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柩に腰掛けて  作者: 棗
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 何となく人を待つというのは落ち着かないものだ。

 普通なら部屋の掃除をして、お茶の用意をして服を着替えて・・・、することは沢山あるのだが、今の桜子はベッドとサイドテーブルしかない部屋でポツンと座っているしかない。

 ここまで何もないと一層、気持ちがいいというか気が滅入るというか・・・。



食堂を出てきっちり30分後にノックが響いた。

「ヤッホー」

 扉を開けるとイオとディオネとレグルスという桜子の中ではセットになってしまった3人が立っていた。

 落ち着いた長男、やんちゃな次男、大人しくて可愛らしい末っ子といったところか。

「どうぞ」

 桜子は若干固い声のまま、手で室内を示した。

 被害者意識があるような、無いような、自分でもはっきりしない感覚が、桜子にどんな表情をしていいのか分からなくさせていた。

「失礼します・・・って」

 イオは部屋の中を改めて見渡すと、

「どこからか椅子とテーブルを持ってこようか。座る場所も無いものね」

「いや・・・別に・・・」

 という言葉は耳に入らなかったのか、無視されたのかは分からないが、ともかく3人は部屋に入った途端に出て行ってしまった。

 置いてけぼりを喰った桜子がさらに30分待っていると、先ほどの3人にセドナを加えた4人でテーブルと椅子2脚を運んで帰ってきた。

 セドナは不幸にも巻き込まれてしまったようだ。

「手、いったぁーい!!」

 鼻から出るような甲高い声を出して、大げさに両手を振りながらセドナが不満気に唇を尖らせた。

 白い肌に火照ったような頬がはっとする程可愛らしい。

「有難う、セドナ。あと1回頑張ってくれたまえ」

 ポンポンと頭を叩いてセドナとレグルスを追い出す。

「エー!後輩イジメだ!」

「おじさんたちは疲れちゃったの。ほれ、がんばれ若者よ!」

「もう!行こう、レグルス」

 何だかんだ言いながらもイオには逆らえないらしく、セドナが頬を膨らませながらレグルスの手を引いて走っていく。

「あれでなかなか良いところがあってね、レグルスとも仲がいいんだ」

 イオが目を細めて、説明するように呟くと、笑顔をディオネに向けた。

 兄を通り越して父親のような表情だ。

「そう思うでしょう?」

「さぁ、私にはなんとも・・・」

 ディオネは腕を組んだまま、ツンと顎を上げて答えた。

「つれないねぇ」

 ディオネの素っ気無い返答に肩を竦めると、桜子に向かって同意を求めるような笑顔を向けてきた。

 桜子はそれを固まったような微妙な笑顔で受け流して、テーブルの礼を言った。

「重そうなのに、ありがとうございます」

「イエイエ。ではお掛けいただいて」

 と自分もちゃっかりと腰掛けながら桜子に椅子を勧める。

 不必要に長い足を悠然と組み、だらしないと感じる一歩手前くらいでテーブルに凭れて肘を付く。 

 一方の桜子は足を揃えて、肘の上に両手を置き、出来るだけ姿勢よく座る。

「で、桜子ちゃんは高校に通ってたんだよね?」

「はい」

「こっちでも行かない?」

 桜子の頭の中で言葉が滑って耳から零れてしまった。慌ててそれを拾って再度構成してみる。

「学校・・・ですか?私が?悪魔の学校に?」

「あはは、そう言われるとホラーな感じだけど、間違ってないよね『悪魔の学校』」

 イオはその言い回しが気に入ったのか、「アクマノガッコー」と唄うように口ずさんでいる。

 あまりに進まない話に痺れを切らせたのか、ディオネが話を引き継いだ。

「あなたの行っていた学校と私たちの言う『学校』は色々と違いますから。『学ぶ』という基本理念は同じでも『学び方』が違います。あなた方のように教師が生徒に計画的に教育を施すのではなく、自分たちで生きていくのに必要だと思うことだけ学ぶのです」

 腕を組んだままニコリともせず話す様子は、相も変わらず冷淡で彼の周りだけ気温が2℃ほど下がりそうだ。

「要は知りたいことだけを学ぶってこと」

 ディオネの説明を若干無駄にするような台詞である。

「それ故に学年も時間割もありません」

 ディオネもそのくらいのことは意にも介さず説明を続ける。

「そう、好きなときに好きなように学ぶ場所ってこと。実はそこに大きな図書館があってね、今までの悪魔の仕事全ての履歴が残されているの。そこで師匠の過去の仕事を探してみてどこに出没してるのか調べてみようとおもってさぁ。どう、一緒に?」

 テーブルに肘を突きながら、覗き込むように桜この顔を見やる。

 その一瞬眼の中に浮かんだ真剣な光に、桜子は引き込まれそうな錯覚を覚えた。

 口調には真剣みが無くとも、瞳は驚くほどイオの心の中を物語っていた。

「それが手掛かりになるのなら」

 桜子も真剣に答えるべきだと思った。

「お願いします」

 しかし、ふと気になったことがあった。

「でも、(ニンゲン)が入れるんですか?」

「ああ、半分死んでるから大丈夫」

「うぅ」

 桜子が頭を内心、頭を抱えていると、セドナとレグルスが椅子を運んできた。

「重かったぁ」

 また、甘い声で不平を口にすると、ぐったりという様子で運んできた椅子に座り込んだ。

 レグルスも頬を上気させ、満足そうに椅子を置きながら桜子に笑顔を向けた。

「ありがとう。セドナくん、レグルスくん」

「ありがと、レグ」

 イオがレグルスだけに礼を言うと、セドナが跳び上がるように立ち上がり声を上げた。

「差別反対!僕だってがんばりました!」

「うん、もちろん、ありがとう、セドナ。でも、怪力自慢の君には朝飯前かと」

「キャぁ!それは言わないでって言ってるじゃないですか!」

 ぴょんぴょん跳ねながらセドナがイオの口を塞ぐ。

「怪力」

 セドナの外見からは想像の出来ない単語に桜子は驚いてセドナをまじまじと見詰めてしまった。

 サラサラの 白 金(プラチナブロンド)の髪に壊れそうに繊細なブルーグレーの瞳。彼を構成する全てが淡く儚げなのに・・・。

「先輩っひどいです」

 口元に拳を当ててイヤイヤと顔を振る様子は昔懐かしいぶりっ子という奴だ。

「そのギャップが良いんじゃないの。分かってないなぁ」

 イオの言葉にセドナが笑顔になる。

 イオの異名『悪魔誑し』を思わぬ形で見てしまった桜子は笑うに笑えずそっぽを向いた。

 ディオネも背中を向けていたところを見ると、同じような心境だったのだろう。

「桜子さん!コレは重大な秘密ですからね!!!」

  力んで詰め寄る様子がひどく可愛くて思わず笑ってしまう。

「うん、セドナくんの怪力は秘密ね。大丈夫口は(多分)硬い方だから」

「あー!もう!!また言う!」

 セドナが力いっぱい地団駄を踏んだ。

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