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ぽんこつ令嬢はタイムトラベラー ~婚約したくないと願ったらお相手のいけ好かない幼馴染が死んでしまったけど私のせいじゃない~  作者: 園内かな
第五章 アルベールの帰還

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2.



 シャリオスが馬車を見て言った。


「そのまま進んでいたらと思うとゾッとするな。でも、今これが壊れることによって山場は越えた、ような気がする」

「馬車が身代わりになってくれたのかしら」

「それは空想的な考えだな。経年劣化か、傷んでいたかだろう。だが、本来なら走行中にこうなる筈だった」


 すぐに馬車の修理の手配を、となったが今日中にはとてもじゃないが無理だとなった。

 それよりは、護衛の一人を早馬として行ってもらい、新しい馬車を伯爵家から迎えに寄越す方がいいだろう。

 すると、アルベールがこちらをじっと見つめながらサラリと誘ってきた。


「じゃあリルル。今日は一緒に泊まろう」

「え……、私は帰るわ。馬車もあるし」

「でももうすぐ日も暮れる。無理せず明日帰ればいいだろう」


 どうなのだろう、とフランクを見ると彼もアルベールの言葉に頷いた。


「……雨で、道がぬかるんでいます。早くは走れないので、遅くなりそうです」


 それを聞いてソフィアが、まだ繋いだままのアルベールの手をビシッとチョップした。


「泊まるとしても、別の宿屋です。アルベールさま、いつまでお嬢さまと手を繋いでいるのですか」

「ここで一緒に泊まっても構わないだろう」

「いけません! お嬢さまの評判に関わります!」


 二人が揉めだしたので、シャリオスに話しかけた。


「夕飯はどうしようかしら」

「飲食店に今から予約をしよう。御者も含めて、全員で八名か。早馬の使いになってくれる護衛には、特別手当を出してやってくれ」


 テキパキ仕切ってもらえるので助かる。


「ええ、そのように」


 ソフィアが別の宿屋に予約に向かい、護衛の一人が食事の予約に走ってくれる。

 旅って、色々トラブルがあっても楽しいものなんだと初めて知った。

 食事の席でも、いつもは同席しない御者や護衛の皆とテーブルを囲みワイワイと食べる。知らない話を聞くのはとても面白かった。

 ひとしきり笑って食べた後、お開きになった。

 リルルメイサが泊まる宿屋まで、アルベールが送ってくれるというので並んで歩く。


「旅って面白いのね、アルベール。いつもはお父さまとお兄さまと、決められた旅程で移動するから知らなかったわ」

「俺もそうだ。でも、今楽しいのはリルルと一緒だからだ」

「そう? 私は何もしていないけれど」

「皆を楽しませる空気を作っているのは、リルルだと思う。そんなリルルとだから、俺は一緒に居たいんだ」

「そう、かな。私はずっと、アルベールの前では、楽しくなかったし何も言いたくなかったけど」


 何かを言ってもあげ足を取られ、嫌味ばかりで目を合わせるのも嫌だった。

 それを伝えると、彼にも分かったのだろう。


「俺以外の人たちとは、楽しそうにやってた。自分のせいだって分かっているのに、それにまた嫉妬したりしていたな」

「嫉妬……」

「そうだ。でも、きっと将来は、リルルと結婚出来る。そう信じて態度を改めなかった。はっきりと、俺と結婚しないと宣言されて、驚いたし焦った。リルルと結婚する為には、変わらなきゃいけないとやっと分かったんだ」

「…………」


 何だか、アルベールは色んなことを考えたり悩んだり、複雑なのだなと思ってしまった。

 リルルメイサは、そんなに深く考えたことはなかった。

 彼に優しく呼びかけられる。


「リルル」

「え、ええ」


 いつの間にか、宿屋の前についていた。

 彼はリルルメイサの手を恭しく持ち上げると、手の甲にキスをした。


「俺は無事に帰りついて、求婚するつもりだ」

「う……」

「おやすみ、リルル」

「おやすみなさい、アルベール」


 去って行く彼を見送る。

 何だか平静で居られず、胸がドキドキしていた。


「またお嬢さまは、絆されて。隙だらけなんだから」

「わっ! びっくりした。急に近付かないでよ」


 ソフィアに苦情を言うも、すげなく跳ねのけられた。


「お嬢さまがボーっとしてるからですよ。アルベールさまが死んでしまうって大分気に病んでらっしゃったから、旦那さまも旅を認めましたけど。生きて帰ったら、そのままお別れでもいいんですからね」

「お別れ……」

「旦那さまには、くれぐれもアルベールさまと過度な接触をさせないようにと言いつけられてます。求婚されてもお断りして大丈夫ですからね」

「…………」


 無言で宿屋に入り、入浴などの休む支度をしてベッドで横になる。

 帰ったら、人生を決めなければいけないのだ。

 今までだったら、アルベールとの求婚を拒否しても良いならそうしていただろう。

 けれど、アルベールの気持ちを色々聞いてしまったら、断っても良いのだろうかと悩んでしまう。

 二人の仲が、今日みたいな関係でずっと居られたなら、それは楽しいだろう。


 でもでも、結婚した後でまたアルベールが意地悪になって嫌なことばかり言ってきたら?

 考えは尽きない。

 夜はゆっくり更けていくのだった。




 翌日、朝から早馬が帰ってきて、昼までにはアルベールが乗る馬車が届くとのことだった。

 リルルメイサは先に帰っても良かったのだが、まあここまで来たらアルベールを最後まで見届けようということになって、皆で待つことにした。

 そして昼から、再び領地の中心街に走り出した。

 夕方には、いつもの目抜き通りに到着する。

 無事に、誰も怪我することなく着いた。


「ああ、良かったわ」

「本当ですね。お嬢さま、カフェで休憩してから帰られますか?」


 ソフィアの言葉に、それもそうだなと考える。

 昼に出発するので、朝昼兼用のブランチを食べただけで小腹が空いていた。

 今屋敷に戻っても、夕飯はいつもの時間なので待つことになる。帰るなり食事を要求するのも忙しない。


「そうね。お茶と、何か軽い物でも食べましょうか」

「私、お店に言ってきますね」


 アシュレイ商会と関わりの深い、いつものお店にソフィアが用意を言いつけに行く。

 シャリオスは遠慮すると申し出た。


「ちょうどこの近くにある書店に行きたかったので、俺はこれで。懐に余裕がある時に行けるのは嬉しい」


 この旅で、シャリオスにも存分に謝礼を払っていたのだった。

 アルベールもこの動きに気付いて、自分の馬車を降りてリルルメイサの所へやって来る。そして馬車を開けるなり言った。


「また間食か?」

「また、って。ええ、そうよ。アルベールも一緒に行く?」

「喜んで。お手をどうぞ、リルル」

「……ありがとう」


 率先してエスコートしてくれるアルベールなんて、不思議な感じだ。親切にしてくれるなんて、とまだ信じられない気持ちが強い。

 けれど、こうやって彼が無事に居てくれるなら良かった。


 リルルメイサは、無事にここまで彼が到着したことで安心して気が抜けていた。

 この場にいる全員がそうだった。いつもの領地の、いつもの清潔で安全な場所で、何も起こるはずがないと疑いもしなかった。

 そこに、異様な雰囲気の男が現れた。

 馬車から降りたばかりのリルルメイサはハッとし、身をすくませる。

 アルベールがその男の前に立ちはだかった。


「カネ、金だ。カネ寄越せ」

「……なんだと?」

「その女は、金貨バラまいたんだろ! 金、寄越せぇ!」


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