54.要塞都市攻防戦④
時は僅かに遡り、リア達が要塞都市へ向かうよりも以前。
リアが通常魔術の習得に向けて、修行を始めた頃まで遡る。
リアはヴィーリルと、レイズからの要請を受けて自由都市へリアに会いに来ていたスノウ―――フェンリル研究機関の支部長である才女を交えて、通常魔術の訓練を行っていた。
「ん~~。結論から言うと、リアちゃんに通常魔術は扱えないわね」
「えっ」
「……は?いや、出来てるだろ?」
スノウの唐突な発言に、ヴィーリルが訝し気な表情を作る。それもその筈で、現に僕はヴィーリルの指導の下で、一般的な攻撃魔術を扱えるようになっていたのだが……
「リアちゃんのソレは、見た目が通常魔術に似ているだけね。エルフ魔術の外側だけを人族の通常魔術に似せているだけだから、多分"エルフ封じの結界"とやらの中では使えないわよ?」
「えー……それは、訓練や技術で解決出来る問題でしょうか?」
「無理。そもそも、エルフと人では魔力のベースが全く違うのよ。砂糖と塩どころか、水と砂ぐらい根本的に別物だから、リアちゃんでは逆立ちしても通常魔術は使えないわよ」
スノウの断言に、リアと特に意味の無い訓練をさせてしまっていたヴィーリルが肩を落とした。
しかし、そんな二人にスノウは顎に指を当てながら指摘する。
「―――要するに、リアちゃんは"エルフ封じの結界"内での切り札が欲しいって話よね?それなら通常魔術なんかより、よっぽど効果的な方法が有るわよ?」
「えっ?」
「はっ?」
「ヴォーデンが使う"エルフ封じの結界"。それに、奴らの優位性の要である"不可視の障壁"。この二つは多分、どちらもエルフ魔術がベースの技術よ。なら、同じエルフ魔術の使い手であるリアちゃんなら干渉も容易い……とまでは言わないけど、突破口は見つけられる筈よ。……というか、もう見つけてるわ」
そう告げると、スノウは手持ちの鞄から何やら分厚い書類を取り出して、リアへと手渡した。
「これは……?」
「根本的に情報が足りていないから、確実性はお察しだけど……まあ、お守り代わりにね。使用者はリアちゃん限定。可能な状況は"エルフ封じの結界"内のみ。笑えるぐらい限定的だけど"不可視の障壁"破りの反抗魔術よ」
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「これで、最後ッ!!」
「合わせろ!ジュウロウッ!ヴィーリルッ!」
『仰せの通りに、お姫様!』
「流石にそれは気持ち悪いです!ヴィーリル!」
フィークズルの"不可視の斬撃"を回避しつつ、残った最後の取り巻きである黒衣の男の"不可視の障壁"を僕の手が砕く。
そして、それに合わせてジュウロウとヴィーリルが斬撃と狙撃で、無防備になった敵を撃破した。
「ぐっ……調子に乗るなよ、エルフ!」
仲間を失い、一人になったフィークズルだったが、当然の如く投降などせず、僕達に向けて"不可視の斬撃"を放つ。
「リア、アレは壊せないのか?」
「……"不可視の障壁"と違って失敗したら即死だぞ?ぶっつけ本番で試すのは最後の手段にしたいな」
「りょーかい。まあ、前回も何とかなったんだ。今回はヴィーリルも居るし、サクッと片付けてやるよ」
ヴィーリルの狙撃が"不可視の斬撃"に弾かれるのに合わせて、剣と刀を構えた僕とジュウロウがフィークズルに向けて疾走する。
「舐めるなと言ったぞ!"不可視の障壁"を破った程度で勝ったつもりか!」
「舐めてんのはそっちだろ?3対1なんだから、安心してボコられな!」
「……とは言っても、手の内がバレている以上、安易に僕を近づかせないだろうな。どうする、ジュウロウ?」
僕の言葉に、ジュウロウが悪童めいた意地の悪い笑みを浮かべる。
「簡単さ。"近寄ってぶった切る"。最強の聖騎士が一番得意な由緒正しい戦法だ」
「了解。ノープランだな」
「作戦なんざ無くても勝てるって言ってんだよ。俺とお前ならなっ!!」
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「……む、思ったより時間が掛かってしまったな」
要塞都市の外縁部。
その圧倒的な質量を以てして、都市を蹂躙しようとしていた鋼鉄の巨兵達は、更なる圧倒的な暴力―――聖騎士序列第一位"聖剣"エルセルクの剣によって、物言わぬ残骸と化していた。
「ジューローとリアルドはまだ向こうか?仕方ない、私は先輩だからな。手を貸してやらなければ―――」
「―――おや、これはこれは。フィークズル君の様子を見に来てみれば、面白いことになっているじゃあないか」
エルセルクの耳に、場違いな程に穏やかな男の声が届く。
声の方向へエルセルクが視線を向けると、そこには上等なスーツを着込んだ、身なりの良い青年が穏やかな笑みを浮かべていた。
「む……誰だお前は?」
「バルヴェルと言う。お会い出来て光栄……と言いたい所だが、申し訳ないが私は君の事が嫌いなんだ"聖剣"殿。素晴らしき人間の世界に紛れ込んだ"不純物"め」
ヴォーデン"改革派"首魁。"禍を引きおこす者"バルヴェルと、聖騎士序列第一位"聖剣"エルセルクが荒野にて邂逅を果たした。




