第七話
「あの」
「なんだ?」
後ろの部下からの声にアテナは答えた。
「よろしかったのですか?」
「ああ。あれで良い。」
後ろの部下――アルテミスが言っているのは、隼人の事だろう。
「しかし!隼人の実力はアテナ様もご存知の筈です。」
アルテミスは強めに言ってきた。
アルテミスがアテナに意見するのは珍しい。
アルテミスはアテナの幼なじみではあるが初めて会った時から畏まった感じで有った。
「今は戦時だ強い者は出来るだけ居た方がいい。」
「なら何故?」
「確かに隼人は強い。
しかし、仕える気が無いのに無理矢理仕えさせても意味が無い。」
アテナは、後ろのアルテミスに向き直り、強く言った。
「・・・・・わかりました。」
アルテミスは何かを言いおうとしたが、アテナが険しい表情で言っていた為か、言わずに話を終わらせた。
アテナは、アルテミスが言いおうとした言葉はわかっている。
それは、アテナがあのまま逃げても良いと言わずに付いてこさせれば、又アテナが付いてこいと言えば、隼人は付いてきただろう。
つまり、巻き込めたということだ。
そうすれば、隼人は自分を守る為に戦ってくれただろう。
だが、それでは意味が無いのだ。
アテナは、隼人に自らの意志で仕えてほしいと、不覚ながらも思ってしまったのだから。
それに、此処数年間してなかった楽な会話ができた。
アテナは、結構隼人の事は気に入っているのだ。
だからこそ、自分の意志で私の元に、私を護るために来てほしいと思い、隼人に逃げても良いと言ったのだ。
城を出ると、暗闇が待っていた。
まだ、朝日は上ってはいない。
アテナは後ろを振り返った。
後ろには、長弓を持ったアルテミスが付いてきている。
その後ろには、アンデルセン城がある。
アンデルセン城は、騒がしくなっている。
所々に松明が灯り、門番の死体も片付けられ、新しい門番が門を見張っている。
しかし、明かりが灯っているのは一・二階のみであるため、勿論隼人のことなど見えはしない。
アンデルセン城の後ろには、赤と青の三日月や星達が輝いている。
アテナは前を向き、エレンの元へと急いだ。
‡
サンベルグ軍将軍ガドー・サンベルグは苛ついていた。
理由は単純明快である。
外壁の門が何時までたっても開かないからだ。
ガドーは自らも関わった工作部隊をアンデルセン山脈からアンデルセン城に侵入させた。
普通の兵ならアンデルセン山脈を通り抜けアンデルセン城に侵入するなど不可能だが、アンデルセン城進行の為に作られたこの部隊は山の中のサバイバルを基本に育て上げた部隊である為、この侵入を可能とするとガドーは考えていた。
工作部隊は120名であるため半々に分けた左右からの侵入だ。
第一目標は門を開ける事だ。
第二目標は要人の暗殺である。
特にアンデルセン城防衛軍将軍の暗殺は重要性の高い任務だ。
右手から向かった第一部隊は門を開ける。
左手から向かった第二部隊は要人を暗殺。
終わり次第、他の部隊の援護と工作部隊は撤退。
これが工作部隊の筋書きであった。
つまり、筋書き通りならば今頃門は開いている筈なのだ。
しかし、門は開いていない。
これは工作の失敗を意味する。
ガドーはサンベルグ王国では第三位と王位継承権が低い。
ガドーにとって、このアンデルセン城攻略は絶対に失敗してはならない戦いだった。
「門はまだ開かぬのか!?」
ガドーは将軍補佐の任を受けた隊長に怒鳴った。
「はい。未だに。」
隊長は縮こまりながら答えた。
「チッ」
ガドーは舌打ちして隊長を睨みつけた。
先の地震によって門を開ける右手の部隊が壊滅状態に陥っていること。
既に左手の部隊がアンデルセン城防衛軍将軍を暗殺したが、部隊がロンギヌス王国第一近衛騎士団に駆逐されたことをガドーは知る由もない。
‡
「アテナ様!」
エレンが呼んでいる。
アテナとアルテミスはエレンのいる外壁の近くに着いた。
エレンが此処に居るということは刺客の掃討がすんだという事だ。
「エレン。
私達も援護に行くぞ。」
アテナの声は叫んでいる訳ではないのに良く耳に届いた。
「はい。」
エレンは明るく返事をした。
「全員外壁に登りフィンドランド軍を援護しろ!」
アテナの言葉を聞いてアルテミスが部下達に指令を出した。
部下達は早足で外壁まで行くと急ぎ足で援護するべく外壁を登って行く。
勿論、アルテミスとエレンもついて行く。
アルテミスが率いる第一近衛騎士団は団長たるアルテミスが得意なためか長弓やバリスタなどの遠距離武器を使う者が多い。
その為か、男女比はかなり女に傾いているが、アルテミスは全く気にしてはいない。
だからといって弱いわけではない。
アルテミス直伝の弓は強い。
アルテミスは、自らが編み出した技能を部下に教えるため、毎日の鍛錬は剣より弓の方が多くしているほどだ。
勿論、騎士団であるため馬上からの弓も正確に相手を射抜くための練習を行っている。
だからといって、剣が弱いわけでもない。
剣の鍛錬も多くしている。
つまりは、ただ剣よりも弓の方が強いという部隊なのだ。
アルテミスの第一近衛騎士団はこの戦いの後に最も弓の名手が集まる部隊として名を広めることとなる。
「撃てー!」
アルテミスは一列に並んだ部下達に一斉射を命じた。
アンデルセン城防衛軍もこれに習い弓を一斉に弓やバリスタを撃つ。
矢は一直線、又は弧を描きながら飛んでいく。
そして悲鳴が鳴り響く。
第一近衛騎士団の矢は首や頭などの防具の隙間に突き刺さる。
アンデルセン城防衛軍の矢は防具に当たり、敵兵の負傷は軽微だ。
練度が明らかに違う。
最初の一斉射の後に部下達は次々と敵兵を射抜いていく。
勿論アルテミスも正確無比の矢裁きで敵兵を射抜いていく。
敵は、攻城搭を押し立てているが、バリスタによって次々と崩れ去っていく。
バンーー!!
バリスタの攻撃範囲の攻城搭が全て崩れたときその音は響いた。
その音は重たく低い音だった。
‡
バンーー!!
その重たい地震のような音が鳴り響いた時、アテナは外壁の近くで各部隊の報告を受けたり、命令を下したりしていた。
今では、アンデルセン城防衛軍副将軍がアテナの指揮下にあるため、此処が本陣の様なものだ。
「今の音は何なんだ?」
アテナは近くにいた兵士に尋ねた。
「報告します。
第一門が落ちました。」
答えは、走ってきた兵士から返ってきた。
アンデルセン城は2つの外壁と2つの門に守られている。
第一門は吊り橋のような門だ。
それが突破された。
つまりは一番強固である第一外壁が意味を成さなくなった事になる。
普通の指揮官ならば混乱しそうなこの状況でアテナは直ぐに決断した。
「第一外壁を放棄します。
全軍第二外壁まで撤退。」
「はい!」
アテナの即断に兵は直ぐに全力疾走で各部隊に伝えに行った。
「ハァー」
アテナは滅多に出ないため息を零した。
その時、
ヒュー
風が突き抜けた。
一瞬地面に大きな翼が映った。
アテナは空を見上げた。
空は明るくなり始め朝日はもう顔を出していた。
すいません。
最近調子が悪い為、ハッキリ言って長くありません。
次こそは長くしたいと思います。