第九話
「どうした!?」
アテナはいきなり飛び出してきた部下に聞いた。
現在、第二外壁まで後退したフィンドランドアンデルセン城防衛軍・ロンギヌスの援軍はサンベルグ王国軍との互角の戦いを繰り広げていた。
アテナはその指揮の為に第二外壁の内側の一つの大きなテントの中で各部隊に指示を出していたのである。
「ハァハァハァ」
「どうした?」
息を乱している兵士にアテナは淡々とした声でもう一度聞いた。
「はい!報告します!
サンベルグ王国軍が撤退していきます!」
報告しに来た兵士は嬉しそうに声を張り上げながら答えた。
「ご苦労様です。
直ちに全部隊の隊長に報告を。
又、軍議を行うので早急に此処に来るように伝えてください。」
報告を受けたアテナは即座に次の行動を決めて、部下達に命令を下した。
しかし、アテナの内心は複雑であった。
(撤退理由は何だ?)
そう、今の戦況でサンベルグ王国軍が撤退する意味がわからないのだ。
現在、互角といっても、明らかに第一外壁を突破したサンベルグ王国軍の士気は高く、逆にアンデルセン城防衛軍の将軍が暗殺され、更に第一外壁が落とされたアンデルセン城防衛軍の士気は始めの一時期はどん底であり、アンデルセン城防衛軍副将軍クラウディア・テーランドの部隊の活躍によりアンデルセン城防衛軍の士気が上がらなければ互角にはならなかっただろう。
だが、理由は他にも色々とある可能性がある。
アテナは兎に角今は今出来ることをやるために、思考を一時的にシャットアウトした。
そして無意識に天を見た。
勿論テントの中であるため空など見えはしないのに。
「ハァー」
今日二回の溜め息を惜しげもなくアテナは吐いた。
‡
「で、隼人は結局見つかってはいないのか?」
「はい。」
アテナは疲れた様子も見せずにアルテミスに気になっていた事を聞いた。
しかし、その答えは良いものではない。
先程行われた軍議でも、撤退理由はわからないという答えしか無かった。
又、ロンギヌス王国軍の撤退日を決めるなどの事であったが、アテナが余り口を出さなかったためすぐに終わった。
だが、すぐといっても隊長を徴集し又警備を整えた後であったため今はもう夜だ。
「ご苦労だった。
アルミも休め。」
「はい。」
疲れているだろうアルテミスはしかし、素早く返事をして退室した。
バタン
部屋の中はアテナだけである。
ロンギヌス城の中ならば侍女が居るが今は他国だ。
侍女は連れては来れない。
アテナはバタンという音をたててベットに倒れた。
いつもなら決してやらない事だが、今日は疲れた。
明日からは、また忙しくなるだろう。
今日は明日の為に出来るだけ休養をとるべきだ。
アテナは青い瞳を閉じた。
「ん・・・?」
アテナは瞳を開けた。
そして、部屋の中の長剣を取り壁に付いた。
今、何かがバサッと落ちる音が聞こえたのだ。
もう音はしない。
アテナは意を決してテントの扉を開けた。
「・・・・・!」
扉から出たアテナが目にしたのは、幻想的なものだった。
大きな一対の翼に長い一本の尻尾、そして二本の角、それらが全て漆黒である生物だ。
この生物はサンベルグでは、不幸などの負の象徴であり、ドラゴンと呼ばれているが、ロンギヌスでは、守神としてワイバーンと呼ばれている生物だった。
更にその顔を撫でている青年がいた。
青年は身長はアテナより少し大きく見慣れぬ服装であり、又脂肪が無く筋肉だけが付いた様な体をしている。
だか、一番目立つのは彼の自分と同じ金髪だった。
煌めく金髪と碧眼の美青年だ。
「隼人。」
アテナは知らずに口から彼の者の名前をこぼしていた。
声が聞こえたのか、青年はこちらを振り返った。
「アテナの所に居ても良いかな?」
青年――隼人は優しくゆっくりと言った。
「良い。」
アテナは即断して答えた。
空には二つの月と星達が輝いていた。
一旦終わりです。
色々とまとめたり、編集したりしたいと思っています。