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52.要塞都市攻防戦②

 



「ジューロー!本当に久しぶりだな。君が聖騎士団を辞めて以来になるか?」

「……ああ、久しぶりだな。エルセルクさん」

「他人行儀な呼び方は止してくれ。エル(ねえ)と呼べといつも言っていただろう?」

「……はあ、分かったよ。エル姉」



 ガチャガチャと甲冑の関節部を鳴らしながら白銀の騎士―――最強の聖騎士であるエルセルクが(リア)達の前へと駆け寄ってきた。

 聖騎士団の中でも、特に僕とジュウロウを買ってくれていた恩人でもあり、同時に様々なトラブルにも巻き込んでくれた女性との唐突な再会に、僕は内心の動揺を隠して、彼女への対応に思考を巡らせる。


 ―――しかし、そんな僕の思惑は、彼女の次の一言で粉微塵に打ち砕かれた。



「―――それにリアルド(・・・・)も!私は君が無事だと信じていたぞ!」

「ッッ!?」



 グレートヘルムから覗く黄金の瞳が、僕をまっすぐに見つめていた。



「……何言ってんだエル姉。どこをどう見れば、こいつがリアルドになるんだ?」



 あまりにも唐突な事態に、言葉を失ってしまった僕をジュウロウが咄嗟にフォローする。



「何を言っているジューロー?どこからどう見ても……ん?少し雰囲気が変わったかリアルド?」

「な……何やら人違いをされているようですが、僕はリアと言います。貴女が言う"リアルド"という方ではありませんよ」

「むぅ、しかし……」

「それよりもエル姉、なんでアンタがこんな所(要塞都市)に居るんだ。聖騎士が一人でこんな国境付近に来るなんて普通じゃないぞ」



 尚も食い下がってくるエルセルクに、ジュウロウは無理やり話題を変える。強引過ぎる誤魔化し方だったが、彼女は、その……頭脳が常人よりも少しだけ奇抜な構造をしているので、アッサリとジュウロウの誘導に流されてくれた。



「……私が要塞都市に来たら不味いのか?」



 何を聞かれているのか分からない、といった様子でエルセルクがジュウロウに問い返す。ジュウロウは眉間を指で押さえながら問いを重ねた。



「……アルヴィズ団長はお前がここに居ることは知ってるのか?」

「……なんでそこでだんちょーが出てくるんだ?」



 ……言葉は通じるのに話が通じていない感覚に、聞いてて頭が痛くなってきた。

 これ、完全に無断行動(いつものやつ)だ。後処理をさせられるであろうアルヴィズ団長の心労が偲ばれる。



「……いや、もういい。エル姉と話したいことは色々有るが、見ての通りちっとばかし立て込んでてな」

「ああ、このでっかい人形(ムスペル)とかか?」



 エルセルクは自らが一刀両断した鉄巨人の残骸をチラリと見やると、世間話のような気軽さでジュウロウに問うた。



アレ(・・)は二人の敵か?」

「……そうだ。詳しいことは話せねえがな」

「分かった。なら、外の二体は私に任せろ」



 すると、僕達の返事を待たずにエルセルクは一足飛びで、建造物の屋根へと飛び移ると、要塞都市の外縁へ向かって駆け出した。



「久しぶりに会えて嬉しかったぞジュウロウ、リアルド。また後で話そう」

「お、おい!ちょっと待てよエル姉ッ!……あの馬鹿、相変わらず人の話を聞きやがらねえな……」

「……だけど、この状況では本当に頼もしい人だよ。後処理をさせられるであろうアルヴィズ団長には同情するけどね」



 エルセルクが走り去っていった方角を見つめながら、ジュウロウは深い溜息を吐いた。しかし、彼女がこの圧倒的な劣勢を覆せる心強い増援であることには違いない。僕はアミュレットを通して、ヴィーリルに通信を繋ぐ。



「聞いていたかヴィーリル。外の巨人は彼女に任せて大丈夫だ」

『"アレ"が噂の聖剣サマねぇ。まあ確かに、あの怪物なら外は任せられそうだ。それじゃ、俺達は要塞内のヴォーデンを排除するぞ』

「「了解!」」




 **********




「こ、こいつ等!草原の異民族(ステップ)の工作員か!?」

「剣も魔術も弾かれるぞ!一体どうなって……ぎゃあっ!」



 要塞内に防衛隊の兵士達の怒号と悲鳴が木霊する。

 "不可視の障壁"を破る事が出来ない彼等とヴォーデンの戦闘員達の交戦は、戦いと呼べるようなものにもならなかった。

 死体が転がる通路を歩く一人の青年―――フィークズルの背後に、一人の男が音も無く現れた。



「―――ベイトか。貴重な兵隊を二枚も獲られたそうだな」

「返す言葉も無いな。だが、朗報は持ってきたぞ。アンタが恋焦がれているエルフが釣れたぞ」

「そうか。要塞内に散っている部隊を集めろ。破壊工作は一時中断だ」

「おいおい、いいのか?」

「元々今回の作戦の本命は奴ら(エルフ)だ。要塞都市の攻略なんぞ、エルフとフェンリルどもを仕留めてからでも構わん。……それに、厄介な奴も来ているようだしな」

「"聖剣"か。おたくも運が無いねぇ」

「あれは天災だ。気にしても仕方あるまい。外の巨人兵(ムスペル)は時間稼ぎに専念させておけ。二騎程度では、まともにぶつけてもアレの相手にならん」

「ああ、既に巨人兵(ムスペル)の思考コアに指示は出してあるから心配無用だ」



 フィークズルとベイトが会話を交わす間に、要塞内に散っていたヴォーデンの戦闘員達が二人の前に集結した。10人足らずの寡兵(かへい)で、要塞内の兵士全てを相手にしていたにも関わらず、その誰もが負傷どころか、身に纏った黒衣に返り血の一つすら付けていなかった。



「待っていろ"ユグドラシル"。片腕の借りは返させてもらうぞ」




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