【1話】将来この国は滅びるらしい
「このままだと世界がぶっ壊れるとか……嘘だろ、おい。冗談きついぜ……」
朝の七時。
ベッドの縁に腰かけた俺は、苦々しい顔で頭を抱える。
ベッドから転げ落ち頭を床に強く打ちつけたことで、俺――ミケル・レイグラッド子爵令息は前世の記憶を思い出した。
それによるとこの世界は前世の俺がやり込んでいたゲーム――『壊れた世界と邪神に魅入られし二人の魔女(通称:コジャマジョ)』の世界……ということだった。
んなこと言われたって信じられるかよ!
……という気持ちは当然あるのだが、信じるしかない。
ゲーム内に出てくる国――パルトリア王国という名前のそれは実在している。
なにを隠そう俺が今住んでいるここが、そのパルトリア王国の王都だからだ。
『コジャマジョ』内ではパルトリア王国の歴史や文化の説明もなされているが、それらは全て正しい。
ひとつの間違いもなく完全に一致していた。
こうなったらもう、信じるしかなかない。
信じたくないけど、論より証拠だった。
崩壊した世界で、二人の悪い魔女を討つべく主人公は仲間たちとともに旅に出る――というのが、『コジャマジョ』のざっくりとしたストーリーだ。
そのゲーム内でパルトリア王国は、過去に滅亡した国として登場する。
でも現状、この国は健在だ。
窓から外を見てみれば、降り注ぐ朝日が綺麗に塗装された石畳の道路を鮮やかに照らしている。
道行く人々は楽し気に談笑なんかしたりしていて、活気に満ちている。窓から見えるのは、崩壊とは真逆の平和そのものの光景だった。
そうなると、考えられる可能性は一つしかない。
「……これから滅亡するってことだよな」
つまり今は、ゲームが始まる前。
前日譚ということ。
「ふざけんなよ……!」
そんなクソッたれた未来なんて絶対にごめんだ。俺が変えてやる!
問題はその方法だが、『コジャマジョ』の知識を持っている俺には見当がついていた。
ゲームのラスボスである二人の魔女――イレイス、リリン。
世界が崩壊した原因は、こいつらの姉妹喧嘩だ。
イレイスとリリンは元々、魔法の素養に優れた美人姉妹だった。
しかし仲が悪く、互いにいがみ合い憎み合っていた。
その憎しみの心を気に入った邪神が、強大な闇の力を二人に与えた。
闇の力を得た二人は、魔法を使った壮絶な殺し合い――姉妹喧嘩を始めてしまう。
強大な力同士をぶつけ合う姉妹喧嘩は周囲に大きな被害をまき散らし、ついには世界が崩壊するにいたってしまった。
というのがラスボスのバックストーリーなのだが、ここで重要になるのは、イレイスとリリンが闇の力を手に入れた経緯だ。
姉妹は互いを強く憎んでいる。そんな二人だからこそ、邪神に気に入られてしまった。
裏を返せば、仲が良好だったのなら邪神に気に入られることはない。そうなれば二人が闇の力を手に入れることはなくなり、つまり世界は崩壊しなくなる。
「二人を仲良し姉妹にする」
それが、俺がこれからやるべきことだ。
後は、肝心のイレイスとリリンが今どこにいるか、ということだが、それは既に知っている。
俺がいるこの屋敷――レイグラッド子爵邸で二人は暮らしているからな。
一か月前。
ずっと昔に妻に先立たれて独り身だった俺の親父は、二人の娘を持つ未亡人と再婚した。
未亡人の二人の娘というのが、イレイスとリリンだ。
俺とは、義理の姉妹という関係になっている。
イレイスとリリンは、もう本当に仲が悪い。
互いに敵対心をむき出しにしていて、顔を合わせたなら一触即発という状態。
闇の力なんて関係なしに、今すぐにでも殺し合いをしそうな雰囲気だ。
そんな状況を知っていながらも、俺はずっと放置してきた。
事情を知らない俺が口出しすべきじゃないと思っていた。
だからこれまで、姉妹とはただの一言も口を利いたことがない。
でも、そういう訳にもいかなくなってしまった。
二人には何が何でも仲良くなってもらわないと困る。
「やってやるぜ! 世界を救うためにな!!」
黒色の目をカッと開いて、勢いよくベッドから立ち上がる。
体の動きに合わせて、茶色の髪先が小さく揺れた。
まさか十五歳の俺に世界の命運が託されることになるとは思わなかったが、こうなったらもう全力でやるしかない。
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