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幸せな人生

動物たちが同じ言語で共生してる世界で独善的に生きた者たちの末路を描くオムニバス形式の短編小説。

現代社会における『後悔先に立たず』

相手が何者か知らなくても繋がれる今の社会だからこそ読んでもらえると嬉しいです。


※カクヨム、アルファポリスとの重複掲載です。

 あるところに、兎の姉妹がいた。姉はとても賢く学者になり、妹は特に秀でた部分はなく平凡な女だったが、平凡な男と結婚した。


「姉さん結婚っていいわよ、人と一緒にご飯を食べるのは幸せよ」

「そう、あなたが幸せそうで良かったわ」

「だから姉さんも早く結婚してね」

「そうね、ご縁があったらね」


 妹に子供が出来たころ、姉は学会で発表した論文が評価されて忙しい日々を過ごしていた。


「姉さん子供っていいわよ、子供と過ごすと賑やかで楽しくて幸せよ」

「そう、あなたが幸せそうで良かったわ」

「だから姉さんも早く結婚して、子供を持つといいわ」

「そうね、ご縁があったらね」


 妹の子供が成人した頃、姉は本の執筆でそれはもう忙しい日々を過ごしていた。


「姉さん結婚もしないで子供もいないでしょ、老後は不安じゃないの?」

「不安はないわよ」

「ひとりで死ぬのは寂しくない?」

「えぇ、寂しくないわ」

「姉さんはどうしてそんなに強がるの!?」


 妹はどう言うわけか怒って部屋を出ていってしまった。姉は彼女が乱暴に締めたドアを見つめて心配そうな顔をした。



 しばらく経ったある日、また妹が訪ねて来た。あの時カンカンに怒っていたのは忘れたようだ。


「夫が退職してから、毎日テレビを見てダラダラしてるのよ。家事の手伝いくらいして欲しいわ。姉さんからもウチの夫に言ってよ」

「夫婦の問題の事はわからないわ、私には口出しできないわよ」

 

 姉は困った顔をした。


 それから数年経ち、姉は年老いた親の面倒を見ながら本を書き続けた。


 そんなある日、また妹が訪ねて来た。


「息子と嫁が同居を嫌がるのよ。親の面倒は子供がみるものじゃない?姉さんを見習ってほしいわ、姉さんからもウチの息子に言ってよ」

「親子の問題でしょ?私にはなにも言えないわ」


 昔はあんなに幸せそうだったのに、最近の妹はどうにも幸せそうじゃない。一体どうしたんだろう。

 姉はとてもとても心配そうな顔をした。


 両親が亡くなって数年経ち悲しみが和らいだ頃、姉は本を書くために筆をとった。筆がのってきたその時、電話が鳴った。


「姉さん聞いて!息子が私を老人ホームに入れるって言うのよ!!ボケてなんかないのに!息子は嫁と結婚して人が変わった!鬼の嫁をもらったのよー!!」


 妹は電話の向こうで大声で泣き喚いている。これは一大事だ、妹を元気づけてあげたいと姉は思った。


「泣かないで、大丈夫よ。最近の老人ホームは楽しいって聞くわ」

「あんなところ姥捨山よー!!」


 妹は腹を立てて電話を切った。姉はだいぶ心配そうな顔をして電話をかけ直すか悩んだ。


「先生、どうされたんですか?」


 姉の一番弟子が、お茶を持って部屋に入って来た。


「妹から電話があったの、老人ホームに入るのが嫌みたいでとても怒っていたわ」

「そうですか、大変でしたね」

「最近の老人ホームは楽しそうだからなにも心配しなくてもいいと思うのにね、ほらこのパンフレットを見て、ここではゲームが遊べるんですって」


 仕事机の棚から、たくさんの冊子を取り出した。


「なんですか?このパンフレット。どうしてこんなに沢山あるんですか?」

「私もいつかはお世話になるかもしれないでしょ?」

「いえ、いけません!先生は国の宝です!先生の知恵を後世に残さなくては!研究も執筆も講演会も死ぬまで辞めてはいけません!老人ホームに入れると思わないでください!」


 弟子は鼻息荒く、そう答えた。


「まぁ、なんて事言うの?私に死ぬまで働きなさいっていうの?」

「そうです!こうして私が先生の身の回りのお世話をしますから、ご心配なさらず。ほらほら、老人ホームのパンフレットは片付けてこっちのパンフレットを見ましょう!来週講演会がある県のホテルと観光地です!」


 弟子が持ってきた資料には、美味しそうなご馳走の写真が大きく載っている。


「あらここのホテル、ご飯が美味しそうね」

「先生の好きな海の幸が名物ですよ!」

「ここの博物館面白そうね、それからこっちの滝も観に行きたいわ」

「はい!さっそくチケットを手配しておきますね!」

「ありがとう」



 弟子が用意した旅のパンフレットを指差しながら2人で楽しそうに笑い合った。


 その日の夜、原稿を書き終えた姉は温かいお風呂にゆったりと浸かった。


「死ぬまで働いて遊んで美味しいものを食べる。毎日忙しいけど、楽しければそれでいいのかもしれないわね」


 お風呂からあがると、綺麗に片付いたダイニングテーブルに伏せて寝ている弟子を見つけた。


「あら、こんなところで寝てないでお布団に入りなさい」


 声を掛けてもすやすやと、気持ちよさそうに寝息を立てている。仕方がないので毛布を持って来て弟子の肩に掛けた。


「賑やか過ぎるのは玉に瑕だけど、本当に優秀で可愛い弟子ね。……いつもお仕事頑張ってくれてありがとう」


 穏やかな笑みを浮かべて、ぽんぽんとそっと優しく背中を叩いた。


「こんな形のご縁もあるのね」

■あとがき■


ご覧くださってありがとうございます。


動物の世界に置き換えて、現代社会で問題になっている話題を描いていきます。


『後悔先に立たず』


独善的に生きた結果、どんな結末になるのか……。

想像力が大事であるという戒めを、小説の登場人物の人生から追体験できればと思い書き始めました。


応援してもらえると嬉しいです。

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