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ぽんこつ令嬢はタイムトラベラー ~婚約したくないと願ったらお相手のいけ好かない幼馴染が死んでしまったけど私のせいじゃない~  作者: 園内かな
第五章 アルベールの帰還

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4.



「なあに、お父さま」

「イーサンがアルベールを殴ってしまった後のことだ」

「ああ、そういえばお兄さまは無罪放免だったのかしら」


 今更思い出して尋ねると、父は説明してくれた。


「私とイーサンは、殴ったことについては謝罪したが、リルルの結婚については反対した。だが、彼は私たちに跪いて誓ったんだ。決してリルルに無理強いはしないから、償わせてほしいと。これまでのような振る舞いは改めるから、交際を禁じないでほしいと。あのアルベールが、だよ」

「…………」


 貴族が平民に跪くなど、絶対にあり得ないことだ。

 プライドが高く、尊大なアルベールがそんなことをするなんて、と目を丸くする。最近、彼に関して驚くことばかりだ。今まで見てきたアルベールは、一体何だったのだろう。

 そう思っていると、父は教えてくれた。


「私は尋ねた。どうしてそこまでリルルに拘るのかと。アルベールなら、いくらでも貴人同士の良い結婚相手がいるだろう。だが、彼は言った。リルルを愛している、どんなことをしても彼女と結婚したいと思っている、その為には何でもすると」

「何でも……」


 ちょっと、怖い。思わず身を震わすと、すぐにソフィアが熱いお茶の入ったティーカップを置いてくれた。

 父は背もたれにドサッともたれ、少し疲れたような顔をして言った。


「その言葉を、伯爵一家は好意的なものとして捉えたようだ。アルベールがそこまで言っているのだから、許してやってほしいと。イーサンが殴ったことも不問にすると言ってもらえた。だが私には、アルベールの宣言は恐ろしいもののように聞こえたんだ」

「僕もだよ。リルルが無理やり襲われているように見えて、カッとなってつい殴ってしまったけれど。それでリルルを嫁がせるなんてことになると申し訳ないよ」

「いいえ、お兄さま。ありがとう。お兄さまが庇ってくれて、嬉しかったわ。でも、そうね。明日、アルベールとちゃんと話をしてみるわ」

「大丈夫か、リルル。アルベールと二人きりになるんじゃないよ」

「大丈夫よ、ソフィアに付いててもらうわ。それに、どっちにしてもお見舞いには行かなきゃいけないし」





 翌日の新聞には、アルベールがリルルメイサを庇って怪我をしたが、婚約者を守った英雄だという風な記事が書かれていた。

 確かに守ってもらったし、間違ったことは書いていないと思うのだが、今までのことと家族の反対から、どうにもすんなり彼を愛せない。


 まだ愛とか恋は分からない。それでもソフィアの言う通り、絆されてはいると思う。

 モヤモヤしながら、アルベールの見舞いに行った。

 通された彼の私室で、ベッドに座っている姿を見てギョッとする。

 アルベールは素肌にシャツを肩に羽織っているだけだった。腕も通していないし、当然ボタンもとめられていない。胸板が意外と逞しいとか、そんな風に見てしまって慌てて目を逸らした。


「リルル、来てくれたんだな。さ、ここに座って」


 ベッド脇に置いてある椅子を勧められ、素直に座りながら口を開く。


「ええ、怪我は大丈夫?」

「やはり痛みはあるし、夜には熱も出る。でも、リルルが来てくれたら痛みも無くなった」


 今までにない素直な言葉と、眩い笑顔だ。

 それに、じっと見つめられるとドギマギしてしまう。


「……そう、良かったわ。ちょっと、聞きたいことがあって」

「何だ?」

「その、わざとナイフで刺されたりなんて、してないわよね?」


 そんなことする訳がない、わざと怪我なんてするか。

 その言葉を待っていたが、彼はすぐには答えなかった。

 まさか、違うよね?

 アルベールを信じられない思いで見つめると、彼はフッと笑った。

 陰のある、退廃的な笑みだと感じてしまった。


「……さあ、どう思う?」

「どう思うって。そんなことする人なんて、居ないと私は思うんだけれど」

「一瞬のことだったし、無我夢中だったから覚えていないな」

「そうよね」


 良かった、そんな訳ないわよね。そう思ったが、彼は続けた。


「でも、それでリルルが俺の元に居てくれるなら、腕の傷なんて何とも思わない」

「アルベール、貴方おかしいわ。そんな人じゃなかったでしょう……」


 彼は意地悪で、嫌なことばかり言ってきて、いつも苛めてくる性悪だ。だから、女の為に、それもリルルメイサの為に怪我をするなんて想像もつかない。

 しかし、彼はじっとりとした視線で見つめてくる。


「だとしたら、リルルが変えたんだ」

「私が……?」

「そうだ。俺を死なせたくないと言っては、傍に来てくれる。俺を見つめてくれる。以前のリルルなら、俺を見なかった。死んでもどうでも良さそうだった」

「そんなことないわ。貴方が亡くなる度に、私は胸が痛かったもの」

「だったら、その気持ちが俺を変えたんだろう。以前より、ずっとリルルを好きな気持ちが強くなった。どうしても離したくないんだ」


 確かに、彼が変わったのは事実だ。

 しかし、それは己のせいではなく時間を戻ったせいではないかと感じた。

 時間を戻して、何度も世界を変えていく。その度に何か、代償のようなものが必要なのでは無いのか。それが、アルベールの心だとしたら。


 命を救う代わりに、彼の心が変わっていったのかもしれない。

 ならば、どうすればいいのだろう。どうしたら分かってもらえるのだろう。

 首を横に振って、しどろもどろに説明する。


「あの、アルベールが変わったのは、私が助ける為に時間を戻ったかもしれなくて。命と引き換えに、心が変わったのかも。でも、それは私のせいじゃなくて、そういう力が働いたのかもしれない? だから、アルベールが大丈夫かちょっと心配だわ」

「俺が心配?」

「ええ」

「それは嬉しいな。もっと、俺のことを考えてほしい。傍に居るだけじゃなくて、俺をずっと見つめてほしい。リルル、どうすれば俺のものになってくれる?」


 そんなこと言われても。

 ドギマギして、更にしろどもどろになった。


「分からないわ。私、そういうの、分からなくて。でも、貴方に死んでほしくなくて。結婚は、したくないけど、でも、私。アルベールのものになるとか、ちょっと怖くて……」

「怖くしない。優しくするから。リルル、手を」

「え、ええ……」


 向かい合って、怪我をしていない右手を差し出されたので、そっと掴む。

 彼は優しく握って、そして穏やかな声を出した。


「前にも言ったけど。俺はリルルが好きだ。だから、リルルが結婚したくなるまで待つよ。もしずっとそうならなくても、ただ傍には居たい」

「うん……」

「その為に、婚約したい。俺に、傍で待つ資格をくれないか」


 こんなに自分を好いてくれて、怪我までして守ってくれた人に、そうまで言わせて嫌だと言える訳がなかった。

 この返事をしてしまっていいのだろうか、そう思いながらも目を伏せて言った。


「うん……」

「ありがとう! リルル、愛しているよ」


 後ろで、ソフィアが(あちゃ~)と天を仰ぐ気配がしたけれど、それにも何も言えなかった。

 アルベールが喜んでいるし、ニコニコしているので、じゃあもういいかなとこくりと頷いたのだった。


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