やってみます?
廊下を進む。
旧校舎に来るのは初めてだ。
全体的に建物に古さを感じる。当たり前か。
もともと新校舎が建てられた時に取り壊す予定だったそうだが、今の校長がこれから部活動に力を入れると言い出し、何かに使えないかと残したそうだ。
今は様々な文化系倶楽部の部室になっている。
教室の中を覗くと数人の生徒たちが何かをしている。
それらを横目に見ながら突き当たりの教室へとやってくる。
「ここは以前は地学室だったそうだが」
野村から貰った紙を見る。
「TRPG同好会か」
俺はそうつぶやくと扉の前に立ち、小窓から中の様子を伺う。
誰もいない? 休みか?
扉に手を掛ける。
鍵はかかっていない。
「失礼しまぁ~す」
俺は小声でそう言いながら扉を開く。
扉は建て付けが悪いのか大きな音を立て、俺の声をかき消す。
中はがらんと広い。
元地学室だった為か、壁には星座を表した図? だったり地層を示した図のようなものが貼られている。
そんな中、ひとりの女生徒が窓際に椅子を置いて座っていた。
短く切り揃えられた黒髪は若干前髪が長めで度のきついメガネに掛かっている。
俺が入ってきたことに驚いたのか、先程まで読んでいたであろう本で口元を隠している。
結果、前髪、メガネ、本の完全防備によってその素顔は伺い知れない。
TRPG同好会って、真面目そうなメガネ率100%の男子生徒のみとかだと思っていたが、女子生徒が一人しかおらず、急に緊張してくる。
と言っても、現状メガネ率100%は当たっていたが。
「すみません。やっぱり人がいたんですね。あの、TRPG同好会の方ですか?」
彼女は本をたたむとそれを胸元に抱える。
まるで俺を警戒し、俺から身を守る盾にするように。
そして彼女は小さな、でも美しい声でこちらに返事をする。
「はい、そうですけど。何かありました?」
「えっ? あー、実はTRPG同好会に少し興味がありまして。どんなところかなと。見学とか出来たらなぁと思ってたんですけど」
「見学ですか。そうですか、良かった」
「良かった?」
「いえ、生徒会の方かと。以前、会員数1人の同好会がこんなに広い部屋を使っているのはどうかと言われたことがあって」
「あー、なるほど」
それで警戒されていたのか。
「でも見学と言われても、私一人で本読んでるだけなので。つまらないと思いますけど」
「えっ、TRPGしないんですか?」
「あー、ですよね。しますよTRPG。すみません、ずっと一人だったので。TRPGってさすがに一人では出来ないので。いや一人用もあるんですけどね」
「すみません、俺、TRPGってやったこと無くて。なんとなくどういうものかってのは知ってるんですけど」
「じゃあやってみます? TRPG」
そう彼女は言うと手に持っていた本の表紙を見せてきた。
そこにはTRPG用ルールブックと書かれていた。