表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/54

【17話】キングオーガ


 四人はモンスターフォレストの禁域を歩いていた。

 キングオーガは禁域の最深部にいるらしい。

 

 禁域にはSランク冒険者以上の者しか入ることができない――という冒険者ギルドが決めたルールがある。

 俺とシオンは問題ないが、冒険者ではないイレイスとリリンはその条件を満たしていない。

 

 しかし今回ギルドは、二人の入場を特別に許可してくれた。

 俺とシオンが同行しているから問題ないだろう、という判断らしい。

 

 個人的にはそこでダメと言って欲しかったのだが、許可が出てしまったものはしょうがない。

 こうなった以上は、キングオーガとの戦いをとことん楽しんでやる。

 

「イレイスもリリンも肝が据わってるね。禁域にいるっていうのに、怖がるそぶりひとつしてないもん」

「当然よ。私は強いもの。モンスターなんか一瞬で灰にしてやるわ」

「私はリリンよりももっと強い。問題ありません」


 視線を交差させた二人はバチバチ。

 危険なモンスターだらけの禁域でもお構いなしだった。

 

 こいつらにとっては、場所がどこかとは関係ないのだろう。

 きっとそこが地獄の底でも喧嘩しているに違いない。

 

「そっか。二人とも強いんだね」


 火花を散らしている二人を、シオンは興味深そうに眺めて笑っている。

 こんなのを見てなにが楽しいんだか。まったく理解に苦しむぜ。

 

 しかし、なんだか調子が狂うな。

 

 こいつらといると緊張感が薄れる。

 ここが禁域だということを、危うく忘れそうになってしまうほどだった。

 

 

「結構奥深くまで来たな」

「うん。この辺りはもう最深部だね」


 入り口付近と比べて、空気が段違いに鋭くなっていた。

 禁域は元々殺気が濃いところっだが、最深部はさらに濃くなっている。新米冒険者なら、この空気に当てられただけでも気を失ってしまうだろう。

 

 そんな恐ろしい空気を浴びても、シオンの様子には変わりがなかった。

 Sランク冒険者の実力は伊達ではないということだろう。

 

 でも、イレイスとリリンは違った。

 少し前から口数が少なくなっていて、険しい顔をしている。

 むせ返りそうになるくらいの濃い殺気にあてられ、気分を悪くしていた。

 

 冒険者じゃない二人は、こうなってしまうのも仕方ない。

 むしろ、意識を保っているだけでも褒めてあげるべきだ。

 

 でも、倒れるのは時間の問題だな。早く依頼を達成してここから出ないと。

 

 グッと拳を握りしめる。

 それに合わせたかのように、前方から地響きのような足音が聞こえてきた。

 

「来たか……!」

「うん、間違いないよ」


 ゆっくりと近づいてきたそれは、やがて俺たちの前に姿を晒した。

 今回の討伐目標――キングオーガだ。

 

 オーガと同じ二足歩行のモンスターではあるが、大きさが段違いだ。

 オーガの全長は二メートルほど。対する目の前のキングオーガはなんと、十メートルはほどはあった。

 

 巨大な体躯には、余すことなく筋肉が盛り上がっている。

 それを覆っているのは、金色に輝く分厚い皮膚だ。

 

 さらに、腕の本数も違う。

 オーガやアークオーガの腕が二本だったのに対し、その四倍。実に八本もの猛々しい腕を持っている。

 

 それぞれには、巨木のような大きさのこん棒が握られていた。

 普通の人間があんなものに叩きつけられたら、抵抗する間もなくぺしゃんこに潰されてしまうだろう。

 

「……アークオーガと違って手下はいないみたいだな」


 キングオーガは単独だった。

 見たところ、手下を連れてきている様子はない。

 

「じゃあ行ってくる。イレイスとリリンはお前に任せたぞ、シオン」

「任せて! 後ろは気にせず、思う存分暴れてきていいからね!」


 一番欲しかった、なんとも心強い言葉が返ってくる。

 これでもう心配はいらない。

 

「ちょっと! あいつめっちゃ強いんでしょ! ミケルだけに戦わせて、あんたは何もしないつもりなの!?」

「淫乱女に同意です」


 二人から上がったのは非難の声。

 ひとりで戦う俺のことを心配してくれているのだろう。

 

 二人ともありがとうな。でも、その心配は不要だ。

 

「普通はそうだろうね。でもミケは普通じゃない。文字通りの規格外なんだ。僕の魔法はむしろ邪魔になるだけだよ」

 

 シオンの攻撃魔法は強力だが、そのどれもが広範囲。

 近距離で戦うしか手段を持たない俺にも、ダメージが入ってしまう危険性があった。

 

 それに言っちゃ悪いが、目の前のモンスターはシオンの魔法で大きなダメージを入れられるような相手ではない。

 

 キングオーガの防御力は並外れている。規格外と言ってもいい。

 Sランク冒険者であるシオンの魔法でも、大きなダメージを与えるのは難しいだろう。

 

 下手に魔法を撃っても無駄に興奮させるだけ。

 かえって逆効果となってしまう。

 

 シオンはそれを知っているからこそ、姉妹にああ言ってくれた。

 

 普段はマイペースな癖に、こういうときだけは俺のことを考えてくれるだもんな。まったく……最高のバディだよお前は。

 

 小さく笑った俺はキングオーガを討つための魔法、【身体機能極限解放(オーバードライブ)】を発動。

 爆発的な速度で間合いを詰め、左右のくるぶしに挨拶代わりの蹴りをお見舞いする。

 

「まったく見えなかったわ。今、何が起こったの……」

「なんという……これがミケくんの――SSランク冒険者の戦いなのですか」

「オオッ!?」


 後方からは姉妹。

 前方からはキングオーガ。

 

 どちらからも驚愕の声が上がった。

 

 両のくるぶしを蹴られたキングオーガはよろめき、両膝を地面につけた。

 膝立ち状態になる。

 デカかった図体がストンと小さくなった。

 

 それでもまだ十分デカいけどな。

 

「でもこれで少しはやりやすく――おっ!」


 キングオーガが、手に持っているこん棒をまっすぐに振り下ろしてきた。

 

 その一撃を、横に跳んで俺は回避。

 

 こん棒に叩きつけられた地面は、爆音とともに土煙を舞わせた。

 地面はひび割れ、深く陥没している。無事な平面の場所との差が浮き彫りだ。

 

 キングオーガのこん棒は、思っていた通りにとてつもない破壊力をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ