画面の向こう
動物たちが同じ言語で共生してる世界で道を外れた者の末路を描くオムニバス形式の短編小説。
現代社会における『後悔先に立たず』
相手が何者か知らなくても繋がれる今の社会だからこそ読んでもらえると嬉しいです。
※カクヨムとの重複掲載です。
「はぁ〜なんだよこの味方、へったクソだな」
ギシッと音を立てて椅子が軋んだ。体の大きなカバの男を貧相な椅子が支えていた。
「やめだやめだ、この時間帯は碌な奴がいない」
ヘッドホンを置いて、男はゴロリとベッドに横たわる。モニターのゲーム画面には「ごめんなさい」と一言書き残し、味方プレイヤーが退出したログが映っている。
男はスマホを手に取り、SNSを開く。タイムラインにはゲームに関する呟きや、2次創作のイラスト、コスプレイヤーがずらりと並んでいる。
いつもショート動画を上げていたコスプレイヤーのキツネの美少女がLive動画を上げているらしい。もしかしたらコメントを読んで貰えるかもしれないそんな期待を抱いてLive動画を開いた。
ゲームの画面からそのまま抜け出してきたかのような姿で、喋って動く彼女の姿に感激をしたのも束の間、コメント欄が荒れているようだった。
途中から見始めたので、まだ話について行けないがコメントには「やめないで」「元気出して」なんていう声が多い。
「みんなありがとう……でもこのまま続けたら本当に好きだったものが大嫌いになっちゃうかもしれないから、このゲームからしばらく離れようと思う、コスプレもやめます」
彼女はこのゲームをやめて、コスプレもしないと言っている。何がそうさせたのかはわからなかったが、男はコメントを書き込んだ「やめないで」と。
彼女の決意は固くそのLive配信後に動画のアーカイブも、SNSのアカウントも全て消えた。男がどんなに励ますコメントを書き込んでも、結局最後まで読んで貰うことはなかった。
「なんでだよ……」
喪失感でいっぱいになりながら彼女を引退に追い込んだ原因をネット上で探し回ると、とある掲示板で彼女に関するトピックを見つけた。
彼女を惜しむ声が数多く書き込まれている中、このゲームの治安の悪さを嘆き、怒る声も多くあった。
『チャット欄マナー悪いから疲れる気持ちはよくわかる、ゆっくり休んでまた戻ってきて欲しい』
『戦犯とか言われると俺でも心折れる時ある』
『運営なんとかして欲しいよな、このままじゃユーザー人口減るぞ』
どうやら彼女がこのゲームを去った理由は、プレイヤーのマナーと口の悪さらしい。カバの男はオンラインゲームなんていうのはそういうものだとずっと思っていた。
『メンタル弱すぎ雑魚乙wwwその程度のこと耐えられないなら一生ゲームやるなw』
アンチだろうか、引退した彼女を嘲るような書き込みもあった。
『よく自分がされて嫌な事はするなって言いますけど、自分がされて平気でも他人が嫌がる事はしちゃいけないんですよ。』
アンチに対しての返信が、男の心を深く抉った。自分に対しての返信ではないとわかりつつも胸が苦しくなった。
なぜなら、彼もアンチと同じで暴言に耐えられないならゲームをするなという考えを『今までは』持っていたからだ。
あの子が引退するまでは。
彼女を追い詰めたのは自分かもしれないし、そうではないかもしれない。原因が自分ではなかったとしても、『俺はそいつと同類』だ。
頭の中でぐるぐると暗い感情が渦を巻く。
男はベッドの上で大きな体を、小さく小さく丸めた。
■あとがき■
ご覧くださってありがとうございます。
動物の世界に置き換えて、現代社会で問題になっている話題を描いていきます。
『後悔先に立たず』
独善的に生きた結果、どんな結末になるのか……。
想像力が大事であるという戒めを、小説の登場人物の人生から追体験できればと思い書き始めました。
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