【11話】しおらしいリリン
その日の放課後。
廊下を歩く俺は、重い気持ちに押しつぶされそうになりながら足を動かしていた。
どうやったらリリンとの仲を元に戻せるのか。
今日一日ずっと考えていたが、何も思いついていない。お手上げ状態だった。
教室棟のエントランスに着いたので外へ出る。
それと同時。
ネクタイをめいっぱいに引っ張られた。
首をキツく絞められてしまっているせいで、うまく声が出てくれない。それでもなんとか必死に、犯人の名前を絞り出す。
「リ……リ、リン」
リリンは何も答えなかった。
俺のネクタイを引っ張ったまま、無言で歩いていく。
そうして連行された先は校舎裏。
そこでようやく、リリンはネクタイから手を放したのだった。
解放された俺はゴホゴホと激しくむせる。
危うく窒息死するところだった。
「お前なぁ! やっていいことと――」
「何であんなことしたのよ!」
「それはイレイスとのことか? 朝も言ったけどな、俺は何もしてねぇよ!」
「嘘よ!!」
「イレイス本人がそう言ってただろ! お前だって聞いてたじゃねぇか!」
「……そ、それは」
「話は終わりか。それなら俺はもう、帰らせてもらうぜ」
冷たく突き放すような言い方をする。
リリンとの仲を戻すことを最優先に考えるなら悪手かもしれない。
でも俺は窒息死しかけたことで、かなり頭にきていた。
「じゃあな」
リリンに背を向けようとしたところで、グイン。
再びネクタイを引っ張られる。
「お、お前――」
「……悪かったわよ」
バツが悪そうに謝ってきたリリンは、パッとネクタイを放した。
こんなにもしおらしいリリンは初めてだ。
なんだか、とても悪いことをしてしまったよう気がする。
先ほどまでの怒りはどこへやら。
俺こそ言いすぎたよ、なんてことをつい口走ってしまいそうになってしまう。
「でも、あんたも悪いのよ」
グッバイしおらしさ。リリンは一瞬で立ち直った。
口から出かけていた謝罪の言葉は、吸い込まれるようにして腹の中へと引っ込んだ。
「朝からイチャイチャしてさ。あんた、顔を真っ赤にしながらもじもじしてるし。過去最高に気持ち悪かったわよ!」
「し、仕方ないだろ! その、いろいろ慣れてないんだから……」
「そんなの知らないわよ! ともかくねっ、あんたのせいで私は今日一日イライラしっぱなしだったわ! ……だから罰として、今から私の買い物に付き合いなさい」
なんで俺がそんなことをしなきゃいけないんだ、と口から出そうになるが、ちょっと待てよとなる。
ここで俺が買い物に付き合えば、リリンの機嫌が治るかもしれない。
そうなればリリンとの関係も元通りになる可能性が見えてくる。
正直言って買い物に付き合うのは面倒でしかないが、後々のことを考えたらここは行っておいた方がいい気がする。
「なに? まさかとは思うけど、断るつもりじゃないでしょうね?」
「……そんなことしねぇよ」
「それならすぐに返事しなさいよね。このグズ」
フンと鼻を鳴らして威張るリリン。
けれども朝のことを思えば、ずいぶんとマシな状態になっていた。
学園から歩いて数十分。
俺とリリンは王都の中心街に来ていた。
様々な店が軒を連ねているここでは多くの人が出歩いていて、活気に溢れている。
「買い物って言ってたけど、なにを買うんだ?」
「ここよ」
リリンの足が止まる。
そこは食料品を取り扱っている店の前だった。
……え? 食い物を買いに来たのか?
意外すぎるチョイスに、俺は呆気に取られる。
服とかアクセサリーとか、きっとそういったものを買うんじゃないかと勝手に想像していたものだから、予想が大きく裏切られた。




