魔法適性ゼロ
「おら!!さっさと馬車から降りろ!!」
無遠慮な行動とまるでゴミでも見るかのような眼差しを向けられた僕は甲冑を身に纏った兵士に乱暴に腕を掴まれ強引に馬車から放り出される。
外は雨が勢い良く空から降り注ぐ。
地面に落下した雨は水溜りを形成しぬかるんでいる。
そんな状態の地面に馬車から放り出された僕はバシャっと言う音と共に泥で濁った水溜りに叩きつけられた。
白色の上着は泥水で汚れ、みるも無惨な姿へと変える。
「…うぅぅ……」
地面に叩きつけられた衝撃に呻く。
肺に入っていた全ての酸素が衝撃により肺の外へと吐き出され霧散し、体が酸素を求める。
「…うぅ…っく……はぁはぁ……」
痛みに耐えながら体を丸め、酸素を肺へと供給する。
そんな状態の僕の頭上から声が響き渡る。
「欠陥品の分際で呼吸するとは恥知らず者め!!!貴様など生きている資格などないと理解しろ!!!」
僕に対しての罵声が耳に届く。
それはとても心地よい言葉とは正反対だった。
「……はぁはぁ………なん…で…こん…な……」
涙で潤んだ瞳を声の主へと向けながら力なく声が溢れる。
「…何で…だと?そんな事もわからぬのか?おめでたい奴だな貴様は。だったら教えてやるよ」
下卑た笑みを浮かべる兵士。
それは誰もがとても不愉快に感じられる表情だった。
その兵士はゆっくりと右手を僕に向けながら人差し指を向け、口を開く。
「魔力量は規格外だか貴様は魔法適性は皆無なんだよ。使える属性が一つもない欠陥品。宝の持ち腐れだと言えば分かるか?魔力はあれど魔法は使えない。これを欠陥品と言わずして何と言う?だから俺にある命令が下された!!」
声高々に辛辣な言葉が胸に刺さる。
それは抜こうとしても簡単には抜けない棘の様に深く突き刺さった。
「……ある命令……」
その言葉が口から溢れた瞬間、理解する。
いや、理解してしまった。
次に放たれる言葉は予想出来てしまったから。
「貴様を捨てて来いってな。殺す案もあったみたいだが、まだ6歳の貴様が一人で生きていけるとは思えない。だからだよ。帰る家もない、お金も無い。食べる物も無い。そんな地獄を味わいながら苦しんで死んでいけだとよ。欠陥品を拾う物好きも居ない世の中だ。生まれてきた事を後悔しながら無様に死にゆくんだな」
兵士は笑いながら面白そうに捲し立てながら言葉を発すると馬車の中へと姿を消し、来た道を戻って行く。
雨足は更に加速し、馬車は僕の視界から姿を消した。
「………何で……こん…な……」
視界が歪む。
堪えていた涙が目から溢れ落ち、ぼやけて映る世界が悲しみに染まっていく。
どうしてこうなったのか
こんな苦しみを何故僕が受けなければいけないのか
そんな思いがぐるぐると駆け巡り胸中を圧迫する。
涙が止まらない。
嗚咽が止まらない。
雨の降りしきる寒空の下で僕は一人慟哭の涙を流していた。