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7.


 アルベールのことは、まだ踏ん切りはつかないものの事故で間違いなさそうだ。

 自分が呪っていなくて良かった、と思う。

 けれど、今度はどうにかしてその事故を防げなかったのかと、悔やむ気持ちでいっぱいになる。

 少しでも時間がずれていたら。違う道を通っていたら。その日に出発していなかったら。


 考え出すとキリがない。もう、済んだことだから仕方ないのに。

 机の上を散らかしたまま、ぼんやりと考え込む。窓の外にはたたきつけるような風雨だ。

 雷も近くなっている。

 それでも、屋敷の中は煌々と灯りがともっているし、セントラルヒーティングでどこも温かい。


 雷の音で何をするのも気が散るし、ひとまず机の上だけ片付けておこう。手を伸ばすと、積み重なっていた本がバサっと崩れた。ハードカバーの本の中に、手書きの薄い冊子が挟み込まれていたのに気付く。

 何だろうと手に取って見ると、一番最初の上の欄にリルルメイサへ、と書いてある。

 珍しい名前だ。自分宛なのだと分かる。


 しかし一体、誰が。この本は礼拝堂から持って来た本だが。ノートを見ると、誰が書いたかすぐに分かった。

 母だ。

 十年ほど前に失踪した、母のノートだった。

 そこにはこう書いてあった。



 ~あの時ああ言えば良かった、を叶える方法~

1.礼拝堂の隣にある墓地の、一番奥の門を開けます

2.門を閉める人に、外に立ってもらいます

3.門をくぐります

4.閉めてもらいます


 あとは言いたかったことを伝えればOK!

 帰る時も同様

 ※ポイント 言いたいことをあらかじめ決めて練習しておくこと




 何度も読んでから、小首を傾げた。

 どういうおまじないなんだろう。



 夜にはすっかり雨が止んでいたので、翌日は良い天気だった。

 リルルメイサはソフィアをお供に、礼拝堂の隣にある墓地に来ていた。


「この奥に、門があるのかしら」

「お嬢さま、あんまり奥には行かない方が……」


 人が滅多に通らないので、草が生い茂っている。

 奥に、半ば朽ちたような門があるのを見つけた。


「ここかも。ソフィア、私が通ったら、門を閉めてね」

「はあ。それは構いませんが、一体何なんですか」

「お母さまが書いたノートに、そのおまじないが書いてあったの」


 リルルメイサの説明に、ソフィアは半信半疑だった。


「別におまじないを試すのはいいんですけど、そのノートの実物が無くなってるって。お嬢さま、夢でも見てたんじゃないですか」


 そうなのだ。昨日の夜、何度も読み返したノートなのに、今朝持ち出そうとしたらどこにも無かったのだ。

 だから、ソフィアには見せることが出来ずにリルルメイサの記憶にしかない。


「夢かもしれないけど、試してみたいの」

「はあ、まあ構いませんよ。じゃあ、どうぞ」


 リルルメイサは扉を開け、中に入った。

 ソフィアが扉を閉める。鉄格子の扉は大きな音をガチャンと立てて閉まった。


「…………」

「……お嬢さま、何か変わったことありました?」


 隙間からお互いが見えているが、特にどうもしていない。

 もう一度開けて、外に出てからソフィアに閉めてもらう。

 今度は、色々念じながら開けてみた。

 事故を防ぎたい一心だった。

 だが、何度試してもどうにもならなかった。

 そのうち、死んだ目をした神官がやって来た。


「ガチャガチャうるせぇ。何やってんだ」

「あ、シャリオス神官。ごきげんよう」

「ごきげんじゃねぇ、頭が痛いんだ。静かにしろ」


 この礼拝堂の所有者の娘に向かって、随分な口のきき方だ。すっかり打ち解けているのか、敬語もなく礼儀正しくもしないようだ。

 ソフィアがさっそく毒づく。


「どうせいつもの飲みすぎでしょう」

「あー、うるせえうるせえ」


 また片手で追い払われそうになったので、リルルメイサは提案した。


「シャリオス神官、この扉を閉めていただけませんか」

「あ? なんで俺が」

「一度閉めて頂いたら、もう止めますから。私が中に入ってから、お願いします」


 シャリオスはぶつぶつ言っていたが、リルルメイサは重ねて頼んだ。


「では、お願いします」

「分かった、分かった」


 面倒そうながらも引き受けてくれた。

 リルルメイサは扉を開けて、中に入る。

 シャリオスが扉を乱暴に閉めた。

 ガチャン。

 振り返ろうとしたが、目の前が真っ暗になっていた。



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