47.リアちゃんち
「いやあ、相変わらずお美しい。どうでしょう?再会を祝して一緒にディナーでも」
「貴様も変わらんなヴィーリル。リアとジュウロウが世話になったようだな。感謝する」
「おっと、相変わらずのスルー力。レイズ部長もお変わりないようで」
フェンリル自由都市支部にて。道中でマフィアの追手による襲撃等のトラブルは有ったものの、その全てを撃退して無事に北部を脱出した僕達は、ガロガロとヴィーリルを連れて、レイズさんに任務の報告を行っていた。
「それで、俺はこれからどうすればいいんで?急な支援要請だったから、流れで北方支部から、こちらまで同行しましたが」
「北部の国境付近は現在、先の一件でごたごたの真っ最中だ。ほとぼりが冷めるまでは、こちらの所属で動いてくれ。貴様は元々北方支部専属という訳でも無いし、問題無かろう?」
「りょーかい。ガロガロの姐さんは?」
「私はフゥリィと組んで別件の調査。しばらくは自由都市中心で動くから、よろしくねリアちゃん、ジュウロウ」
微笑んでこちらに手を振るガロガロに、僕も笑みを浮かべて応じる。
「何はともあれ、四人ともご苦労だった。次の指示は追って連絡しよう。退がってよろしい」
「はいよ。それじゃ、任務完了の打ち上げと行こうか。ジュウロウ、旨い店でも案内してくれよ」
肩に腕を回してきたヴィーリルに、ジュウロウは顔をしかめる。
「あぁ?何で俺が……」
「あっそ。リアちゃーん、君の相棒はグズってるから、俺達だけで……」
「分かった分かった!連れてきゃいいんだろ!」
「素直で助かるよ。美人の店員が居ると尚良しだ」
二人のやり取りに、僕とガロガロは苦笑を浮かべると、彼等の後に続いて執務室を後にする。
「打ち上げに行くのは構わないが、一緒に連れていきたい子が居るんだ。構わないか?」
「勿論。俺は構わないぜ」
「あら、誰かしら?フゥリィ……では無いわよね?」
僕の言葉に、怪訝な表情を浮かべるガロガロとヴィーリルを余所に、僕とジュウロウは支部内のある一室へと歩みを進める。
「ええ、しばらく一人にしてしまったから寂しがっていると思うので」
「――だな。早い所、顔を見せてやるとするか」
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「ママっ!パパっ!」
「ただいま、ノルン。良い子にしてたかい?」
「うんっ!フゥリィが暇そうにしてたから、一緒に遊んであげたりしてたよ!」
「おう、そうかそうか。偉いぞノルン」
とある一室――僕達が任務に出ている間、ノルンが預けられていた部屋へと顔を見せると、ノルンはぱぁっと花が咲くような笑顔で僕の胸に飛び込んできた。
「パパ……?やっぱりジュウロウとリアちゃんってそういう……」
「おいおい、あの歳で人妻かよ。たまんねえな」
「予想通りの反応ありがとよ。言っておくが誤解だからな」
明らかに面白がっている反応の二人に、ジュウロウが律儀に突っ込みを入れている間に、僕はノルンを抱き抱えながら、話をする。
「ノルン、あっちの二人はパパとママの仕事仲間のガロガロとヴィーリル。これから皆でごはんを食べに行くから、ノルンも一緒に行かないかな?」
「うん!一緒に行くっ!」
「という訳だ。子供が一緒でも大丈夫そうな店で頼むよ、ジュウロウ」
僕がそう声をかけるも、ジュウロウとヴィーリル達は、話に夢中で僕の声が耳に届いていないようだった。
「……で、実際の所どうなの?一緒に暮らしてるんだし、リアちゃんの事、憎からず思ってるんじゃないの?」
「相棒としてな?言っておくが、男女云々としては何とも思ってねえからな」
「え、一緒に暮らしてるのに手を出してない?あんな美人に?……お前、もしかして"ソッチ"の趣味が?悪いが、俺は女じゃないと駄目なんだが……」
「ぶっ殺すぞ」
その様子に僕は溜息を一つ吐くと、手を鳴らして彼等の会話を打ち切った。
「盛り上がっている所すまないが、続きは食事をしながらにしないかい?」
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「いやあ、美人の看板娘に上手い飯。文句無しの名店だな!」
「前者はともかく、後者に関しては素直に誉め言葉として受け取っておくよ」
ヴィーリルの言葉に苦笑を返しながら、僕はテーブルに料理を並べる。
「悪いわねリアちゃん。任せっきりにしちゃって」
「気にしないでくださいガロガロ。ノルンも居るし、早く家に戻りたかった僕のワガママを聞いてもらってるだけですから」
僕達はガロガロとヴィーリルを連れて、自由都市での僕達の拠点である邸宅へと彼等を招いていた。ノルンも居るし、ここなら他人に気を遣う必要も無かったので、フェンリルの身内だけで集まるのなら、他所の店よりもある意味都合が良かったのだ。
「リア、つまみは俺が作っとくから、お前も座って飲めよ」
「ん、そうだね。それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
「パパ、私もお手伝いする!」
「おう、それじゃあノルンも一緒に料理するか」
そう言いながら、厨房へと向かうジュウロウとノルンの背を、僕は微笑ましく見つめる。まだ一年と過ごしていない自由都市ではあるが、目の前の光景には"帰るべき家"という温かな感覚を確かに感じていた。
「……なあ、どう思う姐さん?」
「第一子に恵まれたばかりの新婚夫婦の家にお招きされたって感じかしら」
「だよなぁ」
……背後で、何やら聞き捨てならないガロガロとヴィーリルの会話が聞こえた気がした。




