『隼人へ、
今この手紙を読んでいるということは、私は、多分死んでいることだろう。
だが、私は、自分の人生に一片の後悔もない事と思う。
何故なら、嫁さんを娶り、子を育て、息子は、自分とは、違う道を行ったが、それはそれでいい。そして何より、お前に私が持てる全ての技術を伝えることができた。お前は、更に精進してくれ。
さて、私の財産だが、知っての通り、私にはお前しかない。よって、麻羅隼人に、全てを相続させる。
以下の物を相続させる。
一
お金は、約2,000,000,000,000円(二兆)は有るので、生活には困らないと思うが、使いすぎないよう。
二
此処にある刀などの武器も、好きに使って構わない。ただし、わかっていると思うが、ちゃんと手入れをするように。
三
此処にある、壺などは、御客からいただいた物なので、好きにしてくれて構わない。
四
此処の土地の権利などは、既に相続させてある。
以上
追伸
何かわからない事が有った場合は、後日、弁護士から電話が掛かってくる事に成っているので、その者に聞いてくれ。
追伸二
お前は、今、目標となる者が居なく、更に武術やその鍛錬、又、刀工としての鍛錬の他にやる事がないと思う。
だが、それに甘んじ、くすぶっているようでは、まだまだ未熟者だ。
いくら刀の腕を磨き、強くなろうともそれは所詮上辺だけの強さでしかない。
私は、真の最強とは、己を律する事から始まると教えた筈だ。
お前は、感情を律する事はできている。
だが、志、友情、愛、このような守りたい者を守る事につながる感情は、とても強くなることがある。
そしてお前には、それが無い。
よってその、強い感情を上手く制御し、生かす事ができれば、お前は、誰にも負けない真の最強足り得ると、私は、勝手ながら思っている。
最後に、お前に絶対に言って置かなければならない事がある。
知っての通りだが、お前の髪や瞳は、私の奥さんの遺伝だ。
私の奥さんは、名を、
ミレーヌ・リ・ノルマン
といい、イギリスのある所の令嬢で代々特殊な能力を受け継いできたらしい。
そして、その金の髪と、碧眼が、その証だそうだ。
実は、私も余りよくは知らないが、能力は、思春期に覚醒する事が多いらしい。覚悟しておいてくれ。
又、世代によって力も違ってくると言っていたが、その時がくれば自然と使えるようになり、鍛錬をすれば制御する事も出来ると言っていた。
だが、彼女は、念のために言っただけなので大丈夫だと言っていた。
しかし、重要な事なので書いておく。』
便箋には、こう書かれていた。
隼人は、読み終わると、まず、便箋を綺麗に戻してから、ため息をついた。
守りたい者か、難しいな。しかし、いきなり遺伝の能力って言われても、もはや驚くことさえ出来ない。ハッキリ言って現実味が無い。
せめて能力の全貌を教えて欲しい。
隼人は、内心思った。
「しかし結局、やることは無いか、」
ちょっと寂しさを感じてしまい一人つぶやいた。
しかし今はもう夕飯の時間である、なので隼人は、夕飯を作るために倉庫から、キッチンへと向かった。
ご飯を食べている最中にも、これからの事が頭に浮かび、余り食欲がでなかったが、エネルギーの為に飯を詰め込む作業をしなければならなかった。
余計な事を考えないように5分程で夕飯を食べ終た。
だが、どうも生活のリズムが崩れたせいか、食後の運動をしなければならなかった。
食後の運動の後、隼人は、特にやる事もなかったので、これからの事について考え、脳内で、地獄絵図の堂々巡りをする前に、倉庫の奥の方を、入ってから日本刀などの武器が置いてある、4メートルほどは、綺麗だったが、残りの、2メートルほどは、祖父が、興味が無い為か、綺麗とは程遠い程に汚れていたからである。
倉庫の中に入ると、やはり、約初め4メートルは、綺麗だが、残りの2メートルは、どうみても、とりあえず置いてあるだけだった。
しかも、よく見てみると壺や金塊(これは金塊と呼んでいるが、金の延べ棒や金のブタの置物ことなど、金の塊のような物のことである。)以外にも、壺の中からネックレスや指輪が入った箱。さらにハニワのような物まであった。
中でもも驚いたのは、壺の中には明らかに古い金貨がジャラジャラ入っていたことである。
そして、色々と物色していた僕は、ある物に目を見開き、凝視した。
それは、3つの壺に隠れるように角に置かれていた古い、ペンダントだった。またペンダントは、木箱などの入れ物には入っておらず、ただ生身のままで置かれていた。
だが、ペンダントが生身のままなため、目を見開き、凝視してしまった訳ではない。
確かに、入れ物に入っていなかったペンダントは、埃の中に埋まっていて、軽く見積もっても10年分は、ペンダントの周りに積もっていた。
さらに、三つの壺によって誰かが、意図的に隠したような感じになっていたた。
その為か、他の物と比べると何か雰囲気が異なっていた。
隼人は、ゴクリと喉を鳴らした。
何故か、恐る恐るとペンダントを持って埃を払った。
「ゴホゴホ」
だが、予想以上にもペンダントに埃が、付いていたため、軽く噎せてしまった。
しかし、噎せ終わり、顔を上げた時、緑に近い碧眼の瞳は、これてもか、という程に見開かれた。
それは、当然の事である。
何故なら、この光が少ない倉庫の奥でペンダントは、眩しい程に光輝いていたからである。
刀工である隼人が見た所、ペンダントの鎖は、明らかに超高純度の純銀を使用しており、更にその精巧な鎖は、刀工である隼人では、全く出来ないと思わされる程に綺麗だった。
更に鎖に繋がれた、直径5センチくらいある円の中に十字架のような十字のに彫られている。
しかし、これもかなり高純度の純金で作られている事がわかる。
だが、純金で作られているにも関わらず、おもわず見とれてしまうくらいに綺麗な形だった。
その、鎖と円の中の十字架のような物が相まって、とても綺麗であった。
隼人は、数瞬だけ目を見開いていたが、直ぐにいつもの表情に戻った。
何故、こうもこのペンダントに驚いたのか、わからなかった。
だが、先ほどのペンダントの埃などを被ってしまったらしく、身体中が埃まみれに成っているのを気がついた。
なのでもう殆どの整理をし終わったのを確認すると、隼人は、倉庫を出て、風呂場に向かった。
だが、隼人は、その手にペンダントを握っていた意味を持っていなかった。
屋敷の風呂は、割と広く、祖父が手入れをしていたため綺麗だ。
更に、洗面所はかなり広めに約3メートル程の正方形のような形に作られている。、ちょっと古い洗濯機が、置いてある。
隼人は、洗面所に来て、服を着替える為にいつも着ている札幌南のブラザーのボタンに手を掛けた。
そして、ようやく自分が、倉庫の中に埋もれていたペンダントを左手で握りしめているのに気がついた。「・・・・・・・・!!!!?」
驚いた。
何故なら、自分は、余り強い感情を抱かないが、自分の心はを律する事が出来ていると祖父が言っていたからである。
よって自分は、ペンダントが如何に魅惑的であろうとも、このような物を自分の意志に反して持ってくる筈がない。
そして疑問に思った。
まず、祖父が言ったのは、虚言なのか?と思った。
しかし、祖父は、自分から見てもかなり厳格な人柄をしていたため、祖父に限っては無いと判断した。
つまり今自分は、弱い感情しか持たないこの心を律しているという事である。
ならば何故?そう思った。
そうして考えてみると。
出来ればそうでは、無いように思いたいが、2つ最悪の理由が浮かんだ。
一つ目は、
自分が祖父を亡くした悲しみに浸って、その遺品で、もっとも印象に残ったこのペンダントを精神的な寄りどころにしているのではないか?と思った。
だが、即座に否定した。
有り得ない。何故ならば自分は、祖父が逝った程度では、絶対に揺らがない精神を祖父に教え込まれたからである。
つまりそんなに弱くはないからである。
2つ目は、
このペンダントは、自分の意志を破る程に強く人を惹きつける何かがあるということである。
だが、このペンダントは、素材こそ最高級で、輝いていて、出来栄えも良いが、これのデザイン自体は、たいして珍しくもなく、大きさを小さく、彫りも粗く、素材も悪くすれば、店頭で500円くらいで売っていそうな物である。
なのでいくら何でも、鍛え上げた自分が、惹かれるはずはない。
しかし、今自分がこのペンダントを左手で握りしめているというのは事実である。
そうして考えていると、何故か、自分は、このペンダントに興味を覚えた。何故?このペンダントは、素材は最高級の物を使っているのに、デザインが、工夫されていないのか?
それは、このデザインが、この最高級の素材に見合うだけの何かのシンボル又は、マークなのではないか?
隼人はそう思った。
しかし、このデザインは円と十字の組み合わせただけの物であり、このようなシンボルやマークなど見たことも聞いたこともない。
そう思いながらペンダントを手に持ちながら改めて見てみたところ、
新たな事に気がついた。
ペンダント自体の厚みが約4センチくらいあるのである。
隼人も、このようなペンダントを見たことがあるが、見たものは大体0,5センチら1センチ程の厚みの物だった。
つまり4センチとは、普通では有り得ない厚さであった。
隼人は、ペンダントの円の中の十字部分を目線に合わせるようにしていた左手をそのままにしながら、胸に当てていた、右手を下ろした。
「・・・・・・痛?」
自分が振り下ろした位置にあった剃刀で右手の人差し指を切ってしまい血が出ていた。
自分が右手を振り下ろした位置すら確認しなかったらしい。
もはや今日の自分は可笑しい。
今日はもう早く風呂に入って寝よう。
そう考え、隼人は右手でペンダントの円の中の十字部分を握って、服を置く棚に入れようとした。
「ドック、ドック」
しかし、ペンダントの変化によってその行為は、中止しなければならなかった。
「!!!!!!!!!??」
隼人が右手で触れた瞬間。ペンダントの十字部分が赤く光始め、更に人間や動物の心臓のようにドクドクと脈打つような音を放ち始めたからだ。
「ドックドック、ドックドックドック」
脈打つような音は、どんどん早くなり、円と十字部分は、純金が溶けそうな程に赤い。
しかし、隼人はペンダントを持っている手を離さなかった。
何故なら、円と十字部分は、純金が溶けそうな程に赤くなっていたが、実際は、先ほどから全く熱の変化が無いためである。
しかも、隼人はもはや今見ているものがわからなかったが、兎に角考えた結果、あれは、普通のペンダントではない。もしかしたら、ペンダントですらないかもしれない。しかも、何が起こるかわからない。
その為、無闇に離せないからでもあった。
「ドクドクドクドクドクドクドクドク」
ペンダントの脈打つような音は更に早くなり、もはや、ゲームの連打のような音になっていた。
「ドクドクドクドクドクドクドクドク・・・・・・・」
ペンダントね脈打つような音は、更に早くなっていった。
そして消えた。
「・・・・・・・・・・・・」
静寂が続いた。
「!!!!!!!!」
いきなり、ペンダントの中心の円の十字部分の真ん中あたりが光を出し、隼人は、咄嗟の判断で、逃げようとしたが、間に合わない。
隼人は、光に包まれた。
もはや、麻羅家の屋敷は、突然、最後の主を失い、誰も居ないこの家は、近所の子供達からお化け屋敷と呼ばれるようになった。
ようやく、隼人の世界が終わります。次からは、異世界物語です。