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慙愧  作者: ひとひら
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容疑者

「――はじめまして。署長の門別です」


大柄で物腰の柔らかそうな初老の男だった。握手の感じでは、握力勝負で勝てる気がしない。


「今回は、合同捜査ということで派遣されました。うちの上司も何かあれば協力を惜しまないといっております。よろしくお願いします」


「感謝します。組んでもらうのは嘉渡になりますが、彼女は刑事課のチームリーダーでもあるので組織として連携を図って頂けると有難い」


「もちろんです」


要は、勝手なことをするなということだ。それが出来たら一人で捜査にあたったりなんかしないのだがね。

そうして腹の中で舌を出しつつ、刑事課のルームで他のメンバーとも挨拶を交わす。ルームはどこも同じようなものだ。雑多なデスクに冷たい取調室。閉鎖的な重い空気を美味く感じられるかどうかで定年が迎えられるといっても可笑しくはない。自己紹介を済ませた俺は、嘉渡から遺体についての話を聞いた。


「今回の事件は他殺。検視結果から上半身と下半身が別の人物だったわ。上半身の死因は絞殺。身元は判明。国会議員の前野洋子。下半身の死因は不明。身元不明の20~30代の女。麻薬中毒の疑いあり」


「ああ、それでか」


「なにが?」


「前野洋子。見たことがあると思ったんだ。テレビか新聞でだろう。それに、下半身も気になってたんだ。別人なら納得がいく」


「前野洋子は、慈善事業に力を入れていたそうよ。特に身寄りのない子供達への支援が有名らしいわ。ハッキングによる停電だけど、何か分かった?」


「ハッキングは追憶橋から半径5キロ以内だったそうだ。他には映像で映し出された車がセダンタイプでこちら側に向かったということ。ナンバーは分からない」


「その車だけど、こちらで車名が特定できたわ。その中で犯行日に周辺を走っていたドライバーの話は確認済みよ。問題なのは、違法駐車で検挙した1台の車の所有者が個人でレンタル業を営んでいて貸した相手が分からないことよ」


「闇営業?」


「ええ」


「車から何か掴めそう?」


「鑑識に回しているわ。でも、塵ひとつ残って無かったから難しいでしょうね」


「どうする?」


「まずは、前野洋子の旦那に話を聞いてみるわ。署長いってきます」


そういうと、彼女はエレベーターへ向かってサッサと歩き出した。署長の門別は、慣れた様子で送り出すと申し訳ないといった仕草で小さく俺に片手を挙げて言った。


「彼女はなんというか......ユニークなんだ」


「ええ、分かります」


「ただ、刑事としては優秀でね。よろしく頼みます」


「こちらこそ」


やれやれ。


「――先日の件は、報告書を提出しておいたわ」


「なんのこと?」


「あなたが一般車両を無断で通行させた件よ」


「おいおい、そこまでするような話か?」


「規則違反」


「……」


これ以上の会話は、エレベーターではなかった。

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