……ォォ」
バキバキバキと、おぞましい轟音が響く。
キングオーガの分厚い頭蓋骨が、俺のかかとによって砕かれ割れていく音だ。
緑色の瞳から光が消える。
力を失くした腕からこん棒が落ちていき、その巨体は地面に倒れた。
「すごい、すごすぎるわミケル!! 私やっぱり、あんたのことが……!」
「あああああミケくんカッコ良すぎです!! これじゃもう弟としては見れません。これからは一人の男性として……!」
よく分からないことを言いながら二人が大興奮している中、俺にまっすぐ向かってくる影が一つ。
それは俺に抱き着くと、ハグするみたいに頬をスリスリくっつけてきた。
そいつの名はシオンという。
こういうことはもう止めろと言ったはずなのに、シオンのやつはまったくそれを無視していた。
「すごいよミケ!! やっぱり君は最高だよ!!」
「だから止めろって!」
シオンの柔肌の体温を直に感じている俺は、変な気分になってしまいそうでいた。
しかしそれでも、
こいつは男! こいつは男!
という言葉を心で唱えながら、シオンを引き剝がそうとする。
しかし、今日のシオンは手強かった。
俺の背に回している両手に強く力をこめ、ガッチリとしがみついている。そこには、絶対離れない、という強い意志を感じる。
「あのキングオーガを倒したんだ! 今日は簡単には離れないよ!」
「知るか! いいから離れろ!」
「やーだー!!」
くんずほぐれつわちゃわちゃやっていると、そこに姉妹の足音が近づいてきた。
イレイスもリリンも、二人そろって瞳に激しい怒りを宿している。
まるで、噴火寸前のマグマだ。めちゃくちゃ怖い。
「あれ? どうしたの二人とも? せっかくのかわいい顔が台無しだよ!」
シオンが楽しそうに笑う。
あきらかにブチギレている人間にそんなことを言えるこいつは、やっぱりただ者じゃない。
「はやくそこから離れなさい。さもないとあんた……燃えカスになるわよ」
「今から去勢してさしあげましょう。あなたのモノは切り刻んでからモンスターのエサにします」
「えー、別にいいじゃん! 僕、男だよ?」
よくないわよ!
ぶち殺しますよ!
二人から大きな怒声が上がる。
空気が一瞬だけざわついた。
ここに住まう危険極まりないモンスターたちでさえも、二匹の怒れる猛獣の雄叫びに恐れをなしたのかもしれない。
けれどシオンはビビることもなく、あっけらかんとしていた。
「じゃあこうしよう。僕対君たち二人で、勝負をするんだ。君たちが勝ったら大人しく離れてあげるよ。僕さぁ、今日出番なかったじゃん? そのせいでちょっと物足りないんだよね。だから君たちが僕の心の渇きを埋めてよ」
「上等よ! やってやろうじゃない!」
「後悔しないでくださいね」
「決まりだね」
シオンの口が片方だけ、わずかに吊り上がる。
これから起きる戦いを、シオンは純粋に楽しんでいた。




