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39.ジュウロウパパ

 



「お疲れ、ノイマン。この後は空いてるか?奢ってやるから飲みに行こうぜ」

「いいんですか、ジッパさん?」

「おうよ。今回の功労者はお前だしな。先輩として、有望な若手を労っておかないとな」



 自由都市の一角にて、二人の冒険者――ジッパとノイマンが連れ立って歩く。

 二人はここ一週間程度に渡って、自由都市を離れてギルドの依頼に従事していたのだ。



「最近、随分と気合が入ってるじゃないか。何かあったのか?」

「……ええ、まあ。色々と思う所がありまして……」



 ノイマンは、ジッパからの質問を曖昧な返事で濁す。その心の内では、彼の憧れの女性――冒険者ギルドの職員であるリアの姿を思い描いていた。



(久しぶりに自由都市に戻って来れたけど、今日はリアさんに会えなかったな……)

「いやあ、残念だったなあノイマン。久しぶりにギルドに顔出したのに、憧れのリアちゃんの顔が見れなくて」

「――ぶっ!?な、なんで……!?」



 突然のジッパからのキラーパスに、ノイマンは目に見えて動揺する。実力こそ"準獅子級"と呼ばれる程の凄腕だが、こういった若者らしい脇の甘さも持ち合わせているのが、冒険者仲間達から彼が可愛がられている所以なのだろう。



「見てりゃ分かるっての。あれで隠せてると思ってんなら相当だぞ?」

「うぐっ……」

「まあ、外野が口出すことじゃねえけど、リアちゃん狙うならライバルはジュウロウだぞ?面倒な相手に惚れちまったなあ」



 ニヤニヤと楽しげに頬を緩めるジッパに、ノイマンは誤魔化せない事を悟って溜息を吐いた。



「関係ありませんよ、そんなの。ライバルが誰だろうと、俺がリアさんを好きなのは変わりませんから」

「おほー、言うじゃないの。まっ、そこら辺の話は酒場で――――おっ、噂をすれば何とやら、だな」



 ジッパ達の前方に、今まさに二人が話題にしていた見目麗しい少女――冒険者ギルドの職員であるリアの姿が、街角から現れたのが見えた。少女の姿を確認して、露骨に動きが固くなるノイマンの姿に、ジッパは思わず苦笑を浮かべてしまう。



(……よし、ここは可愛い後輩の為に一肌脱いでやるか)



 リアも酒場に誘って、自分は適当なタイミングで消えることで、ノイマンとリアが二人きりになれる場面を作ってやろう。柄にも無くそんな事を考えながら、ジッパはリアに声をかけた。



「よっ、リアちゃん。久しぶり」

「あっ、ジッパさん。それにノイマン君もお久しぶりです。二人とも依頼で自由都市を離れていたんですよね?ご無事だったみたいで安心しました」



 にっこりと笑顔を向けてくるリアに、ノイマンは緊張からの喉の渇きを感じつつも、平静を装って返事をしようとする。



「ええ、リアさんもお元気そうで――――」

「ママ~、この人だぁれ?」



 ビシリ、とバジリスクの魔眼で睨まれたようにノイマンの動きが固まる。ギギギ、とぎこちない動きで彼が視線を下――幼い声が聞こえた方へ向けると、そこにはリアの足にしがみ付く黒髪の少女の姿があった。



「えっと、この人達は……その、マ……ママ、のお友達のノイマン君とジッパさん。ほら、ノルンもご挨拶して」

「うん。はじめまして。ノルンです」

「……お、おう、俺はジッパ。こっちの固まってるのはノイマン。よろしくな、ノルンちゃん」



 あまりの展開に石化してしまったノイマンに代わって、ジッパがノルンに挨拶をすると、リアに顔を寄せて耳打ちをする。



「……リアちゃん。この子(ノルン)は?」

「えーっと……ちょっとした事情で、親戚の子供を預かることになりまして……」

「……だよなあ。リアちゃんが産んだ子供にしては大きすぎるもんな」

「産っ……!?へ、変なこと言わないでくださいよ……!」



 事情を聞いて得心したジッパは、未だ石化しているノイマンに説明をしようとしたのだが……



「――ん?おお、ジッパにノイマンじゃねえか。自由都市に戻ってきてたんだな」



 リア達に少し遅れて、ジュウロウが彼女達(リアとノルン)の後ろから現れると、ジッパは彼に向けて手を振る。



「おう、ジュウロウ。(ジッパ)もノイマンも、ついさっき依頼を終えて戻ってきた所で――」

「パパ、パパもジッパさん達とお友達なの?」

「パッ……!?」



 ノイマンの脳が壊れる音が聞こえた気がしたジッパであった。




 **********




「パパは止めろっての……ああ、泣くな泣くな。分かったよ。パパでいいよもう」

「パパっ!」



 パパと呼ぶことを許されたノルンが、太陽の様な笑顔を浮かべてジュウロウの腰に抱き着く。外から見る分には非常に微笑ましい光景だが、ママ役が自分(リア)だと考えると、何とも言えない複雑な気持ちになってしまう。



「あの、ところでノイマン君はどうしたんですか?急に反応が死にましたが……?」



 ノルンの姿を見た途端、まるで石像にでもなったかのように固まってしまったノイマン君に、僕は怪訝な表情をしてしまう。もしかして、子供が苦手だったりするのだろうか?



「お~い、ノイマン?……駄目だこりゃ。ノルンちゃんのパパママ発言で完全に脳が破壊されちまってる」

「はぁ、脳が?」

「まあ、ノイマンにも色々有るんだよ。こっちは(ジッパ)が何とかしておくから、リアちゃんは気にしないでくれ」

「わ、分かりました。えーっと、ノイマン君、またね?」



 虚ろな目をしたノイマン君が、ジッパさんに引き摺られていくのを見送ると、僕とジュウロウはノルンに急かされるように家路へと歩き出した。



「ママ、今日のご飯は何作るの?」

「今日は良い鶏肉が買えたから、シチューにするよ。ノルンはシチューは好きかな?」

「好きー!パパ、今日のご飯はママのシチューだって!」

「あーはいはい。良かったなノルン。沢山食って大きくなれよ」



 ――――夕暮れ時を並んで歩く三人の姿は、控えめに言って仲睦まじい親子にしか見えなかったらしいが、それはまた別の話である。




次回更新は10/20の17:00頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脳破壊ご馳走様ですw
[良い点] どう見ても川の字。 ( ^.^)人(^.^ )
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