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ぽんこつ令嬢はタイムトラベラー ~婚約したくないと願ったらお相手のいけ好かない幼馴染が死んでしまったけど私のせいじゃない~  作者: 園内かな
第三章 運命を変えたい

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5.



 シャリオスが指したのは、確かにお屋敷というには小さい。しかし周囲を塀に囲まれ、庭も広い一軒家だ。


「リルル!」


 辻馬車から降りると、アルベールも馬から飛び降り駆け寄ってくる。しかし、リルルメイサはそれを無視して言った。


「塀の裏手に、資材が積まれていてそこから出火したと聞いたわ」

「資材? そう言われてみれば、塀の一部が老朽化したから修繕するとか言ってたな」

「そちらに回りましょう」

「おい、リルル!」


 うるさいな、という態度を隠しもせずリルルメイサはアルベールにも告げた。


「今からここで火災が起こる、かもしれないの。貴方も来るならこき使うわ」

「火災が起こるかも、だ? 何を言ってるんだ」

「裏手に回りましょう」


 ぞろぞろと移動すると、確かに資材が壁に付けられた状態で置かれている。


「本当に資材がありましたね。お嬢さま、どうされますか」

「シャリオスさん。この資材、お庭に置けますか?」

「置く場所はあるが、一体誰が移動させるんだ?」


 その問いに、リルルメイサは当然のごとく答えた。


「全員でするのよ」

「えぇ~……」


 不満の声を漏らしたのはソフィアだったが、リルルメイサはもう一度宣言した。


「ここに居る全員で移動させるのよ」


 辻馬車の御者には、少し離れた空き地で待っていてもらい、アルベールが乗ってきた馬も一緒に見てもらうことにした。当然、御者にはたっぷり賃金を払った。

 フランクは率先して資材を持って移動してくれ、せっせと運んでくれた。

 ソフィアとシャリオスは、ぶつくさ言いながらだが動いてくれている。勿論、リルルメイサも軽い物など持ちやすい物を移動させた。


 アルベールには流石に肉体労働をさせられないと思って、荷物の見張りと灯りを照らす為に裏で立っていてもらった。灯りはシャリオスの家から借りた物だ。

 突然帰ってきた息子が


『資材を外に置きっぱなしだと不用心だから』


 と言った時、彼の母は戸惑っていたが灯りを貸してくれた。

 順調に資材を移動させていると、裏から騒ぎ声がするのが聞こえてきた。

 男たちの声だ。アルベールの声もする。


「お前たち、盗人か!」

「俺らが先に目を付けてたんだ! 勝手に横取りするんじゃねえ!」

「盗人猛々しいとはこのことだな!」


 アルベールが泥棒と間違えられているらしい?

 しかも、その言いがかりをつけているのも泥棒らしい?

 分からないが、リルルメイサは慌てて言った。


「シャリオスさん! あれはこの家の物だって早く伝えて!」

「分かってる!」


 皆で走って駆けつけると、盗人は三人も居た。アルベールが囲まれていて、その中にはナイフを持っている男も居た。

 リルルメイサはヒヤリとする。また彼が殺されたらどうしようと、反射的に死に顔がよぎる。


「ど、泥棒~!」


 大きな声を出そうとしたが、声はかすれていた。

 しかし、盗人たちの注意はこちらに引くことが出来た。

 シャリオスも声をあげる。


「おい、その資材は我が家の物だ。警吏を呼ぶぞ!」

「違う、誤解だ! コイツが盗もうとしてたのを、俺らが見つけたんだ!」

「嘘をつくな! 先に目を付けたとか、横取りとか言っていただろうが」


 よせばいいのに、アルベールがそんな風に言って盗人たちを咎める。

 彼が刺されたら大変だと、リルルメイサはハラハラして言った。


「アル、やめて……」

「こいつらを捕まえる!」


 逆上した盗人の一人がナイフを振り回す。

 アルベールが危ない!

 そう思ったが、彼はスッとナイフを避けて男の顎を殴りつけた。すると、その男は一発で気絶してしまったのである。

 慌てたのは盗人の仲間たちだ。


「やべぇ!」

「逃げろ!」


 その時に、彼らが持っていた灯りがガチャンと地面に落ちた。その弾みで、資材に火が付く。


「あっ、マズい! 火が!」


 フランクがそれ以上燃え移らないよう、慌てて資材を蹴って塀から離す。シャリオスとアルベールが上着を脱いで叩きつけ、火を弱めようとする。だが火は消えない。

 その時、ソフィアが遠くから声をかけてきた。


「これ! 運んで! お水、貰ってきました!」


 見れば、桶いっぱいにお水が入っていて、ソフィアはそれをヨタヨタと運んできているのだ。

 フランクがすぐに走って取りに行き、そして資材についた火に水をザバーっとかけた。

 結局、被害は少しの資材、それにシャリオスとアルベールの上着だけという結果になった。


「はぁ……、これで、大丈夫なのかしら」


 何もしていないが、ドッと疲れた。

 そう呟いたリルルメイサに、シャリオスが突っ込む。


「君が分からなかったら、誰にも分からないだろ」

「私にも分からないけれど。今夜は家で見張っていて」

「分かった」

「貴方にはこれから協力して貰わないといけないの」


 そう言うと、シャリオスはニヤリと笑った。


「面白そうだが、こちらにメリットは?」

「希望の研究職になるには推薦が必要で、それにはお金がかかるんでしょう?」

「そうだが」

「協力してくれるなら、推薦に必要なものを用意するわ。金銭でも後押しでもね」


 アルベールが口出ししてくる。


「一体、こいつに何をさせるつもりなんだ」

「まあ、色々よ」

「俺がその協力とやらをする。だからこの男に頼る必要はない」


 アルベールがぴしゃりと言って、シャリオスはニヤニヤ笑いのままだ。

 リルルメイサは疲れた表情でシャリオスに告げた。


「この先、どうやってもこの方が亡くなるの。私はそれを防ぎたいの」

「……はぁっ⁈」

「へぇ~」


 勿論、驚いたのはアルベールでニヤニヤして相づちをうったのはシャリオスだ。

 リルルメイサはこれ以上話をしたくないと暇を告げた。


「とりあえず、今日はもう帰るわ」

「ああ、また後日詳細を聞かせてもらおう」


 そこでシャリオスとは別れたが、アルベールはついてくる。


「あの男は誰だ。いつ知り合ったんだ」

「詳細はまた後日、よ」

「リルル、ちゃんと説明しろ」

「疲れているのよ」


 待ってくれていた辻馬車の元に行って、そこに乗り込むとアルベールは驚くことを御者に告げた。


「プレイストン伯爵家の屋敷までやってくれ」

「えっ! どうして」

「お前は今日、屋敷から逃げ出すように帰っただろ。母上や兄上にも、ちゃんと挨拶しろ」


 だからと言って、こんな夜に押しかけるなど迷惑だろう。


「それはまた明日にでもすれば……」

「どうせ、今夜は皆が泊まる用意をしているんだ。泊まっていけ」


 伯爵家のゲストルームは二十を超えているし、夫人の誕生日で宿泊客もいる予定だった。

 だが、リルルメイサは泊まらず帰る予定だった。屋敷が近いから泊まる必要などない。


「泊まらないで帰るわ。お父さまも心配しているかだろうし」

「お前の父たちも、まだ屋敷に居るかもな」

「そんな、ちょっと……」


 リルルメイサはごねた。しかし、この場に居る中で一番偉いのはアルベールなのだ。

 御者も、分かりましたとアルベールの言うことを聞く。

 心配そうにソフィアに目線をやるも、彼女はあっさり言った。


「誕生日会のディナーにありつけるかもしれませんね」


 使用人にも、普段より豪華な食事が振る舞われるのだ。

 仕方がない。どちらにせよ、さっき騒ぎを起こしてしまったことを謝らなければいけないし、夫人の誕生日を祝うとといいだろう。

 そういえば、とチラリとアルベールの顔を見ると少し頬が腫れて赤くなっている。


「傷、痛む?」

「まあ、多少は」

「それにしても、盗人相手には強かったわね」


 兄のイーサンはハッキリ言ってもやしだ。今は商会の仕事ばかりで何も鍛えていない。そのイーサンに殴られたから、アルベールは大したことがないと思っていた。だが、先ほどは盗人を一撃でのしていた。

 いざという時は強いのだろうか。

 そう思って言ったのだが、アルベールはフッと笑った。嫌な笑みだった。


「ああ、殴られたのはわざとだ」

「えっ……」

「その辺りのことも話さないとな。後で、ゆっくり」

「………………」


 辻馬車の中で、ソフィアに相談した。


「お兄さまにはわざと殴られたって、どういうことかしら」

「その方が有利になると思ったのかもしれませんね」

「有利って……」

「揉みあいになったのも婚約するしないがきっかけなんでしょう。アルベールさまは、どうしてもお嬢さまと婚約したいんじゃないですか」

「そんな」


 一体、どうして。

 しかし、彼のその考えを改めない限りアルベールは何度も死んでしまうのかもしれない。

 この辺りのこともシャリオスに相談しよう。そして、婚約せずにアルベールが生き残る手を考えてもらおう。

 自分では考え付かないから丸投げだ。



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